今年は、ANAのパイロットにとって、試練の年かもしれません。
6月20日、13時22分頃、成田空港A滑走路上で、北京発の全日空956便:B767-300型機(登録記号:JA610A)が着陸の際、ハードランディングとなり、胴体の一部が変形する航空事故を起こしました。
【You Tube動画:全日空機、着陸時に損傷 けが人なし、調査官派遣 】
全日空の当初の発表では、この事故で怪我人はいないとのことでしたが、その後、客室乗務員4名と乗客5名が衝撃によって、捻挫などの怪我を負っていたことが判明しています。

▲バウンドしたために、タイヤが接地した白煙が、滑走路の二箇所で上がっています。(You Tubeより)
また、ハードランディングしたJA610A号機を点検した結果、外板だけではなく、機体フレームにも、ゆがみや亀裂が見つかったとの報道もあります。

▲▼バウンドした際、ノーズギア(前脚)から落着した影響のためか、主翼前方あたりの胴体上半分に皺がよってしまったANA956便。画像上が胴体右側、下が胴体左側となります。(You Tubeより)

ANA956便が着陸する際に、成田空港では強風が吹いていたとのことで、接地寸前に風に煽られ、大きく姿勢が乱れたためにハードランディングとなり、機体を損傷したものと思われていますが、事故当時の気象情報をNOAA(アメリカ海洋気象局)のデータから見てみましょう。
▼NOAA 公式サイト
http://www.aviationweather.gov/adds/metars/
▼事故発生時の成田空港 METAR(定時航空実況気象通報)
RJAA 200400Z 22014G27KT 170V250 9999 FEW025 BKN180 28/22 Q0998 WS R16R NOSIG RMK 1CU025 5AC180 A2947
RJAA 200430Z 23016G29KT 9999 FEW025 BKN/// 28/21 Q0998 WS R16L NOSIG RMK 1CU025 A2948
なにやら意味不明な呪文のようですが、これは飛行場が毎時(成田空港では30分毎)に飛行中の航空機に向けて送信している、自動通報式の気象情報となります。
冒頭の「RJAA」が成田空港、「200400Z」は6月20日(月は省略)のZULUタイム(UTC:国際標準時)0400時、つまり、日本時間(JST)の午後1時となります。事故が起きたのが、20日の午後1時22分ということで、0400Z(1300JST)と0430Z(1330JST)のMETERを抜き出してみました。
まず青文字の風の情報を見ると、午後1時のMETERでは、22014G27KT 170V250=風向220度、風速14KT(約7m/s)、ガスト(突風)27KT(約14m/s)、風向が170度~250度の範囲で不定であることを現しています。
午後1時30分には、23016G29KT=風向230度、風速16KT(約8m/s)、ガスト(突風)29KT(約15m/s)とさらに風が強くなっています。
注目すべきは、赤文字のWS=wind shear(ウィンドシア:風向風速の急変)が午後1時に事故が起きた滑走路16Rに、午後1時30分には滑走路16Lで観測されていることです。ウィンドシアは着陸する航空機にとって、最も恐ろしい気象現象で、過去、多数の旅客機が、ウィンドシアのために、致命的な事故を起こしています。
B767「Flight Crew Training Manual」によると、オートランド(自動着陸)時の向かい風制限は最大34kt、横風・追い風の制限はおのおの最大25ktとのことで、これからみても、事故当時の成田空港は、かなりシビアな気象条件であったことは確かなようです。
※ANA956便が事故当時、オートランドを利用していたのか、マニュアルによる着陸だったかは、現時点では不明です。
【ANA956便:ハードランディングの分析】(画像は全てYou Tubeより)
①最初のバウンドは完全に右主脚一本だけでジャンプしています。

②そのまま、前のめりに前輪から接地して、反動で機首がバウンドした後、続けて両主脚が接地します。

③両主脚が接地した後、機体が再びバウンドに入りますが、左のタイヤは滑走路に接地したままなので、機体は左に傾いています。この直後にエンジンカウルのスリーブが開いて、スラストリーバーサが作動していることから、バウンドした時点でも、パイロットにはゴーアラウンドする意思はなかったものと推定されます。

