Minstrel
ウィスのパートナーとなる、吟遊詩人のフリーエルの登場です。
よくわからんウィスよりフリーエルのほうがものすごく分かりやすく明るい。
ときどき話の仕方が筋道のない考え方のときもあるが、とりあえずはまとも、一般人。
魔物であるウィスパー(と本人は思っている魂)が、死んだ(脳死的なもの)人間の体に宿ったのがウィス。
中身は(本人の言葉では)モンスター、入れ物は人間という、半分半分。
名前の由来は、ウィスパー。
人間の冒険者と、フェイヨンDの月夜花との間に生まれた半人半魔がフリーエル。
名前の由来が、自由と光り輝く者。
Minstrel -Freeel-
けれど、当時はとてもきらびやかだった。
栄枯盛衰…栄えればいずれは衰える
その城には、人の姿の悪魔がいた。
悪魔は命を受けていたが、それに逆らい子供を逃がした
罰を受ける気でいた悪魔に、悪魔の主は罰を与えなかった。
そして、自らに罪を架して悪魔は消えた。
…事実は語られず、全て闇に…
Minstrel
広場で歌いながら、周りを見てると気になる瞳をした人がいた。
母さんのように澄んだ瞳をしているのに、とても寂しそうな顔をしていた。
だからこそ、つい立ち去ろうとした人に声をかけた。
「俺、フリーエル。アンタは?」
急に呼びかけたせいなのか、戸惑った顔をしながら答えてくれた。
「ウィス。」
離れた場所にいるので、こちらに着てもらおうと手を振る。
素直に近くに着て座るのを見るとなんだか笑える。
『WIS?』と書いて尋ねてみたら、『Whis』と書きなおされた。
教えてもらったら教えないといけないよな。
『Freeel』と書いてから、相手の目を見て答える。
「俺の名前は、こう書くんだ。」
俺の行動が突拍子もないせいか、相手は戸惑っていた。
話の流れをちゃんと掴んで言いなさいといわれていたけど、まあいいや。
「ウィスって何者?」
片方の目が、目の前の人がただの人じゃないと告げる。
単なる勘というものでは決してない。
この瞳は、分かるのだ。
そういう欺瞞や違和感を感じさせる偽りを暴く。
「人間じゃないってのは分かるんだけど、モンスターって感じでもないからさ。」
たしかに偽りがあるのに、どこか含まれている真実がこの瞳を惑わせる。
単純に偽りだと判別できないのが、面白いと思った。
そして、名前が歌の中では言わなかったけれど、物語の悪魔の名だったから。
「あぁ、別に悪い意味じゃなくて単に興味。」
誰かに言うために聞くわけでもない。
自分が知りたいだけだ。
それを自分できちっと相手に告げる。
興味がないように言ってしまうのは悪い癖かもしれない。
「私は悪魔。この死んだ人間の身体を操っている。」
聞いて鳥肌が立つほど、驚いた。
やっぱりこの人がそうなんだと思った。
物語にいた悪魔。
歌でしか知らなかったその人が目の前にいる。
教えてほしいことが山ほどある。
「あんたを呼び止めたのは、俺の歌聴いてるときに寂しそうな瞳してたからさ。気になっていたんだよ」
さっきの歌は多くの人が嘘だといい、決して本気にしてくれなかったものだ。
それをきいて寂しそうにしたのが印象に残った。
「母さんから聞いた悪魔ってあんたなんだろうな。あの歌の悪魔。」
手引きした悪魔がいるのに誰も知らないという。
この昔話を真実だと教えてくれたのは母さん。
人間は嘘つきが多い、モンスターや魔物と呼ばれるけれど中には澄んだ瞳をしてる人がいる。
月夜花といわれる悪魔に属する種族の母さんは、とても澄んだ瞳をしている。
綺麗な瞳をしてるウィスと共に旅をしてみたいなと思った。
母さんから聞いたときからずっと憧れていた。
どちらにもなれない辛さをどうやって乗り越え旅をしているのだろうかと…。
「ウィス、俺と一緒に旅しないか?」
俺は、フリーエル。
月夜花と人間のハーフ。
弦を引き、歌を語り、音を紡いで物語を織る吟遊詩人。
Minstrel -Whis-
けれど、当時はとてもきらびやかだった。
栄枯盛衰…栄えればいずれは衰える
その城には、人の姿の悪魔がいた。
悪魔は命を受けていたが、それに逆らい子供を逃がした
罰を受ける気でいた悪魔に、悪魔の主は罰を与えなかった。
そして、自らに罪を架して悪魔は消えた。
…事実は語られず、全て闇に…
Minstrel
早々にそこを立ち去ろうとしたのを、先ほどまで歌っていた青年が声をかけた。
「俺、フリーエル。アンタは?」
真っ直ぐ私を見るので、問われているのは私なのだと気付くまで少しの間があった。
