760.泣きながら食ム(はむ)ノ巻 | フランス絵巻き

フランス絵巻き

南仏コートダジュール・画家よんじょう

フランス絵巻き 諸君は、泣きながら、モノを食うたご経験はアルカネ?
ワサビがツーンの時じゃなくて、悲しくて悲しくて、泣き泣き、食物を胃袋に詰め込んだ、って意味よ。
そういえば『失恋レストラン』という歌が大ヒットした時代があったわね。
歌手はお縄がまわっちゃったけどね。
♪ぽっかり空いた胸の奥に詰め込む飯を食べさせる♪んでしたっけ。スラスラと歌詞が出てくるもんね、乳母に教わったんだけどね。三つ子の魂百までとはよういうたもんやわ。
しかし、悲しい時に食べる飯は、砂を噛む如くヨネ。本当に何の味もしないのよ。悲しい出来事は時間とともに薄れていきますけど、完全に忘れ去ったハズのものが、隅っこのほうで何年も物も言わずに残ってたりもしますよね。イカの墨袋みたいに、人間にも涙袋があるんじゃないかしら。
何かの拍子にパっと袋が破れると、哀しみの湖から怒涛のように溢れてきましょ?悲しみの濃度はホトンド変わっていない事にも愕然としますよね。
意味がわかんない?アンタ、ほんま青いわ。
さて、泣きながら食う場面は、小説で出てきたのよ。泣いていたのは73才のオジイサン。軍人で連隊長だった人ですから、人前で泣くなどという不埒千万なことは本来あり得ないんですけど、妻に死なれて6年後、孫ほど年の離れた恋人ができて、はじめて人間らしい幸せを味わっていた矢先、彼女が急死したのです(快気祝いをした数時間後にクモ膜下で急死)。
死体の横で悄然としたまま、何んにも食べずにいるお祖父さんを心配して、実孫(男ン子)が、通夜で取り寄せた寿司(海苔巻)を無理やり口に押し込むんですわ。オジイサンは、無表情なまま口を動かして、無理に嚥下して、大粒の涙をこぼすのです。懸命に食べながら涙だけがポタポタ落つる。
恋人が死んだ事だけじゃなくて、老いた自分が生き残った残酷や無情やサマザマな想いが、生きる哀しみの涙になってるんですよね。
私のイカ墨はこの場面でも破裂して候。
(ストーリーを割愛してますけど、エロ爺様じゃないンヨ)
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