ネガティア基地の奥深く。
長い戦いを終えた四人の魔法少女たちは、再び一つの場所へ集まっていた。
アクティア。
ルミナ。
エクリア。
そしてリネア。
誰もが、ここまで来るまでに多くのものを見てきた。
失ったもの。
取り戻したもの。
そして、忘れたかった過去。
それでも四人は歩いていた。
もう、後戻りするつもりはなかった。
「……ここが、司令室?」
目の前に広がっていたのは、巨大なディスプレイが設置された部屋だった。
壁にはいくつものモニター。
床には複雑な配線。
ここまでの基地とは明らかに造りが違う。
アクティアが周囲を見渡す。
「ここ……ネガティアの司令室なのかな?」
「おそらくね」
助手が答えた。
その瞬間だった。
巨大なディスプレイに、映像が映し出される。
そこに現れたのは――。
ネガティア首領。
アクティアの表情が険しくなる。
助手も黙って画面を見つめていた。
そして首領は、四人へ向けて語り始める。
『彼女は……魔法少女のビジネス、その初期の姿だ』
四人は黙って聞いていた。
『魔法少女のビジネスとしては、時代が終わった存在だ』
その言葉に、アクティアの眉が動く。
『だが……今も彼女が魔法少女として活躍したことは忘れられていない』
首領は少し間を置く。
『魔法少女ビジネスには、始まりもあれば終わりもある』
そして。
『これは、私からの勝手なお願いと取ってくれて構わない』
画面越しの首領の声は、妙に静かだった。
『彼女を……魔法少女ビジネスから解放してくれ』
――プツン。
映像が途切れた。
部屋が静寂に包まれる。
しばらく誰も口を開かなかった。
やがてルミナが呟く。
「……勝手すぎない?」
アクティアも画面を睨みつける。
「自分で何とかしなさいよ……」
特に複雑な表情をしていたのは、アクティアと助手だった。
アクティアにとっては、あの首領は父親でもある。
助手にとっては、かつて仕えていた相手。
そんな二人だからこそ、余計にその言葉が身勝手に聞こえた。
「……いない?」
四人は、首領がいると思われる部屋へ向かった。
扉を開ける。
しかし――。
誰もいない。
そこにあったのは、殺風景な部屋だけだった。
「……逃げた?」
ルミナが呆れたように言う。
助手は部屋を見回す。
「その可能性が高いわね」
アクティアはため息をついた。
その頃には、四人の衣装や装備もほとんど回復していた。
しかし、誰も喜ぶ気分にはなれなかった。
首領の願い。
初代魔法少女への執着。
そして、彼女自身が抱えているもの。
何を選べばいいのか。
四人には、まだ分からなかった。
助手はタブレットを取り出した。
「……もう一度、整理しましょう」
四人が助手を見る。
「初代魔法少女の魔法について」
助手が再生したのは、古い映像だった。
1970年代に流行した魔女っ子番組。
画面の中の少女は、敵に向かって走るわけでもない。
武器を振るうわけでもない。
ただ――。
指を振る。
すると、離れた場所にある対象へ魔法が発生した。
次の場面。
今度はウインク。
また、遠く離れた場所で魔法が起こる。
助手は映像を止める。
「……今の私たちの魔法とは、全然違う」
アクティアが画面を見る。
「確かに……」
助手は続けた。
「私たちの魔法は、魔力を身体や武器、装備を通して現象に変える」
「でも彼女は違う」
画面の中の魔女っ子を指す。
「一つのアクションそのものが、魔法を発動するトリガーになっている」
ルミナが腕を組む。
「だから、指を鳴らすだけで……」
「距離に関係なく、瞬時に効果が届く」
助手が答えた。
そして、四人は初代魔法少女が言っていた言葉を思い出す。
『私の魔法は、自身の思考を現実へ効果させる』
アクティアが呟いた。
「思考……っていうのは、彼女の考え?」
「そうね」
「じゃあ……現実にするっていうのは?」
エクリアが考える。
「その考えたことを……その場所で起こす?」
助手は静かに頷いた。
「私は、そう考えている」
そして結論を口にした。
「彼女の魔法は――」
「考えたことを、彼女が思った場所で現実に発生させる。」
「破壊すると思えば、破壊が起こる」
「物を動かすと思えば、物が動く」
ルミナの顔が険しくなる。
「……じゃあ、防御って意味ないんじゃない?」
誰も答えなかった。
しかし、その言葉には重い意味があった。
攻撃を見てから避ける。
シールドを張る。
装甲で受ける。
それらは、魔法が飛んできてから成立する防御だ。