問われているのは何か分からないが、こういうときに答えるのは大抵名前だったと思いながら答える。
「ウィス。」
手でこちらに来るようにジェスチャーをされたので、素直にそれに従う。
『WIS?』と書いて尋ねるので、『Whis』と書きなおす。
暫くその青年は考えてから、『Freeel』と書いて、「俺の名前は、こう書くんだ。」と笑う。
何がしたいのか私にはさっぱり分からなかった。
わからないのは、私が人間じゃなく悪魔だからだと思っていた。
「ウィスって何者?」
旅をして、ずっと人らしく振舞ってきた。
今だって誰も気がついてないのだ。
目の前の青年以外は、だれも私に違和感を感じてない。
「人間じゃないってのは分かるんだけど、モンスターって感じでもないからさ。」
体は死した人間、動かしている私は悪魔属のウィスパー。
どちらにも属していて、どちらにも属さない。
「あぁ、別に悪い意味じゃなくて単に興味。」
問われた言葉は確かに興味があるから聞いていると言う内容だが、声は興味が無さそうに聞こえる。
分からないまま、尋ねられたことを正直に答える。
嘘をつく理由など知らないからこそ、事実しか答えることしかしらなかった。
私も尋ねたいことができた。
何故、私のことが分かったのかと…そう尋ねたくなった。
「私は悪魔。この死んだ人間の身体を操っている。」
ただ操るのではなく乗り移って身体を動かしている。
だが、一度死したこの体の体温はとても低い。
悪魔である私には、基準となるべきこの体の体温をいまだ実感できないでいる。
「あんたを呼び止めたのは、俺の歌聴いてるときに寂しそうな瞳してたからさ。気になっていたんだよ」
そんなに歌っているときに寂しそうと表現されるような瞳をしていたのだろうか…
左右の異なる色の瞳が見つめてくる。
燃える様な炎の瞳に、静かで深い輝きの瞳。
他者に関しても、この体の瞳の色も髪も興味を持ったことはない。
興味というほどの興味など何処にもないのだ。
私は、旅をしていても何も持たず、求めるべき問いの答えもずっと出せずにいる…。
「母さんから聞いた悪魔ってあんたなんだろうな。あの歌の悪魔。」
どうなんだと問いかける目があった。
分からないとしか答えられなかった。
確かにあの話は、語られなかった事実さえ歌われていた。
生き延びた子供のことはありえるかもしれない…当人たちがいるからこそ。
でも、手引きした悪魔…私の存在である秘められた本当の事実。
けれど、語られた話が酷似しているだけで、違うかもしれない。
「ウィス、俺と一緒に旅しないか?」
何を言っているのか分からなかった。
話の流れがつかめなくて、私は今まで聞いた話とその流れを考える。
一緒に旅をする理由になりそうな話は何一つない。
彼から、どうしてその話になったのかを時間をかけて尋ねることにした。
そして、私は彼と共に旅をすることを選んだ。
Whisper
書き始めたきっかけは…、ハロウィン。
このあと、続き物になるとは…まったく思ってもいませんでした。
元々、少年が主人公だったのに…いつの間にウィスになった事やら…。
少年側の過去が最初のネタでした。
それが変わってしまったのもハロウィンの影響…。
因みに少年のジョブはシーフ、少女はアコライトです。
ウィスは秘密。
【全ての始まりはあの日から】となってるとおり
本編というか…この話がこのシリーズの始まりです。
Whisper -後編-
けれど、当時はとてもきらびやかだった。
栄枯盛衰…栄えればいずれは衰える
この遺跡が何故滅びたのか…
それは、遺跡のあちこちに見られる跡ですぐ分かる。
これらの跡は魔物の襲撃によるものだ
この城が滅ぶとき、誰一人生き残りがいないとも囁かれた
けれど…事実は…
Whisper
私は、幾つかの転送術があるのを知っている。
平和な今では失われた転送魔法もだ…。
私達にとっては役に立たない知識だが、何故か私はそれを好んで蓄えた。
幾つもの忘れ去られた技術。
神に仕えるものならば使える術の一つ、ワープポータル。
これは使うものがその位置を覚えていなければならなく、その上町の近くでなければならない…。
けれど、私はその術の古き方法を覚えている。
この身は死した身だ、術による反動など怖くもない。
私は人の枠に縛られない悪魔だ。
悪魔たる自分が神に祈るなんておかしいとしか思えない…。
思わず、大声で笑ってしまいたくなる。
この行動は自分でも馬鹿馬鹿しい。
何故、私は人間の子供の為に必死になっているのだろう。
「さぁ、これに乗れ。」
白いワープポータルを指差して子供達に乗るように指示する。
