毎回、「あ~、良いSF読んだぁ!」という気分にさせてくれる作品は少ないです。伴名さんは、そんな気分にさせてくれる数少ない作家のひとりですが、如何せん寡作な人です。
 なんせ、2010年に『少女禁区』でデビューし、2019年に『なめらかな世界と、その敵』(本ブログでも紹介)、2022年に『百年文通』(しかも電子書籍のみ)と、3冊しかないんです。

 アンソロジーや雑誌には、そこそこ寄稿しているようなので、書籍化を待ちたいところです。(アンソロジーは好きではないので…。)

 本書も、電子書籍だけではなく『ベストSF2022(竹書房文庫)』で読めました。アンソロ嫌いの私でも、本作は、当該書籍の4分の1ほどを占めていましたので、手に取ることができました。

 本作は『コミック百合姫』という雑誌の表紙に、1年にわたって掲載されたそうです。

『百年文通』あらすじ

 主人公、小櫛一琉(こぐしいちる)は、モデル事務所に所属する中学三年生。モデルといっても、いつのまにか妹の方が有名になってしまい、彼女のオコボレで仕事をしているような状態です。
 その日も、妹の撮影の合間に、とある旧邸宅を見学しているとき、ふと部屋に置かれた机を開けたところ、引き出しに一通の手紙をみつけます。どうやら、昔この家に住んでいた女性の書いたものらしい、とまでは推測できましたが、旧字体であり、しかも流麗な筆文字のため読めません。わからない文字に付箋を貼り、スマホで解読を試みますが、「これも、もしかして展示品の一部では?!」と思い、あわてて引き出しにしまい直します。そこで付箋をはがし忘れたことに気づき、再度引き出しを開けますが、先ほどの手紙は消え、代わりにあったのは「誰ですか?」と一行書かれた一筆箋。差出人は、百年前の中学二年生、日向静(ひなたしず)。
 

 そこから、机を介した二人の文通が始まります。妹からもし心配されるほど、一琉は百年前の少女との文通にのめりこみました。
 ふとある時、一琉は「百年前」という事実に引っ掛かりを覚え、過去の歴史を調べます。そして〈スペイン風邪の大流行〉を知り、過去の日向邸の関連記事を調べたところ、百年前の日本ではやったスペイン風邪により、現在の文通相手である静が、まもなく亡くなってしまうことを知ります。

 百年という時を挟んだ友情と、その喪失!?

 かとおもいきや、そのことを伝えられた静は、「これが歴史なら、思うさま壊し尽くしてさしあげましょう。手伝ってくださる?」と宣言します。

 ここから、一琉と静の、日本全体を巻き込む怒涛の大作戦が始まります。

 その後も、コロナの流行と絡むストーリーが展開しますが、少女二人は、実にたくましく駆け抜けていきます。

 冒頭には、アイデアの元となったジャック・フィニィのSF「愛の手紙」の一文が引用されていますが、最後は、ジャック・フィニィもかくや、と思わせる展開となってます。

 ぜひ読んでほしいので、ネタバレはしません。自分で読んで、ビックリしてください。