ネガティア基地の奥深く。
初代魔法少女との戦いを終えたアクティアたちは、それぞれ別々の通路へ進んでいた。
アクティアビットはすべて破損。
ルミナも負傷。
エクリアは意識を失い、リネアに背負われている。
そして、リネアの背中にある魔法少女としての背部ユニットも大きく損傷していた。
それでも、4人は進む。
もう、後戻りはできない。
ネガティア基地の奥には、まだ何かが隠されている。
その何かを知るために。
アクティア、ルミナ、リネア。
それぞれが別の通路を進んでいた。
後ろから追ってきていた大量の戦闘員。
その姿が、いつの間にか消えていた。
ルミナは足を止める。
「……静かすぎる」
さっきまであれほど響いていた足音もない。
攻撃してくる者もいない。
まるで、この先だけが別の場所になったようだった。
ルミナは慎重に進んでいく。
そして、広い部屋へ出た。
そこに、一人の少女が立っていた。
ルミナは目を疑った。
その姿は、自分の魔法少女姿によく似ている。
髪。
衣装。
身体の雰囲気。
けれど、それ以上にルミナを驚かせたものがあった。
その顔だった。
「……え?」
ルミナの身体が止まる。
目の前の少女は、
幼い頃に交通事故で亡くなった妹に、そっくりだった。
少女はルミナを見つめる。
そして静かに名乗った。
「私は……ネヴィア」
ルミナの胸が大きく揺れた。
「ネヴィア……?」
妹の名前ではない。
当然、分かっている。
それでも、その顔を見れば思い出してしまう。
幼い頃。
一緒に遊んだ日。
笑っていた妹。
そして、突然失われた日。
なぜ。
なぜ今になって。
なぜネガティア基地で。
ルミナには理解できなかった。
ネヴィアが構える。
ルミナも遅れて構えようとした。
しかし、
一瞬だけ遅れた。
ドンッ!
ネヴィアの拳がルミナのみぞおちへ直撃した。
「ぐっ……!」
ルミナの身体が折れ、膝が落ちる。
だが、ダメージそのものは大きくない。
時間が経てば身体は再生できる。
それよりもルミナの頭を支配していたのは、
なぜ妹と同じ顔をしているのか
という疑問だった。
ルミナは立ち上がる。
「……あなたは、一体何なの?」
ネヴィアは答えない。
ただ、再び構える。
ルミナは覚悟を決めた。
「なら……力で確かめる!」
赤い光がルミナの身体を包む。
レッドオーバードライブ。
一瞬で、
一人。
二人。
十人。
そして、
50体のルミナ。
全員がネヴィアへ突撃する。
ところが。
ネヴィアの身体からも、オーラが噴き出した。
しかし、その色は赤ではない。
蒼。
ルミナが目を見開く。
「……まさか」
ネヴィアの姿も分裂する。
一体。
十体。
そして、
50体。
赤いルミナ50体。
蒼いネヴィア50体。
二つの群れが、正面から激突した。
ドドドドドドッ!
拳と拳。
蹴りと蹴り。
高速で動く100体の分身。
基地の広間に、激しい衝撃音が響き渡る。
残ったのはルミナとネヴィア。
二人とも、両手両足に無数のアザが残っていた。
ルミナは息を整える。
ネヴィアも傷を再生させている。
しかし。
「……速い」
わずかにネヴィアの再生のほうが速かった。
その瞬間。
ネヴィアが踏み込む。
シュッ!
高速のローキック。
ルミナの片足を払う。
続けて反対側。
ドッ!
両足を蹴られ、ルミナはバランスを崩した。
「うわっ!」
その場に倒れ込む。
しかし、ルミナはすぐに立ち上がろうとした。
その時だった。
「……あれ?」
再生が止まった。
ルミナは自分の身体を確認する。
傷が治らない。
「魔力が……」
何かが魔力の伝達を遮断している。
そう考えた。
しかし、しばらくすると再び魔力が流れ始めた。
傷が少しずつ修復されていく。
ルミナは立ち上がった。
ネヴィアは構わず突撃する。
ドドドドドッ!