私がワープポータルを使えたことが不思議なのか、その色が白だったせいか、
子供達も同僚もどちらも驚いた顔をしていた。
私の主が近づいてくる気配を感じる。
わが主は、必ずここに来る。
わが主からは、人間を殺せと命も受けている。
けれど、目の前の子供たちを手にかけるには、不可解な感情がそれを拒否する。
「お兄ちゃんたちは?」
泣きそうな顔で少女が尋ねる。
尋ねずに早く行けばいいのにと心の中で呟く。
「俺は大丈夫だからさ。なっ!」
明るく振舞う同僚は、既に引き返すことの出来ない死の気配をまとっていた。
たとえヒールで傷を癒しても、彼の命はない。
けれども、大丈夫と言う。
何を指して大丈夫というのか分からないが、静かに私も頷く。
「でもっ…」
なお留まろうとする少女の手を引いて、何かを決意した少年が私達を見た。
少女を守るという意思を強く秘めていた。
ワープポータルへ向かう子供達に向かって同僚が笑っていた。
真っ直ぐ少女と共にワープポータルへとその身を消した。
残ったのは私と死の淵にある同僚。…そして、同属。
子供達を逃がしたことで、同属から不可解な視線が向けられている。
半分はなぜ傍にいる人間を殺さないのかという視線。
同僚は、私を背にしているのでその表情は分からないが、不審がっているのだろう…。
再び、私は向き合うことになった。
人の姿としてか、それとも本性の方としてを選ぶのかを突きつけられた。
「なぁ…ウィス…。お前、俺を殺せよ。」
ひどく優しい声で言われた言葉に、びくりと体が震えた。
なぜ、殺せといえるのだろう…。
人間の不可解な行動で戸惑うのはこれが何度目だろう。
「お前、向こうの仲間なんだろ…。俺、もう助からないし…頼むよ。」
何故分かったんだろう…。
私が彼らの手引きをし、そのせいでこの城は落ちようとしている…。
そして、彼は死のうとしているのに…。
「いいから、早く殺せよ…。ちょっとさ…マジで苦しんだ。」
私は戸惑いのまま、願いを聞き入れた。
それは、私が悪魔に属するものとして、同属に戻るためにでもあった。
主の前に私は引き出された。
主は人の姿のままであることに少し顔をゆがめた。
きっと、主は私を罰するだろう…。
誇り高き悪魔に属するものでありながら、人を殺すことを戸惑ってしまったのだから。
膝をついて、主の言葉を待った。
『我等を裏切るつもりだったのか?』
静かに主は私に問いかけた。
恐怖に体が震える。
それは、裏切ることそのものなのでもあり、私という存在が消されることへの恐怖。
「いえ、とんでもございません。私はあなた様に仕える部下でございます。」
この主以外、だれに仕えよと言うのだろう。
私は主を心より尊敬し、敬愛して仕えている。
決して裏切るなんて考えたことは無い。
『ならば、何故あの子供たちを逃がした。』
静かにいう言葉が、内容が…とても怖かった…。
この静かさが主がどれだけ私の行動に怒りを感じていたのかを知る。
本来ならば罪を問われず直ぐに消されているぐらいだ。
ただ、今回はこの城を落としたことによる主のご機嫌がよいのと、
この城へ侵入するための手引きをしたということが私の命を繋いでいる。
「僭越ながら、あの子供たちの記憶には今日の恐怖が深く刻まれ、我らの力を広く誇示するために良いかと。」
よくも嘘がつけるものかと自分でも思う。
あの時は、分からない感情に突き動かされただけだ。
けれど、嘘でもないことをもう一人の自分が言う。
あんな嘘をついた…言ったあとで思い出したことがある。
誰かが幼い頃に滅ぼされた村のことを夢見て、その時の恐怖を思い出すと…。
誰かが言ったのを深く覚えていた自分が居る。
どちらが真実なのだろう…。
人の視線で嘘を付こうとする自分と、真実であろうとする自分。
人であろうとした自分…悪魔に属する自分の二つがお互いを責めている。
嘘をつかねば死ぬかもしれないと人の自分…
嘘をつくほど堕ちてはいないと悪魔に属する自分…。
主は、私の言い訳をどう考えたのかわからないが、私を罰しようとはしなかった。
だが、私は自ら主の元から離れることとなる。
理由は簡単…
誇り高き悪魔に属するものとして、このまま主に仕え続けるべきではないと思ったからだ。
私の名は、ウィス。
この身は死人である。
私は死体に乗り移った幽霊…悪魔。
私は命を受けて人の生活をし、ある城を滅ぼした人の姿を借りた悪魔である。
人間の吟遊詩人と共に世界をめぐり、
この身を人間社会に浮かべることになるがそれはずいぶん後のことになる。