第42章 最後の光刃 | 光と闇を 抱きしめたまま

光と闇を 抱きしめたまま

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ネガティア基地の奥深く。

長い通路を、魔法少女リネアは一人の少女を背負って歩いていた。

背中に背負われているのは、エクリア。

初代魔法少女との戦いに敗れ、さらにここまでの戦闘で大きなダメージを受けたエクリアは、しばらく意識を失っていた。

しかし――。

「……ん……」

小さな声がした。

リネアが足を止める。

「エクリア?」

「……リネア……?」

エクリアが目を開けた。

「気がついたのね」

「うん……」

エクリアは自分の身体を確認する。

驚いたことに、ほとんどの傷はすでに修復されていた。

衣装も、両手両足の装甲も、ほぼ元通りになっている。

「身体は……もう大丈夫みたい」

「あなたの魔力による修復が進んだのね」

リネアはそう言った。

だが、リネア自身はまだ完全ではない。

背中に装着されたユニットには大きな損傷が残っている。

「私の背中のユニットは、もう少し時間が必要みたい。魔力があれば修復できるけど……」

リネアは背中へ手を伸ばす。

「リンクオーバーは、まだ使えないわ」

「……そう」

エクリアは静かに頷いた。

それでも二人は歩き続ける。

ここまで来た以上、戻ることはできない。

ネガティア基地の奥へ。

その先へ。

やがて二人は、ひとつの大きな扉を抜けた。

「……広い」

そこは円形の広場だった。

天井は高く、壁には何本もの配管が走っている。

そして広場の左右には、二本の燭台が立っていた。

その中央に――。

一人の女が立っていた。

「……ネレイド」

エクリアの表情が変わった。

そこにいたのは、かつて自分をネガティアの戦闘員として利用し、何度も戦わせた女。

ネレイドだった。

だが、その姿は以前とは違っていた。

衣装は修復されている。

身体に残っていたビームによる損傷も消えている。

しかし――。

左手だけがなかった。

ネレイドは、右手だけで自分の剣を握っていた。

「あなたたち……」

ネレイドは二人を見る。

「ここまで来るなんてね」

そして、わずかに笑った。

「ただの憧れで、そこまでの力を出せたわけではないでしょう?」

エクリアは黙ってネレイドを見つめる。

「素直に、その意思の強さは認めるわ」

ネレイドは自分の左腕を見る。

「私自身も動揺しているのかもしれないわね。左手が……どうしても再生できない」

それでもネレイドは剣を握る。

「でも、魔法少女のビジネスはまだ続ける必要がある」

静かな声だった。

「魔法少女の歴史を停滞させないためにも……」

ネレイドはエクリアを見据える。

「あなたたちは、ここで終わってもらう」

エクリアはリネアを見る。

リネアの背部ユニットは、まだ戦闘に使える状態ではない。

「リネア。ここから離れて」

「でも……」

「大丈夫」

エクリアは両手を握った。

手のひらから光刃が現れる。

「私が戦う」

リネアは一瞬だけエクリアを見る。

そして頷いた。

「……分かった」

リネアは広場の外へ移動する。

ネレイドは右手の剣を構えた。

その瞬間。

ズルッ……!

空間が歪む。

無数の触手が現れ、エクリアへ襲いかかった。

「っ!」

エクリアは両手の光刃を振るう。

ザンッ!

一本。

ザンッ!

二本。

迫ってくる触手を次々と切断していく。

だが、触手は途切れるたびに新しく現れる。

「これで……!」

エクリアは一気に踏み込んだ。

狙いはネレイドの左側。

左手を失っている以上、そこが最も守りにくい。

しかしネレイドも、それを理解している。

「そこを狙うのは分かっているわ」

腰から蜘蛛の脚が展開された。

エクリアの光刃が蜘蛛の脚を切断する。

ザンッ!

だが、切断された蜘蛛の脚はすぐに再生を始める。

さらに触手がエクリアの動きを邪魔する。

「くっ……!」

エクリアは触手を切り払いながら、再びネレイドへ迫る。

踏み込みが深い。

今度こそ――。

「捕らえた!」

エクリアの光刃がネレイドの胴体へ迫った。

しかし、

ザンッ!

切れたのはネレイドではなかった。

床に転がったのは、二つに斬られた一本の杖。

「……アラネアの杖!?」

ネレイドの姿が揺らぐ。

次の瞬間。

ネレイドと杖の位置が入れ替わった。

「幻惑……!」

「そうよ」

ネレイドはエクリアの背後へ移動していた。

だがエクリアも諦めない。

再び左側へ回り込む。

すると今度は、無数の触手が四方からエクリアを囲んだ。

「逃がさない!」

その瞬間。

エクリアの背中が展開する。

シュンッ!

横一文字の光刃。

「そこを……どいて!」

エクリアは身体を軸に回転した。

ザンッ!

触手が切れる。

ザンッ!

さらに一本。

ザシュッ!