拳のラッシュ。
ルミナは両腕を上げ、防御する。
ダメージを最小限に抑える。
そしてネヴィアが離れた瞬間。
ルミナの再生は止まらなかった。
ネヴィアも疑問に思っている。
二人の間に、奇妙な沈黙が生まれた。
ルミナは考えていた。
ネヴィアから攻撃を受けた時。
確かに感じた。
身体へのダメージだけではない。
魔力を削られている。
その感覚。
ネヴィアの再生。
分身。
そして自分と酷似した能力。
ルミナの中で、一つの答えが形になっていく。
「……やっぱり」
もし予想どおりなら。
この少女は、
量産型魔法少女。
ネガティアによって生み出された存在。
ルミナはあえて、ネヴィアの攻撃を受けながらも、自分の魔力消費を抑えていた。
そして待った。
ネヴィア自身の魔力が大幅に減少する瞬間を。
ネヴィアが蒼色のオーラを纏う。
その身体の傷が修復されていく。
衣装も再生する。
そして、
50体の分身。
ネヴィアが一斉にルミナへ襲いかかる。
前から。
横から。
後ろから。
上から。
逃げ道はない。
全方位から拳が叩き込まれる。
ドドドドドドドッ!
「ぐっ……!」
ルミナの身体から血が流れる。
それでもネヴィアは止まらない。
「終わらせる!」
さらに攻撃。
さらに攻撃。
しかし、やがて。
蒼色のオーラが弱くなっていく。
ネヴィア自身の呼吸が乱れる。
そして、
レッドオーバードライブの稼働時間が限界を迎えた。
50体のネヴィアが、
一体。
また一体。
消えていく。
最後の分身が消滅した。
ネヴィアは肩で息をしていた。
「……はぁ……はぁ……」
そして、目の前を見る。
そこには、
ボロボロになったルミナが立っていた。
衣装も傷つき、身体から血が流れている。
普通なら、もう立っていられない。
それでも。
ルミナは、
ニヤリ。
と笑った。
「……待ってたよ」
赤いオーラが爆発する。
「レッドオーバードライブ!」
ルミナの身体を赤い光が包む。
傷が一瞬で修復される。
衣装も再生する。
ネヴィアの表情が変わった。
「……!」
ネヴィアは、もう魔力をほとんど残していない。
対してルミナは、
50体の分身を再び展開した。
今度はルミナの攻撃。
50体がネヴィアを取り囲む。
そして、ネヴィアの身体を覆っている生体素材を次々と引き剥がしていく。
「やめ……!」
生体素材は再生する。
しかし。
再生するたびに、
ネヴィアの魔力が削られていく。
また再生。
また消費。
また再生。
また消費。
ルミナは止めない。
やがて、生体素材の再生速度が落ちる。
そして、
ついに再生できなくなった。
ネヴィアの身体が震える。
「……いや……」
身体の一部が、灰へ変わり始めた。
指先。
腕。
脚。
そして身体全体へ。
魔力が完全になくなった。
ネヴィアの身体を維持するものがなくなっていく。
「私……は……」
最後の言葉は、完成しなかった。
ネヴィアの身体は、
すべて灰へ変わった。
さらさらと床へ落ちる。
静寂。
ルミナは、その灰を見つめる。
ルミナには、もう分かっていた。
ネヴィアは妹ではない。
妹が帰ってきたわけでもない。
ネガティアによって作られた、量産型魔法少女。
ルミナの能力を再現した存在。
それでも。
あの顔だけは、
妹だった。
ルミナは床の灰を見つめる。
「……あなたは、本当に誰だったの?」
答えは返ってこない。
ルミナはしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと仲間たちが進んだ方向を見る。
「……みんなのところに戻らなきゃ」
ルミナは歩き出す。
ネヴィアの正体を完全に知ることはできなかった。
それでも、ここで立ち止まるわけにはいかない。
アクティア。
エクリア。
リネア。
仲間たちは、まだ基地の奥にいる。
そしてその先には、
ネガティアが45年間隠し続けてきた真実が待っている。
ルミナは、仲間たちのもとへ向かって走り始めた。