しかし初代魔法少女の魔法は違う。
攻撃そのものが飛んでこない。
彼女が思った場所で、結果が発生する。
ルミナが小さく息を吐く。
「最悪ね……」
「でも……」
アクティアが口を開く。
「一つ、変なところがある」
全員が振り向く。
「私たち自身を、直接壊さなかった」
そうだった。
初代魔法少女は、アクティアのシールドを壊した。
エクリアの装備を壊した。
アクティアビットを全て壊した。
リネアの背中のユニットも破壊した。
しかし――。
四人自身を、直接破壊したわけではない。
リネアが呟く。
「それに……」
「彼女が向いている方向にあるものが、破壊されていた」
助手も頷く。
「そこが重要なのよ」
距離を無視する。
防御を無視する。
思考を現実にする。
それなのに、何でも自由にできるわけではない。
そこには、まだ知られていない条件がある。
助手はタブレットを閉じた。
「初代魔法少女の魔法には、何らかの制約がある」
四人は、その言葉を胸に刻んだ。
立入禁止区画
助手は四人に告げた。
「一度、変身を解除しましょう」
四人は魔法少女の姿を解いた。
そして、司令室の奥へ進む。
しばらくすると、見覚えのある場所が現れた。
牢屋。
アクティアの表情が変わる。
「……ここ」
かつてネガティア化した自分が囚われていた場所。
その記憶が蘇る。
だが、今度は立ち止まらない。
さらに奥へ進む。
そこには英語で、
RESTRICTED AREA
と書かれていた。
立入禁止区画。
助手が扉を見る。
「……この先に何があるの?」
誰にも分からない。
それでも扉を開く。
そして――。
四人は言葉を失った。
そこには、無数の少女たちがいた。
紫色の生成素材。
身体から伸びる、蜘蛛の脚のような構造物。
背骨に沿うように取り付けられたパーツ。
そこから床へ伸びる接続。
少女たちは、床に固定されていた。
動くことすらできない。
アクティアが震える声で言う。
「……こんなに……」
ルミナも絶句している。
エクリアは、少女たちを見つめていた。
そして――。
一人の少女を見つける。
「……セレナ?」
エクリアが駆け寄る。
「セレナ!」
少女がゆっくり顔を上げる。
確かにセレナだった。
意識もある。
声を出すこともできる。
なのに――。
何も言わない。
エクリアを見ても、口を閉ざしている。
その瞳にあったのは、恐怖だけではなかった。
失望。
あまりにも長い間、希望を奪われ続けた者だけが見せるような表情だった。
エクリアは拳を握る。
「……セレナ」
それでも返事はない。
リネアが静かに周囲を見渡す。
「この子たちは……ずっと、ここに?」
助手は答えられなかった。
その光景が、答えそのものだった。
四人は、さらに奥へ進んだ。
通路を抜ける。
すると、突然視界が開けた。
巨大な空間。
何もない広場。
そして、その中央に――。
一人の少女が立っていた。
古い魔女っ子を思わせる衣装。
70年代に流行した、魔法少女の姿。
長い年月を感じさせない姿でありながら、その瞳には長い時間を生きてきた者の影があった。
初代魔法少女。
彼女は、四人を待っていた。
アクティア。
エクリア。
ルミナ。
リネア。
四人は足を止める。
初代魔法少女も、微動だにしない。
しばらく、誰も何も言わなかった。
やがて初代魔法少女が、静かに口を開いた。
「……来たのね」
その声には、怒りだけではない。
寂しさ。
諦め。
そして、どこか悲しい決意が混ざっていた。
アクティアは新しいレイピアを握る。
エクリアも、静かに構える。
ルミナは拳を握りしめる。
リネアは二本のアラネアの杖を手にしていた。
もう、逃げることはできない。
だが――。
今回の戦いは、これまでとは違う。
倒すだけでは終わらない。
彼女たちは知ってしまった。
ネガティアの奥に囚われている、無数の少女たちの存在を。
セレナの失望を。
そして、初代魔法少女が長い年月の中で抱え続けてきたものを。
アクティアは初代魔法少女を見つめた。
その姿は、敵というより――。
魔法少女というものに取り残された、一人の少女のようにも見えた。
「……あなたは」
アクティアが口を開く。
初代魔法少女が、彼女を見る。
そして――。
第43章は、ここで幕を閉じる。
最後の戦いは、まだ始まらない。
その前に4人は、初代魔法少女がなぜ「幸せ」を証明しようとしているのか。
その答えと向き合わなければならなかった。
