Color’s Word -13ページ目

Hatii -前編-

その白の草原には、優しい狼が居た。
氷の毛並みの美しく強い狼は、その平原が気に入りだった。
狼の住む土地に渡ってきた人々はその土地が気に入り、欲しくなった。
人々はと狼は協定を結び、その平原で生きていた。

身に余る魔力を人々は怯え、それゆえ孤独を感じていた少女がいた。
狼は、孤独を抱える少女を守ろうとしていた。
自らが人と交われないことを知っていた狼は遠くから見守っていた。
この土地は少女の孤独を消せないと知りながらも狼は、少女を守っていた。


Hatii

「あぁぁぁぁぁぁ~~~~~寒い寒い!!!」
 吹雪の中を歩いている二人組みの一人が叫んだ。
「なんで、俺達はわざわざ寒い中、吹雪を歩いてるわけ?」
「ルティエは此処を越えなければいけない。」
 それは分かっていると乱暴に答える。
 吹雪で近くにいても声が届かないと叫んでいる。
 叫ばないと自ら放つ言葉さえ何を言ってるか判断できないほどだ。
 それなのに、相手の声はいつもと変わらない声音で、綺麗に聞こえる。
「そもそも、こっち何かあるわけ?」
 答えない相手をみて、ため息をつく。
 ルティエに行こうと言い出したのは相手のほうなのに行く理由を何一つ言わない。
「いつもいつも…」
 愚痴を言おうとして、相手の様子がおかしいことに気が付いて足を止める。
 静かにと言われ、まねをするように黙り込んで様子を窺うが、
 見えるのは風に煽られて舞う真っ白な雪。
 聞こえるのは吹雪の音だけである。
 じっと待っていても何も返されないので不思議そうに言葉を放つ。
「どうかしたのか?」
「聞こえないか?」
 尋ねられても聞こえるのは強さを増した吹雪のうるさい音だけである。
 特に変わったこともない。
「何が?」
 聞こえないならいいと、諦めたように先を進む。
 何のことやら分からないまま、追いかけているとふと視界に人影が見えた。
 立ち止まってそれを見つめると、相手も見てることに気が付いたのか慌てたように姿を消した。
 じっとその影の居た場所を眺めていると…獣の影が見えた。
 母から受け継いだ力のある片方の瞳が獣が睨んでいると告げていた。
 不可解さを感じつつも、置いていかれることに不安を感じて慌てて追いかける。

「ルティエか…」
 町にたどり着いて、少しだけ荷物を降ろす。
 先ほどまでの猛吹雪とこの町の装飾のギャップに驚いてしまう。
「なんと言うか賑やかだよなぁ…。ウィス」
 隣に何事もなかったかのように町の人々を眺めるウィスに向かって声をかける。
 ウィスのほうは別に何を感じないのか、ぼんやりとみていた。
「この時期は町の生誕という意味もあるから、多くの人が観光に来る。」
「俺より詳しくないか?」
 俺は、こう見えても吟遊詩人を気取っている。
 多くの書物を読み、多くに知識を得、人の話から町の状況も聞いたことがある。
 それなのに、他者との接触が少ないウィスのほうが詳しい。
 これはなんかむかつく…。
「知識と経験の差。」
 さらっと言われた言葉は確かに納得するものではあるが…納得できない部分もある。
 悔しい思いをしながら宿を確保するために町を歩く。
 宿を見つけて、部屋を取ろうとしたものの満室だった。
「宿はいっぱいだってさ」
 お手上げだと手を上げてウィスに伝える。
 ウィスは分かっていたかのようにさらりと頷く。
「この時期は仕方ない。」
「仕方ないってなぁ!どうするんだよ。宿がないんだぞ、何処で寝るんだよ。この寒い中!」
 温かいなら野宿という手もないこともないが、あいにく此処ルティエは寒い。
 此処で野宿したら凍死してしまうのは目に見えている。
 無言で示された方向は、おもちゃ工場。
 今はモンスターの居る場所であり、温かいけれど死の確率等を考えると、
 野宿するのとそれほど変わらないほどの危険でもある。
「はい!?おもちゃ工場だって!?モンスターが徘徊してるって聞いただろ?」
 モンスターと呼ばれる種族はそれぞれだ。
 人に近いものも居れば遠く離れているものもいる。
 俺は半分だけとはいえ月夜花の血が流れていて、
人の身に宿っているが、ウィスはれっきとした魔に属するウィスパーだ。
 俺たちがモンスターに攻撃対象として映るかどうか半々だ。
 運がよければ好意的に迎えられるかもしれない。
「凍死よりましだろう?」
 確かに言われれば、凍死よりましかもしれないが…
「でも、外聞とか…」
 外聞なんて旅人には関係ないものだが、あまり広まるのは得策ではない。
 おもちゃ工場へ向かうウィスを慌てて引き止める。
 どうしてだと不思議そうなウィス。
 もう少し人間のことを考えろと言いたい。
 この調子で生活していたのかと考えると…複雑な思いだ。
「だから…もう少し町で聞いてからにしよう。そっちは最後の手段で。」

