Hatii
ハティの物語は、二部に分かれています。
ウィス&フリーエル版と…メイ版の二つです。
前半は幼少期(?)のメイとの話。
吹雪と魔力。そして、草原の一軒家。
ぼんやりとするウィスと雪原の狼であるハティ。
後半は、魔法学校を卒業して、ウイザードになったメイの話。
乱架…女性、ハンター。紫連の妹。
白夜…男性、プリースト。乱架の彼氏。
紫連…男性、ナイト。ギルドマスターであり、中途半端なVIT型
Lutie -Hatii-
その家で私は、ささやかな幸せを夢見て暮らしていた。
けれど、町の誰も彼もが私を魔女だと呼んだ。
ある日、私に手を差し伸べてくれた明るい人がいた。
無言で静かな人は、私に透明な牙のような首飾りをくれた。
そして、生まれ育った土地を離れ、私は魔術師になった。
この身に秘められた魔力をちゃんと扱えるようになった魔術師に…。
私には友達が増え、過去よりも、今の幸せを語るほうが多くなっていた。
Hatii
きっと、仲間とじゃないとこないであろう私の故郷…。
たどり着いたそこは、記憶の中の光景と変わらない白で覆われた世界。
「さむ~い。」
改めて見るけど乱架さんの姿ってとっても寒そう…。
「上着着てこればよかったのに…。」
「うるさいわねぇ~。弓使うのに上着とか邪魔になるの…くしゅん!」
ちょっかいをかける紫連さんに乱架さんは心配要らないというけど、
指とか震えててすごく寒そうだったから、私も火の魔法使えるから暖められないかなっと考えた。
「あ、あのサイトの魔法したら少しはあったかくなる?」
「ありがと、でもいいわ。きっとすぐハティ出てくるわよ。人もふえたし」
ふと見れば、いつの間にか多くの冒険者が集まってきていた。
やっぱり大物のモンスターだけがもつ特別なアイテムがほしいのかなぁ…。
私はあまり大物を狩るのは得意でもないけれど、楽しそうなので見てることが多い。
「そろそろなら、魔法かけておくか。」
雪だというのに気にせず座っていた白夜さんはそういうと立ち上がる。
軽く目を伏せたのは集中を高めるためか、
単に乱架さんの目の前だからかっこつけてなのか…
胸の辺りで軽く何かを握るような動作をしたかと思うと、払うような動きを見せる。
防御力を高めるエンジェラス。
力や知力や器用さを高めるブレッシング
素早さと回避力を高める速度上昇。
精神力を早く回復する事ができるマグフィニーカート。
いくつかの魔法がかけられる。
かけ終わったあと、探しにいくかと相談していたら、何かの動物の気配がした。
「ハティがでたぞ!!!!」
出たのは私たちが居たところから少し離れた藪のなか…。
綺麗な青い氷の狼がそこに居た。
「初撃はもらったわ!」
さっきまでの寒そうな姿とは一変して嬉々とした表情で、二つの矢を番え、放つ。
乱架さんが弓を放ったのを確認して、ハティとの間に紫連さんが立ちはだかって足止めをする。
その背後から小さな氷の狼がかけてくる。
これが乱架さんが見たいといってたハティベベなんだぁ…。
小さくて可愛い。
「メイ、ユピテルを!」
つい見ほれてしまっていたら、紫連さんにヒールをかけていた白夜さんから鋭い声が掛かる。
ソレと同時に呪文を唱える集中を高める魔法、サフラギウムがかけられる。
「は、はい!」
あわてて、意識をターゲットであるハティに向けて、呪文を唱える。
呪文によってターゲットの足元に魔方陣を描き出す。
どんなに集中しても魔法を唱えるまでに少し時間が掛かる。
最大限の効果を引き出そうとすればするほど、詠唱時間は変わってくる。
私が魔法を唱えてる間にも、白夜さんは手馴れたように足元にセーフティウォールを張ってくれる。
何度か呪文を詠唱しては放つ。
「げ、白が切れた!」
回復剤が尽きた紫連さんが吹き飛ばされたのをみて、紫連さんの回復に集中する白夜さん。
次のターゲットを探してかハティが周りを見渡す…。
周りから攻撃してた他のPTの人たちも何歩か離れる。
その視線が、私に止まった…。
「メイ!逃げて!!」
乱架さんが叫びながら矢を放つが、ハティは私を見たままゆっくりと近づいてくる…。
逃げたいけれど、呪文を詠唱してるから動けない…。
あと少しで唱え終わるのに…。
殺される!
そう思って思わずを閉じてしまうけれど、なぜか攻撃されてなくて…
目を開けてハティを見たらとてもやさしい…けれど悲しそうな瞳をして私を見てた。
なんで…?
