トリスタンとイゾルデの観劇を終え、おかげさまで、これで遂にバイロイト音楽祭で上演されるワーグナーの10作品全てを観ることができました!2013年、2014年、そして2017年と5年越しでの達成です!

 

ニーベルングの指環はもちろん1つの作品ですが、4夜に渡る作品なので、ここでは4作品としました。

 

 

(参考)2013年~2017年のバイロイト音楽祭でのワーグナー観劇の記録


(2013年)

ローエングリン

https://ameblo.jp/franz2013/theme15-10101206983.html

タンホイザー

https://ameblo.jp/franz2013/theme13-10101206983.html

さまよえるオランダ人

https://ameblo.jp/franz2013/theme11-10101206983.html

 

(2014年)

ラインの黄金

https://ameblo.jp/franz2013/theme13-10101206957.html

ワルキューレ

https://ameblo.jp/franz2013/theme11-10101206957.html

ジークフリート

https://ameblo.jp/franz2013/theme7-10101206957.html

神々の黄昏

https://ameblo.jp/franz2013/theme4-10101206957.html

 

(2017年)

パルジファル

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12309926460.html

ニュルンベルクのマイスタージンガー

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12311108974.html

トリスタンとイゾルデ

 
 

どれもとても思い出深い公演ですが、特にパルジファルとニュルンベルクのマイスタージンガー、タンホイザーが、音楽と演出の絶妙な融合により、非常に感激した公演でした!バイロイト音楽祭を一通り経験でき、今は「最高のワーグナーを体験できた!」という思いでいっぱいですが、どうしてそういう思いに至ったのか、どんな理由でそう思うのか、現場での経験を踏まえ、バイロイト音楽祭について実感したことを、以下の通りご紹介します。

 

 

最高のワーグナーを上演するために、最高の指揮者、演奏者、歌手が集結

 

これは誰も異論がないと思います。指揮者は超弩級の実力派の方ばかり。クリスティアン・ティーレマンさんを2回聴けた(さまよえるオランダ人/トリスタンとイゾルデ)のは大いなる喜びでしたが、現在、最も話題となっているキリル・ペトレンコさんのニーベルングの指環を4夜聴けたのも素晴らしい体験でした。まだそこまでブレイクしていなかったペトレンコさんを2013年のワーグナー生誕200周年の記念の指環の公演に抜擢したのも、音楽祭の慧眼でしょう。そして新日フィルに客演される我らがハルトムート・ヘンヒェンさんの骨太の堂々たる指揮のパルジファルは本当に感動的でした!オケは言うまでもなく、全ドイツの精鋭の演奏者が集まって最高の祝祭管弦楽団を形成します。

 

歌手は世界中からワーグナーを得意とする旬の歌手や若手の実力派が集まります。今をときめくクラウス・フローリアン・フォークトさんを2回(ローエングリンとヴァルター)聴けたのは最高の思い出になりました。アンネッテ・ダッシュさんのエルザ、カミッラ・ニールンドさんのエリーザベト、ゲオルグ・ツェッペンフェルトさんのグルネマンツ、アンネ・シュヴァンネヴィルムスさんのエーファなどなど、素晴らしかった歌手を挙げれば切りがありません。残念ながらお亡くなりになられた、ヨハン・ボータさんの素晴らしいジークムントを聴くことができたのも感慨深い。同じく素晴らしかったアニア・カンペさんのジークリンデと最高のカップルでした。

 

 

オーケストラと歌手のバランスが絶妙

 

これはバイロイト祝祭劇場が有名な奈落のオケピットを持つことから実現しています。ワーグナーのオーケストレーションは大編成のオケ、強烈なフォルテで、時に歌手の声をかき消してしまうリスクもありますが、一段下の奈落から、くゆらすように立ち上る音は、ちょうど良いバランスを保ち、しかも、非常にクリアに聴こえるのです!