周囲から迫っていた触手が、次々と切り裂かれていく。

エクリアはそのまま、両手の光刃を地面へ向けた。

反発力。

それを利用して、さらに身体を回転させる。

「はあああっ!」

高速回転したエクリアが、ネレイドの横をすれ違う。

背中の光刃が、ネレイドを捉えた。

ザンッ!

ネレイドの四肢に、大きな損傷が走る。

ネレイドが膝をついた。

「……!」

エクリアは息を整える。

そのときだった。

破損していた足の装甲が、

カチッ……

と音を立てて修復した。

エクリアは足を見る。

「……修復した」

これで、両手。

両足。

そして背中。

すべての光刃を使える。

エクリアはネレイドを見た。

「終わりよ」

両手に光刃。

両足にも光刃。

そして背中にも光刃。

全身の光刃が輝く。

エクリアは一気に踏み込んだ。

「これで……!」

その瞬間だった。

ドンッ!

背中に衝撃が走った。

「――っ!」

エクリアの身体が前へ弾かれる。

「なに……!?」

背中を見る。

そこには、白い霜が広がっていた。

背中が凍っている。

「背中の光刃が……!」

エクリアが動揺した一瞬。

ネレイドが最後の力を振り絞る。

「まだよ……!」

空間から四本の触手が現れた。

一本が右腕。

一本が左腕。

そして両足。

「しまった!」

四本の触手がエクリアを拘束する。

ギリギリ……!

装甲が破壊される。

右手。

左手。

右足。

左足。

すべての装甲が破壊された。

エクリアは必死に光刃を展開しようとする。

しかし――。

できない。

背中は凍っている。

四肢の装甲は破壊された。

「……全部……封じられた……」

 

ネレイドは苦しそうに息をしながら笑う。

「そうよ」

そして広場にある燭台を指差した。

「あなたの背中を凍らせた理由……まだ分からないでしょう?」

エクリアが燭台を見る。

すると――。

シュルッ……

燭台の形が変わった。

炎が消える。

その姿は一本の杖へと変化した。

「……!」

エクリアは息を呑んだ。

「まさか……」

ネレイドが笑う。

「そう」

もう一本の燭台も変化する。

二本のアラネアの杖。

「最初から、あの二本は燭台ではなかったのよ」

ネレイドは説明する。

エクリアが正面から私と戦っている間。

二本の杖のうち一本を使い、幻惑を作る。

もう一本を使って――。

「あなたの背後から、凍結魔法を放ったの」

「だから……私には見えなかった……」

エクリアは悔しそうに唇を噛む。

ネレイドは剣を構え直す。

「これで終わりよ」

アラネアの杖が地面に落ちる。

カラン……

ネレイド自身も限界だった。

エクリアを拘束している触手も、もう精一杯の力しか残っていない。

だからこそ。

この一撃にすべてを賭ける。

ネレイドがエクリアへ近づく。

剣が届く距離。

エクリアには、もう光刃を展開できる場所はない。

ネレイドはそう思っていた。

剣を振り上げる。

その瞬間。

エクリアの瞳が動いた。

「……ひとつだけ」

ネレイドの動きが止まる。

エクリアの額。

その約50センチ先。

シュンッ!

そこから一本の光刃が飛び出した。

「なっ……!」

光刃の反動で、エクリアの頭が大きく後ろへ反る。

そして――。

エクリアは拘束された四肢に残った力をすべて込めた。

「まだ……終わってない!」

身体を前へ振り下ろす。

額の光刃も、その動きに合わせて振り下ろされた。

ザンッ!

光刃がネレイドを捉えた。

首元から胸元へ。

ネレイドは目を見開いた。

 

しばらく、エクリアを見つめる。

そして――。

「……見事ね」

その声には驚きと、確かな称賛があった。

「エクリア……」

ネレイドの身体が崩れ始める。

紫色の衣装。

蜘蛛の脚。

右手。

すべてが灰へと変わっていく。

「あなたたちは……本当に……強くなったわね……」

その言葉を最後に。

ネレイドは灰となって崩れ落ちた。

同時に、エクリアを拘束していた触手も力を失う。

ザラ……

灰となって床へ落ちた。

「……終わった……」

エクリアは、その場に立ち尽くす。

すると、

「エクリア!」

リネアが駆け寄ってきた。

「大丈夫!?」

「……うん」

エクリアは答える。

しかし四肢の装甲は破損したまま。

背中も凍結している。

それでも、生きている。

リネアは安堵したように息を吐いた。

そして床を見る。

そこには、二本のアラネアの杖が残されていた。

「これは……」

リネアは二本の杖を拾い上げる。

エクリアもネレイドが消えた場所を見る。

長い因縁の相手は、もういない。

けれど――。

まだ終わりではない。

ネガティア基地のさらに奥。

そこには、最後に残された存在がいる。

ネレイドを倒した二人は、再び歩き始めた。

リネアは二本のアラネアの杖を手に。

エクリアは傷ついた身体を抱えながら。

二人の前に続くのは、暗く長い通路。

その先に待つのは――。

ネガティアの首領。

そして魔法少女たちは、ついに最後の扉へ近づいていく。