「メイから離れろ!」
白夜さんに回復してもらって復帰した紫連さんが、私を庇うように槍で後ろに押し出した。
そのタイミングを狙ったように四方から弓や魔法がハティを狙って放たれた。
ハティは一声あげて倒れた…。
「お疲れ~」
「お疲れ様でした~」
共闘したこと、戦闘が終わってお互いをねぎらう声が響き渡る。
そして、さくさくと離れていく人も居れば、近くによってハティを見る人も居た。
さっきまで一緒に狙ってたPTの人も初撃を射た乱架さんに譲るように、ハティから離れていく…
どうして…あのハティは私を攻撃しなかったんだろう…。
「あれ…このハティ、片方の牙がないみたい。」
私の胸でペンダントになっていた氷の牙が揺れた。
Lutie -Hatii-
その家で私は、ささやかな幸せを夢見て暮らしていた。
けれど、町の誰も彼もが私を魔女だと呼んだ。
ある日、私に手を差し伸べてくれた明るい人がいた。
無言で静かな人は、私に透明な牙のような首飾りをくれた。
そして、生まれ育った土地を離れ、私は魔術師になった。
この身に秘められた魔力をちゃんと扱えるようになった魔術師に…。
私には友達が増え、過去よりも、今の幸せを語るほうが多くなっていた。
Hatii
生まれ育ったルティエから離れて、ゲフェンの魔法学校を卒業して、
これからの道について迷っていたときに声をかけてくれたのが今所属しているギルド。
日に当たって反射するギルドエンブレムが少し照れくさい。
「メイ、おはよ。」
首都プロンテラの十字路で装備を見ていたら、声をかけられた。
驚いて振り返ってみれば、ギルドメンバーのハンターの乱架(らんか)さんと
プリーストの白夜(びゃくや)さんだった。
二人は幼馴染で、本人達は否定しているがどう見ても恋人同士にしかみえないぐらいにあってる。
「おはようございます。」
「乱架がさ、ハティベベ見に行くっていってるんだけど、メイも行くかい?」
べべっていうのは赤ちゃんのことだけど…どのヤツか思い出せない。
「ハティって?」
「あれ?メイってルティエ出身だよな?見たことない?」
ルティエは確かに私の故郷になるけれど…良い思い出があるわけでもないから、
もし覚えがあったとしても…分からない。
「ルティエフィールドの大物だよ。大型サイズの水4の動物だったかな?」
ぬっと割って入ってきたのは、ペコペコのくちばし。
ペコペコにつながっている手綱をたどれば、ギルドマスターの紫連(しれん)さん。
乱雑っぽい感じに見えるが、すごくいろんなことに詳しくてすごいなっておもう。
「マスター!」
「や。」
驚かせたことをこれっぽっちも気にせずに手を上げて挨拶をする。
邪魔そうにペコペコの頭を別の方向へ誘導して、白夜さんが尋ねる。
「紫連も行かないか?」
「ってもなぁ…俺、中途半端なVITだからなぁ…。」
いつからいたのかわからないけれど、立ち聞きしていたのか、
聞こえてしまうほど大きな声で私たちが話していたのかどちらなんだろう。
「白夜がリザるから、肉壁してくれると嬉しいんだけど~…」
「俺に死ねと?」
有無を言わさぬ笑顔に怯みつつも紫連さんが抵抗している。
「ほら~、私と白夜とメイだけじゃ、一撃で沈むでしょ?ここは仲間のために、ね。」
半分脅迫をかねた乱架さんと、対抗しようとしてる紫連さんの様子を見てるとほほえましい。
いつも思うのだけれども…
「マスターと乱架さんって仲良いんですね」
「乱架と紫連は兄妹だし…あんなものじゃないかなぁ…。」
私には兄弟なんていなかったから、少しだけうらやましくも思う。
「倉庫行って来る。あ~…先、PT作ってて。」
「はいは~い。いってらっしゃい」
準備に向かうエンブレムの何かが少し変わっているのをみてよく目を凝らしてみると…
マスターのギルドエンブレムのそばにある役職に小さく『仲間のために散る騎士』と書かれている。
ささやかな反抗とでもいうのだろうか…子供っぽくて、笑みがこぼれる。
Hatii -後編-
氷の毛並みの美しく強い狼は、その平原が気に入りだった。
狼の住む土地に渡ってきた人々はその土地が気に入り、欲しくなった。
人々はと狼は協定を結び、その平原で生きていた。
身に余る魔力を人々は怯え、それゆえ孤独を感じていた少女がいた。
狼は、孤独を抱える少女を守ろうとしていた。
自らが人と交われないことを知っていた狼は遠くから見守っていた。
この土地は少女の孤独を消せないと知りながらも狼は、少女を守っていた。
Hatii
吹雪の中、ルティエの町を歩く少女の影を追いかけて走っていた。
声は吹雪にかき消されてしまう。
それでも必死に追いかけた。