 

 

ワーグナーしか上演しない音楽祭

 

当たり前ですが、これも大きいと思います。他の作曲家のことは一切考えず、音楽祭に従事する方全員が、ただただ最高のワーグナーの上演に向けて力を合わせます。

 

 

1つの作品を同じ演出で5年間連続で上演、指揮者や歌手も毎年同じ場合が多い

 

基本的に1つの作品が上演されると、5年連続で舞台にかかることも大きいと思います。初年度に不十分だったところを翌年に修正したり、時間をかけて熟成・進化させることができます。ジークフリート第3幕の名物のワニは、5年目の今年はとうとう6匹にまで増え、しかも3世代になったとか(笑)。指揮者も基本は毎年同じ、変わってもキリル・ペトレンコさんの後がマレク・ヤノフスキさんだったり、実力派揃いです。歌手はそれに比べると入れ替わりがあるようですが、いずれにしても旬のワーグナー歌いの歌手が揃います。

 

 

舞台を非常に観やすい劇場

 

通常のヨーロッパの歌劇場だと対面のボックス席(しかも2列目以降は全然見えなかったりする)が多いですが、ここはほぼ平土間で観やすく、さらに客席が横に長く縦が短いので、舞台が本当に近く感じます。声がよく届くのはもちろん、どんな演技がついているのか、とても把握しやすいです。

 

 

字幕がない

 

これもかなり大きな要因だと思います。字幕がないので、観客は完全に舞台に集中することとなり、演技の細かいところまで確認できます。必然的にドイツ語圏以外の観客は、歌詞を丸暗記する準備が必要となりますが、逆にそれは作品への理解を深めます。以前、リッカルド・ムーティさんがスカラ座の来日公演で字幕なしにしたことがあったと思いましたが、私もこれに賛成です。

 

 

ただただワーグナーを観るためだけの目的で、バイロイトにまでやって来る観客、世界中のワーグナー愛好家

 

バイロイトのまち自体はそれなりに見どころのある魅力的な観光地ですが、観光目的でバイロイトに来て、ついでに音楽祭も、という人はまずいないでしょう。そもそもチケットが取れません。つまり、観客は音楽祭でワーグナーを観る目的でバイロイトに来た人しかいないのです。必然的にワーグナーを愛している人、大好きな人、作品を熟知している人しかいないので、ワーグナーに対する尊敬の念や温かさを雰囲気として体感します。

 

ここが、個々の作曲家、というよりは音楽祭自体を楽しみに来ている人が多いザルブツルク音楽祭の観客との決定的な違いだと思います(観劇する作品への理解度がバイロイトと全然違う)。そんな雰囲気、つまり周りがワーグナーの愛好者だらけの中での観劇は、何とも言えない喜びの雰囲気(バイロイトでワーグナーを観るんだ、という期待感が半端なく伝わってきます)と、身が引き締まる緊張感(周りはワーグナー好きの猛者(笑)だらけ)に包まれ、観劇の喜びを高めます。

 

 

休憩時間がちゃんと1時間ある

 

これは新国立劇場と同じ(というより、新国立劇場がバイロイト音楽祭に倣っているものと思われ)ですが、休憩時間がしっかり1時間あるのは嬉しい限り。どうしても長丁場となるワーグナー観劇、集中力を保って最後まで観劇するには、十分な休憩が必要です。休憩時間の食事も楽しみの一つ。

 

 

周りに何もない劇場の立地

 

バイロイト祝祭劇場はバイロイトの旧市街の中心とは駅を挟んで反対側の小高い丘の上にポツンと建っています。もちろん音楽祭の時は周りにレストランやショップもありますが、基本的には緑豊かな環境の中に劇場だけポツンとあるイメージです。これは観劇に集中するしかありません。なお、幕間の1時間に、この緑の中を散歩するのは本当に心地良いリフレッシュになります。

 

 

周辺の観光地が限られるバイロイトの立地

 

これは拙ブログの直近のホーフ観光の記事で書きました。本当に周りの観光地が限られるのです。しっかり観劇に集中せよ!というワーグナー大先生のお達しですね。個人的には今度またバイロイトを再訪できたら、今回のホーフみたいな掘り出しものまちを必ず見つけるぞ!と、虎視眈々と狙っていますが(笑)。観劇はバッチリ集中して観ているので、どうかお許しを~。

 

(参考)2017.8.16 ホーフ観光

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12311937772.html

 

 

ワーグナーの作品に別の角度から光を当て、新たな魅力を引き出し、気づきを与えてくれるチャレンジングな演出

 

バイロイト音楽祭では、ものの見事にオーソドックスな演出はありません。これについては批判もあるところですが、私は一通り観て、これこそがバイロイト!という思いを強くしました。世界中でワーグナーが上演されていますが、仮にバイロイトが保守的でオーソドックスな演出ばかりするようになったら、どうなるでしょうか?今以上にバイロイトに集中して、他の劇場が成り立たなくなってしまうかも知れません。もっと大きいのは、ワーグナーの上演史が停滞してしまう危惧が生じます。

 