Payon -Memories-

思い出は時間がたつほど綺麗だと言われる。
それは悲しい記憶だけを忘れて
幸せだけを覚えていくからだ。

幼い頃に目に映るものは、
全てが新しく、記憶には残らない経験となった。
傷ついたこともきっと思い出になれば、
綺麗な記憶になるのかもしれない。


Memories

 自分の生まれた町にいい思い出があるかといわれれば
 答えることが出来る答えは、よかった思い出なんて一つもなかった。
 それだけかもしれない。

 俺はフェイヨンダンジョンと呼ばれる区域で育った。
 物心付いた頃には、自分が周りとは違うんだと分かっていた。
 けれど皆は優しくて、その場所に光が少なくても、とても温かかった。
 いつもはお父さんに連れられて外に出ているけれど、
 その日だけは一人で出て町へ行った。
 一人で出歩くのは初めてだった。
 歩くたびに目に映るものが新しいものへと切り替わって楽しかった。
 同じような年の子供が遊んでいたので、混ぜてもらおうとした。
 けれど、石が飛んできた。
 僕の瞳が違うから。
 人間と月夜花の子供だから。
 違うから…
 それだけで、嫌われた。
 逃げるように、フェイヨンダンジョンへ戻った。
 怖かった。
 投げられる石よりも、言葉が痛かった。
 目が怖かった。
 人間が怖くなった。
 怪我をした俺を見て、お父さんが悲しそうな目をした。
 手当てをしてもらいながら、ただ泣いていた。
 お父さんは静かにこう告げた。
「いくら傷つけられても決して憎まないこと。」
 きっと分かってくれるからと言った。

Comodo -Casino-

人々が集まり、騒ぎ立てる。
人の欲が、ゲーム上でやり取りされる。
自信、夢、誇りをコインと共に賭けていく。

幸せとお金を手に入れた人もいれば
その一方で、全てを失っていく人もいる。
明暗を分けるのは、たった一つのゲーム、唯一つのコイン。
運命の女神は、誰を祝福し、心を奪うのだろう。


Casino

 目の前に広げられたカードをぼんやりと選びつつ、なんでこうなってしまったかを考える。
 『ぱーっと遊びたい!』と、フリーエルが叫んだのが始まりだった気がする。
 花火がいつも上がっているコモドにはカジノがあると告げたために来ることになって、
しかたないなと、ゼニーをコインに換えて近くのテーブルに座ってポーカーをやっている。
 元々、人間の感情の変化を見るのは好きだし、ルールさえ覚えれば確率の問題になる。
 表情があまりないと、フリーエルにも散々言われたのもある。
 ぼんやりと続けるだけで、コインの数は増えていった。
「ウィス、また貸してくれないか。」
 私の座っている所まできて、私の手札を見ながらコインを分けてほしいと言ってきた。
 カードを一枚もらってフリーエルを見上げる。
 困ったように笑いながら、でもゲームなんてどうでもいいような顔をしていた。
 無言で数枚のコインを渡す。
「次こそ!」
 意気込むのは、分かる。…いや、分かろうと努力してみた。
 ずっと負け続けているからこそ、どうにかしたいということ。
 それが前向きな感情だということ。
 けれど、そういう感情が空回りしそうなのはこれが数度目だからだろうか。
 どうして負けると分かっていてもやり続けるのかは知らない。
 彼が勝てそうなゲームがないか見渡すと、一つのテーブルが見えた。
 あのゲームはきっと彼とは相性がいいと思う。
「…あれやった方がいい。」
 カードをオープンさせて、彼にゲームのある方向を指し示す。
 人がいて、もしかするとゲーム自体は見えないかもしれない。
「ルーレット?」
 不思議そうに彼が私のほうをみるので、頷いた。
 ゲームのルールが分かっていても、それだけでは勝つことができない。
 いくら頭がよくても、必ずしも勝てるとは限らない。
 私がこのゲームで勝つことができるのも、たまたま合っているだけに過ぎない。
 彼の場合、『明日、雨が降るか降らないか』などの偶然性に頼るゲームのほうが良いような気がする。
 カードゲームでは、人同士の駆け引きと限られたカード。
 スロットでは、機械の性能と回転する図柄、ボタンを押す速度。
 ルーレットならば、幾つかの数字に赤と黒の地。
「私は苦手だが…」
 出されたカードの勝敗をみて、コインが手元に返ってくる。
「確率低くねぇ?寧ろスロットの方が出そうじゃん。」
 彼がスロットにこだわる理由は分からない。
 この話を続ける意味がなくなるので自分から話をきる。
「確率は知らない。ただ、フリーエルに合うと思った。」
 それだけを告げると、私はコインをもって、少しは慣れたカウンターへ移動する。
 カウンターで、飲み物を貰うと、外に続く扉をくぐる。

 潮の香りを含んだ少し冷たい風が吹き付ける。
 砂浜に寄せる波、光を反射して光る海面。
 なぜ人間はこういうのを自分で作ろうとするのだろう。
 あるがままに、そこにあるほうが数倍も綺麗なのに。