④最後に接地したままの左主脚をピボットとして、前輪、右主脚の順で、かなり強めに接地し、主翼から前の胴体部分が激しく上下に震動したのが分かります。また、スリーブが完全に開いて、スラストリバーサーの作動音が聞こえます。この数回の激しい衝撃で胴体に皺が入ってしまったようです。

ハードランディング(ボーポイズ)に至った経緯は、今後の国土交通省「運輸安全委員会」の調査を待ちたいと思いますが、一部報道に見られる、「そもそも、あんな強風で降りようとした、パイロットの判断ミスではないのか?」という見解には、foxtwoは賛同できません。
空港や機体、また自らの操縦技量の制限範囲内であれば、悪天候の中でも安全、確実に着陸できるのが、プロのエアラインパイロットと言えます。
残念ながら、今回は、何らかの原因で事故になってしまったとは言え、定期便のパイロットは趣味で飛んでいるわけではないので、シップ(機材)の定時制を確保するために、このような悪天候下でも、安全に着陸できるだけの訓練を積んでいます。
論より証拠、今回の件と同じ全日空の、機体も同じB767-300型機で、強風の富山空港へ着陸する様子を、素晴らしいアングルで捉えた動画をご覧頂きたいと思います。
▼撮影時の富山空港METAR
RJNT 040400Z 25015KT 9999 FEW015 BKN025 BKN050 17/11
ガストこそ観測されていないものの、風の条件はANA956便の成田のMETARと良く似ています。荒れ狂う気流の中、機体をクッションランディングさせるための、接地寸前の絶妙なコントロールと、(パイロットには見えないはずなのに!)前輪を滑走路のセンターラインのど真ん中に下ろす、プロの技に脱帽!!!(^^)!
【You Tube動画:ANA Boeing 767-300 JA8287 CROSSWIND LANDING TOYAMA Airport,JAPAN 富山空港 2012.5.4 】
6月20日、13時22分頃、成田空港A滑走路上で、北京発の全日空956便:B767-300型機(登録記号:JA610A)が着陸の際、ハードランディングとなり、胴体の一部が変形する航空事故を起こしました。
【You Tube動画:全日空機、着陸時に損傷 けが人なし、調査官派遣 】
全日空の当初の発表では、この事故で怪我人はいないとのことでしたが、その後、客室乗務員4名と乗客5名が衝撃によって、捻挫などの怪我を負っていたことが判明しています。

▲バウンドしたために、タイヤが接地した白煙が、滑走路の二箇所で上がっています。(You Tubeより)
また、ハードランディングしたJA610A号機を点検した結果、外板だけではなく、機体フレームにも、ゆがみや亀裂が見つかったとの報道もあります。

▲▼バウンドした際、ノーズギア(前脚)から落着した影響のためか、主翼前方あたりの胴体上半分に皺がよってしまったANA956便。画像上が胴体右側、下が胴体左側となります。(You Tubeより)