ウィスがいないことも、獣の姿が見えないことも知らずに、少女の影を追いかけた。
「まって!」
なんとか追いついて、肩を叩く。
びくりと少女が震えながら振り向いた。
深くて青い綺麗な瞳を怯えに染めていたけれど、可愛らしい少女。
【魔女】と呼ばれる理由がまったく分からなかった。
「俺、フリーエルって言うんだけど。君は?」
「…わたし?」
透明な声だとおもった。
人と触れ合うのが少なかったのを直ぐに察知できるほどのたどたどしい言葉。
どういう世界で育ったのか、考えると悲しく思う。
「わたしは……メイ。」
名前を言うまでに時間が掛かったのは、それを呼ばれなかったから。
素敵な名前なのにもったいない。
「メイは、此処に一人?もしよかったらさ、ここから外に出てみない?」
一人だと分かっていて、あえて尋ねてみた。
メイ自身は気がついてないかもしれないけれど、あの狼は彼女を見てたはずだ。
近づこうとした俺へのあの視線は、警告。
メイを傷つけるなという…。
「わたし…まじょだから…」
「そんなことない!メイは普通の女の子だよ!」
魔女だといわれ続けていたから、本当にそうおもってしまっていたのだろう。
何も知らない旅人にも【魔女】と説明していたならば、なおさらだ。
「ただ魔力が強いだけで…ちゃんとした魔法学校いけば友達だって出来るよ!」
近づいてから分かったのは、魔力が桁外れに高いということ。
きっと、その魔力の高さが無意識にこの吹雪に影響を与えているんだろう。
寂しさが冷気となり、悲しみが雪となって、苛立ちが吹雪となって…さらに自らを追い詰めて…。
ゲフェンにあるという魔法学校にいって魔力の扱い方を習えばきっと受け入れられる。
「だから、いかない?ゲフェンへ」
そういって、俺はメイに手を差し伸べた。
その頃、ウィスは氷の獣…フリーエルがみた狼に深く頭を下げていた。
人同士の繋がりにモンスターが関わることは数少ない。
むしろ、悪意をもってお互いに敵対している。
人が約束を破ったことによる、バランスの破綻も含まれる。
それゆえか、溝が深くそこにあった。
そんな中の例外。
ウィスの存在、フリーエルの誕生、そして…氷狼。
人間でありながら、同族に嫌われ、一人雪原の家で育つ少女を守っていた。
敬意と感謝を込め…、未来に待ち受ける一握りの悲しみを込めて深く礼をした。
Hatii -中編-
氷の毛並みの美しく強い狼は、その平原が気に入りだった。
狼の住む土地に渡ってきた人々はその土地が気に入り、欲しくなった。
人々はと狼は協定を結び、その平原で生きていた。
身に余る魔力を人々は怯え、それゆえ孤独を感じていた少女がいた。
狼は、孤独を抱える少女を守ろうとしていた。
自らが人と交われないことを知っていた狼は遠くから見守っていた。
この土地は少女の孤独を消せないと知りながらも狼は、少女を守っていた。
Hatii
ルティエの町を一通り回ってみても、流石に何処も混んでいた。
そんな中、ある店の人が俺達を泊めてもいいと言ってくれた。
見知らぬ旅人を泊めるのは、躊躇があるはずなのに、その店の人の心の温かさに嬉しく思った。
俺が笑顔でお礼をいい、ウィスは静かに頭を下げた。
俺たちは静かに、店の隅で大人しくしていた。
ふと、外を見ると人々が何かを入り口において、慌てて建物へと行くのが見えた。
「なんか変だよなぁ。」
小さな声で疑問を口にする。
疑問を述べても、隣にいるウィスは答えることは少ないので、自然と独り言になる。
僕たちを泊めてくれるといった店の人も何かを外に出してる。
袋から見えたものをよく見ると、店の商品がいくつか入っているようだ。
外に出ようとしたら、止められた。
「今は出ないほうがいいよ。魔女が来るからね。」
「魔女?」
理由に魔女だなんて、御伽噺かとおもった。
ウイザードやマジシャンとは違う意味で使っているのが口調でも分かる。
冒険者などの職業としてではない【魔女】
少し興味が沸いた。
来るときに見た吹雪の中の人影、そして獣。
もしかしたら、その魔女かもしれないとおもった。
「ウィス?」
じっと目を閉じていたウィスが、窓から何かを見ていた。
同じようにして視線を向けると、強まってく吹雪の中に狼が見えた。
「この辺に狼は?」
直感であの時の獣だと分かった。
怪訝そうな顔をして店の人は、狼は見たことないと答えた。
俺には見えるのに知らないと答えるのは吹雪だからなのか…。
魔女と呼ばれるのが少女だと分かったのは、外に出した袋を取りに近づいてきたときだ。
悲しそうな目をして、袋を取って代わりに何かを置いていくその姿がそっくりで…
離れていく後姿を店の人が止めるのも聞かずに飛び出していった。