以前ならトラックの運転手さんら御用達といった雰囲気の
おかずを選んで自分で運ぶ形式の食堂が人気だ。
近所にも出来たので家人と行ってみた。
(デリケートな問題の為、人間関係以外の設定は架空のものです)
私達は秋刀魚、その他おかずを酎ハイなどと食すべく卓についた。
そこへ有名な宇宙飛行士の女性が現れた。
面識はないが、ファンなので話しかけてみようかと思った所、
一緒にいた男性はこれ又有名な宇宙ステーションのオーナーであった。
彼は家人と知り合いであり、私達も何度かステーションを訪れていて、
お互いに顔見知りである。
彼らはやはり旬の秋刀魚などを取り分けていたが、私達に気付くと
挨拶もせず、視界に入らない場所を選んでそそくさと座った。
「…。」
こちらは呆気に取られてしまったが、とにかく食べるものを食べていると、
秋刀魚をそんなに急いで食べては骨が喉に引っかかってしまうのでは、
と心配してしまう位の短時間で食事を終えた彼らは、これ又挨拶もせず
店を立ち去ったのであった。
後で彼らは道ならぬ恋人同士であることを家人に聞き、
「話し掛けなくて良かった…」と安堵した。
程なくステーションに客を紹介する用事ができた相方が
オーナーに電話すると、
「うん、うん、もう最高級の場所に案内するからさ~
絶対任しといてよ!!」
と普段泰然とした紳士としてマスコミに登場している彼からは
想像もつかない狼狽振りだったらしい。
これは去年のお話で、その食堂はもう、ない。
あの熟年の恋人達は今年はどんな秋刀魚を食していることであろうか。