ANA956便が着陸する際に、成田空港では強風が吹いていたとのことで、接地寸前に風に煽られ、大きく姿勢が乱れたためにハードランディングとなり、機体を損傷したものと思われていますが、事故当時の気象情報をNOAA(アメリカ海洋気象局)のデータから見てみましょう。
▼NOAA 公式サイト
http://www.aviationweather.gov/adds/metars/
▼事故発生時の成田空港 METAR(定時航空実況気象通報)
RJAA 200400Z 22014G27KT 170V250 9999 FEW025 BKN180 28/22 Q0998 WS R16R NOSIG RMK 1CU025 5AC180 A2947
RJAA 200430Z 23016G29KT 9999 FEW025 BKN/// 28/21 Q0998 WS R16L NOSIG RMK 1CU025 A2948
なにやら意味不明な呪文のようですが、これは飛行場が毎時(成田空港では30分毎)に飛行中の航空機に向けて送信している、自動通報式の気象情報となります。
冒頭の「RJAA」が成田空港、「200400Z」は6月20日(月は省略)のZULUタイム(UTC:国際標準時)0400時、つまり、日本時間(JST)の午後1時となります。事故が起きたのが、20日の午後1時22分ということで、0400Z(1300JST)と0430Z(1330JST)のMETERを抜き出してみました。
まず青文字の風の情報を見ると、午後1時のMETERでは、22014G27KT 170V250=風向220度、風速14KT(約7m/s)、ガスト(突風)27KT(約14m/s)、風向が170度~250度の範囲で不定であることを現しています。
午後1時30分には、23016G29KT=風向230度、風速16KT(約8m/s)、ガスト(突風)29KT(約15m/s)とさらに風が強くなっています。
注目すべきは、赤文字のWS=wind shear(ウィンドシア:風向風速の急変)が午後1時に事故が起きた滑走路16Rに、午後1時30分には滑走路16Lで観測されていることです。ウィンドシアは着陸する航空機にとって、最も恐ろしい気象現象で、過去、多数の旅客機が、ウィンドシアのために、致命的な事故を起こしています。
B767「Flight Crew Training Manual」によると、オートランド(自動着陸)時の向かい風制限は最大34kt、横風・追い風の制限はおのおの最大25ktとのことで、これからみても、事故当時の成田空港は、かなりシビアな気象条件であったことは確かなようです。
※ANA956便が事故当時、オートランドを利用していたのか、マニュアルによる着陸だったかは、現時点では不明です。
【ANA956便:ハードランディングの分析】(画像は全てYou Tubeより)
①最初のバウンドは完全に右主脚一本だけでジャンプしています。

②そのまま、前のめりに前輪から接地して、反動で機首がバウンドした後、続けて両主脚が接地します。

③両主脚が接地した後、機体が再びバウンドに入りますが、左のタイヤは滑走路に接地したままなので、機体は左に傾いています。この直後にエンジンカウルのスリーブが開いて、スラストリーバーサが作動していることから、バウンドした時点でも、パイロットにはゴーアラウンドする意思はなかったものと推定されます。

④最後に接地したままの左主脚をピボットとして、前輪、右主脚の順で、かなり強めに接地し、主翼から前の胴体部分が激しく上下に震動したのが分かります。また、スリーブが完全に開いて、スラストリバーサーの作動音が聞こえます。この数回の激しい衝撃で胴体に皺が入ってしまったようです。

ハードランディング(ボーポイズ)に至った経緯は、今後の国土交通省「運輸安全委員会」の調査を待ちたいと思いますが、一部報道に見られる、「そもそも、あんな強風で降りようとした、パイロットの判断ミスではないのか?」という見解には、foxtwoは賛同できません。
空港や機体、また自らの操縦技量の制限範囲内であれば、悪天候の中でも安全、確実に着陸できるのが、プロのエアラインパイロットと言えます。
残念ながら、今回は、何らかの原因で事故になってしまったとは言え、定期便のパイロットは趣味で飛んでいるわけではないので、シップ(機材)の定時制を確保するために、このような悪天候下でも、安全に着陸できるだけの訓練を積んでいます。
論より証拠、今回の件と同じ全日空の、機体も同じB767-300型機で、強風の富山空港へ着陸する様子を、素晴らしいアングルで捉えた動画をご覧頂きたいと思います。
▼撮影時の富山空港METAR
RJNT 040400Z 25015KT 9999 FEW015 BKN025 BKN050 17/11
ガストこそ観測されていないものの、風の条件はANA956便の成田のMETARと良く似ています。荒れ狂う気流の中、機体をクッションランディングさせるための、接地寸前の絶妙なコントロールと、(パイロットには見えないはずなのに!)前輪を滑走路のセンターラインのど真ん中に下ろす、プロの技に脱帽!!!(^^)!
【You Tube動画:ANA Boeing 767-300 JA8287 CROSSWIND LANDING TOYAMA Airport,JAPAN 富山空港 2012.5.4 】