Whisper -前編-
けれど、当時はとてもきらびやかだった。
栄枯盛衰…栄えればいずれは衰える
この遺跡が何故滅びたのか…
それは、遺跡のあちこちに見られる跡ですぐ分かる。
これらの跡は魔物の襲撃によるものだ
この城が滅ぶとき、誰一人生き残りがいないとも囁かれた
けれど…事実は…
Whisper
その町には教会のすぐ隣に孤児院が傍にあって、その向こう側に小さな城があった。
彼は城で働く人々に憧れを抱いてた子供だった。
孤児であり、突出した実力もないただの子供。
城で働くことなど決して叶わないと知っているからこその憧れ。
「ここから、城の中にいけるんだぞ」
偶然見つけた穴を指差して彼がいうと、彼女は困ったような顔をした。
彼女はどちらかと言うと裕福な店の娘で、将来の為に教会にいる。
孤児院育ちで盗みをしている彼とは天と地の差があるけれど、お互いに何となく気があったようだ。
その道が王族の秘密の脱出口だとは知らず、彼は彼女を誘って中に進んでいた。
隠し通路の出口であるこの道を警備するのはありえない。
そして、今この場には私以外誰もいない。
「何故そんなところにいる。」
注意すると二人の子供達は驚いて立ち止まった。
壁伝いを歩く間は透明になれる魔法が込められたマフラーを使っている。
だから誰にも姿が見えないはずだと思い込んでいる。
神に仕えたり、精霊を操る術に長けているものがある術を使えば見つかるかもしれないが、
術を用いることなく判断したからこそ驚いたのだろう。
その表情すら、私の目にははっきりと映る。
透明の術など私の目には何の意味もない。
私の名は、ウィス。
城に仕える騎士団員の一人である。
「なんだ…ウィスじゃん…。」
安堵した表情で少年が呟いて、マフラーを外す。
それを真似て少女もマフラーを外して恥かしそうにしている。
人間の観察で騎士という役目が休みのときに、よく街に出かけて知り合った子供たちだ。
よりにもよって、こんな日に城に来るとは…此処で会うとは思わなかった。
「ど、どうかしたんですか?」
不安げに少女が私を見る。
城の騒ぎはもうすぐ此処まで来るだろう。
この場所からひどく近い建物に王座があり、私がいるこの場所には秘められた宝がある。
魔物には重大な意味を持つ力を秘めたものが…。
「はやく遠くへ逃げろ。」
何故そんなことを言うのか分からないといった顔をしているのは私か、子供達か。
そんなこと、どちらでもいいから早くいなくなってほしい。
来た道を戻れと指示を出すが、子供たちは不審に思うだけで動こうとはしなかった。
だんだん音が大きくなる。
子供達も異変に気が付いたようだ。
突然、大きな音がしたので振り向けば、立ち上ったのは大きな炎。
一体何が起こったのか、子供達には分からないだろう。
ただ、分かるのは戦闘が行われているということ。
もう一度声をかけた。
「逃げろ」
厳しい声音でいったのがよかったのか、子供達が慌ててきた抜け穴を通ろうとする。
だが、遅かった。
城の警備たちが防ぎきれなかったのが此処までたどり着き、子供達の行く手を炎の壁でふさいだ。
誰だと振り向けば、そこにいたのは空を飛ぶ紅のドラゴン・デリーター。
そして、その身は小さくても、鋭い鎌をもつ悪魔・ミニデモ。
気が付いたら、此処まで着ていて囲まれていた。
どうすればいいかと、私は向き合う。
「何をしている!」
ミニデモの背後から切りかかったのは、騎士団の同僚。
モンスターの壁を抜け、私の隣に滑り込む。
私の影にいる子供達を見て、私の戸惑いを納得したようだ。
「おいおい…まじかよ。」
困ったというのを隠さないのだが、どこかおどけた口調でそんなことを呟く。
彼はいつも元気なフリで全てを誤魔化そうとする。
彼がその身に漂う濃厚な死の気配。
切りかかられたミニデモは、それほどダメージを受けていないようだ。
舌打ちをしながら、真面目な顔で現状を告げる。
「プリースト達は向こうに行ってる。」
ここに救援がくるかどうかほぼ絶望的だということだ。
何故、この同僚が此処に着てくれたのかは、分からない。
けれど彼が死を決意して此処にいることは、その背にある大きな傷で分かった。
かなり深いキズで、プリーストであろうともその傷を直すには何度もヒールをかけねばならないだろう。
そして、傷口は変色していることからいって、毒が回っているのだろう。
死の恐怖を耐え、死を覚悟して、なお私を助けに着たのかと思うと複雑な気分になる。
モンスターの壁を抜けても、プリーストが残っているかどうかは分からない…。
転送魔法で別のところにすでにいってるかもしれない…。
子供達は絶望的な状況に泣くことすら諦め、その表情は恐怖に歪んでいた。