日本経済新聞2006年6月11日
がん予防㊤食生活編:10ページ
人間の体は約60兆個の細胞からできている。毎日、200個に1個の割合で古くなった細胞が死んでいき、細胞分裂で同じ数だけ新しい細胞に生まれ変わる。この時、活性酸素が遺伝子を構成するDNAを傷つけると、正常な細胞が突然がん細胞に変わる。
長年、ビタミンCはがん予防効果が大きいとされてきた。活性酸素を退治する抗酸化作用や免疫力を高める効果があるためだ。
厚生労働省研究班(主任研究者・津金昌一郎国立がんセンター予防研究班部長)の疫学調査によると、胃がんになるリスクの高い萎縮性胃炎患者がビタミンCを摂取することで病気の進展が抑えられることが分かった。「胃の中で発ガン物質ができるのを抑制しているようだ」(津金部長)
野菜の中では、キャベツやブロッコリーに含まれる成分が調理や消化の過程で分解してできたイソチオシアネートと呼ぶ物質が細胞のがん化を防ぐ効果があることが動物実験で示唆されている。発がん物質の解毒酸素の働きを強める。厚生労働省研究班の調査でも、胃や大腸のがんになった人たちはブロッコリーの摂取量が少ない傾向が見られた。
緑黄色野菜もがんリスクを下げる効果が期待されている。ベータカロチンと呼ぶ物質に抗酸化作用があるからだ。中国でベータカロチンを摂取したグループと偽薬(プラセボ)を摂取したグループを比較した疫学調査では胃がんのリスクが20%減った。
しかし、米国などの研究者が肺がんの予防効果を調べると優位性が認められず、むしろベータカロチンでのがんの発症が増えるという「不思議な」結果になった。食事で摂取する量に比べて大量のベータカロチンをとったことが原因と見られている。過剰な摂取はむしろ逆効果になる。
大腸がんのリスクを減らすといわれてきた食物繊維だが、最近では異論でもでている。食物繊維単独による効果というより、むしろ、野菜などに含まれる複数の栄養素ががんリスクを減らすという考え方が広がりつつある。
豆腐や納豆に含まれるイソフラボンは、乳がん予防に効果がある可能性がある。女性ホルモンのエストロゲンに似ており、この働きを抑えると考えられるからだ。40歳-59歳の日本人女性約2万を十年間追跡したところ、イソフラボンの摂取量が最小のグループに比べて最大のグループでは乳がんリスクが半減した。
がん予防に効果的とされる食べ物はいくつかあるが、いったいどこまで信頼できるものなのか。
世界保健機関(WHO)や国際がん研究機構(IARC)などが組織した委員会が、がん予防に関する世界中の科学論文を評価したところ、がんを防ぐ可能性が高いものは「野菜・果物」だけだった。ある特定の食材や栄養素ががんを予防できる科学的な確証はまだ得られていない。
いろいろな種類の野菜や果物を毎日少なくとも400グラムとり続ける。とくに野菜は毎食とるのがよい。この食生活を続けたならば、がんリスクは必ず下がるというのがこれまでの疫学研究からわかった結論だ。(合田義孝)
今日のお勉強でした