ワーグナーが創った本家本元の音楽祭であり、最高の指揮者・演奏者・歌手を集め、10年待ちでも厭わずにチケットを求める人が絶えないバイロイトだからこそ、攻めた演出ができる、撃って出て行ける、こう考えます。指揮者・オケ・歌手に恵まれない劇場が頑張って攻めた場合、もし微妙な演出だったら、お客さんが入らず、劇場が傾いてしまうかも知れませんが、バイロイトの場合、そういうリスクが全くないのです。

 

攻めた演出であれば、毎回毎回、絶賛という訳にはなかなか行かないと思います。中には、失敗というレッテルを貼られる演出もあるでしょう。しかし、リスクを取らなければ、失敗こそないかも知れませんが、大成功もありません。そもそもワーグナーの音楽自体が形式にしろ、和声にしろ、ライトモチーフにしろ革新的なものであり、劇場も、みなが平等に舞台を観ることができるようにオペラ座のようなボックス席を排したり、見えないオケピットにしたり、そもそも専用の劇場を造ったり、やることなすこと革新的な内容です。

 

そのような革新的な、時代を切り拓くようなものに重きを十分に置く価値観や理念が、ワーグナーのDNAとして脈々と受け継がれているのが、このバイロイト音楽祭だと考えます。私も最初はその革新的な演出にとまどいましたが、経験を積ませていただいて、観劇の姿勢が変わった、(本当に手前味噌で恐縮ですが)成長した、より広い視野で観ることができるようになった気がします。

 

もし、オーソドックスな演出で最高のワーグナーを観たいのであれば、例えばニューヨークのメトロポリタン歌劇場(MET)を観に行けばいいのです。METは運営資金を提供するスポンサーや会員の意向でオーソドックスな演出が好まれ、そういう演出が多いと聞きます。それはそれで、一つの歌劇場のあり方、個性だと思います。東京の映画館でも、METのオペラを観る企画がとても盛況のようですね。

 

また、新国立劇場も世界的に見て大変レベルの高い上演を続けていると思います。ワーグナーは初代のニーベルングの指環を除けば、概ね穏当な演出なので、これからもきっと親しみやすいと思います。(私は逆に初代の指環の演出が大好きでした。森の小鳥の被り物と消防服、もう最高でした!(笑))

 

世界中のオペラハウスが決して金太郎飴にはならず、個性を競い合って、いろいろなワーグナーを上演する、その多様性こそが、ワーグナーの上演をより一層進化させることにつながると思います。

 

 

 

以上の実感・感想・印象をもって、バイロイト音楽祭のワーグナーがなぜ最高だと思うのか、率直に感じたところを書かせていただきました。この記事が、読まれた方の観劇人生やワーグナー鑑賞のご参考に、ほんの少しでもなれば幸いです。

 

 

 

さて、バイロイト音楽祭でワーグナー10作品をコンプリートできたのは身に余る光栄なので、何かワーグナーに恩返しをしたいと思いました。何をしたら恩返しになるのか?さんざん考えましたが、結局、私にできるのは、下手の横好きではありますが、ピアノを弾くことしかありません。ワーグナーの作品を弾いて、ワーグナーに敬意を表しながら恩返しをして、また、より一層ワーグナーへの理解を深めたいと思います。

 

10作品目がトリスタンとイゾルデというのも何かのご縁。ということで、トリスタンとイゾルデの前奏曲と愛の死を練習しようと思います。両方とも以前に部分的に弾いたことはありますが、難しい曲なのでいつの間にかフェードアウトしてしまいました…。今回は2曲ともちゃんと仕上げることができればと思います!

 

 

 

(写真)トリスタンとイゾルデ/前奏曲 (コチシュ編)から好きな数小節。「愛のまなざしの動機」の2回目が始まるところ。画面の2小節目の3音目(左手ファ#、右手ミミファ#)の痺れる和声!こういうのが次から次へと出てくるので、トリスタンとイゾルデは堪(こた)えられないのです。ゾルターン・コチシュさんのシンプルですが奥深い編曲も素晴らしい。本当に惜しい方を亡くしました。改めて合掌。

 

 

 

(写真)トリスタンとイゾルデ/愛の死 (リスト編)から好きな数小節。中盤の盛り上がり、イゾルデが“Seht ! Fühlt und seht ihr’s nicht?”(見て!それが感じられないのですか?)と歌うところ。リストお得意のトレモロ満載の編曲が凄すぎます!右手はほとんど乳酸との闘いですね(笑)。一応シャープ5つのロ長調なのですが、さらにシャープやナチュラルが入って、もはや調性は分かりません。非常に官能的な音楽です!