Amatsu -NewYear-

新しい年の始まり。
年の変わり目はいつもすべてを改める。
新しく迎える日の光、改める心構え。

賑わう人々の声…露店に並ぶ新年を迎えた祝いの品
神社で一年を平和で幸せにと願い祈る。
一年の運勢を小さな一切れの紙を開いて占う。
悪き運は木々により大地に清められるように願い結ぶ。


NewYear

 天津って何処?
 そう問われると、俺にも答えられない場所だ。
 行ったことは?
 幼い頃に父親といったことがある。
 どんなところ?
 木々に溢れていて変わった建物が多い。

 幼かった俺は、舗装されていない大地が楽しかった。
 家の隅に寒さにじっと耐えている草、春を待ちわびるようにひっそりと耐える小さな蕾。
 何もかもが新しくて珍しくてちょこちょこと歩き回っていた。
「フリーエル、あまり遠くに行かないように。」
 お父さんの注意を受けて、慌てて戻る。
 普段なら何も言わないお父さんが注意するってことは、それだけ危ないってこと。
 必死になって父さんのあとを追いかける。
 ついたのは何処かの大きな家だった。
 その家の前にいろんな人が集まり並んでいた。
 いっぱい人がいて、少し怖くてぎゅっとお父さんの手を握る。
「ここ、なぁに?」
「御神籤をしているんだよ。今年一年が良い年かどうか占っているんだ。」
 あんな小さな紙切れで占うのかと思うとなんだか不思議。
 いろんな人がその紙を樹に結び付けてる…どうしてだろう。
 そのまま、手を引かれて御神籤を引いてみる。
 『大吉』って書いてあった。
 それから少し離れた場所にいる同じような人のほうに歩いていこうとしたら止められた。
「フリーエル、それは買わないんだよ。」
「どうして、あれはだめなの?」
 周りの人は記念にと一つは買っていく。
 なんだろうってよくみてたらそれが矢だった。
「お母さんや他の子が怖がるからだよ。困らせたいかい?」
 力いっぱい首を横に振る。
 大好きなお母さんも、お母さんの友達も長い髪のお姉ちゃんも大好き。
 困らせたくない…。
「だから、買わないんだよ。我慢できる?」
 よく分からない理由だけど、大きく頷いた。

Alberta -Snow-

多くの街がその日の為に飾られている
幾つもの光に溢れて街は賑わう。
飾られた街を通り過ぎていく人の中で、
未来への期待と夢を抱いた子供の瞳は何よりも輝いていた。

空より堕つる花よ 世界を染め上げる白よ
幸せと平和を望む人々の祈りを抱いて…


Snow


 貿易港として有名なアルベルタの町は、その時期は街全体が飾られていた。
 街を流れる音楽もいつもより楽しげな音楽に変わっていた。
 そんな街を歩くのは、私一人だけではない。
 街を飾っているイルミネーションなどを見に来る観光客も中にはいる。
 けれども、首都プロンテラのほうがやはり人がおおいのは便利だからだろう。
 この港から出る船でしかいけない島や国があるために、多くの人の出入りがある。
「おとうさん、どうしていっぱいきらきらなの?」
 左右異なる色の目を持つ少年が、手を引いている父親に尋ねていた。
 子供の指し示すきらきらをイルミネーションと理解した父親が優しく答えていた。
「クリスマスだからだよ。」
「くすります?」
 子供特有の間違いに苦笑しながら父親は子供を抱き上げながら答えていた。
「ク・リ・ス・マ・ス。」
 ゆっくりと区切ってわかりやすいように子供に言い聞かせる。
 長靴型のラッピングに入ったお菓子を子供に持たせ、ツリーを見上げた。
「大昔の偉い人の誕生日を皆で祝っているんだよ。幸せと平和を願いながらね。」
「どうして?」
 分かりやすい言葉を選びながら答えた言葉に子供はさらに質問する。
 子供だからこそ純粋に疑問に持った言葉を口にする。
 時に、大人では気付かなくなってしまうような疑問すら口にする。
 どうして、見知らぬ人の誕生日を祝うのかを子供が尋ねる。
 偉い人といっても自分が崇めているわけでもないのに生誕を祝う。
 その疑問を楽しいからという言葉にまとめて納得してしまっていた。
 そのぐらい、自分は大人になってしまったのだろう。
「どうしてなんだろうね。」
「おとうさんにもわからないことなの?」
 子供にとっては親は全てだ。
 何でも知っていると思った父親に分からないといわれて戸惑う子供。
 知った振りは誰でも出来る。
 それを認めて、さらに道を選ぶのは懐が深いのかもしれない。
「どうしてなのか、一緒に考えようか。フリーエル」
「うん。」
 仲良く通り過ぎていく親子を見て、私は空を見上げた。
 私は自らの問いにいまだ答えられずに居る。
 定まるところを知らぬこの心と身体をもって旅している。
 頬に冷たいものが触れた…。
 目を凝らすと白いふわふわとしたものが舞い降りていた。