初代魔法少女は、4人の魔法少女たちに背を向けた。
そのまま、ネガティア基地の奥へと歩いていく。
アクティアは、床に落ちていたレイピアを拾い上げた。
先ほどまでの戦いで、アクティアビットはすべて破損している。
飛行マントも、左手のシールドも損傷したままだ。
それでも、アクティアの装備は完全に失われたわけではなかった。
時間が経つにつれて、少しずつ修復が始まっている。
「……行っちゃったね」
ルミナが、初代魔法少女の消えた通路を見る。
アクティアはレイピアを握り直した。
「私たちを倒せるはずだったのに……」
「わざと残したんだと思う」
リネアが静かに答えた。
その背中では、破壊された背部ユニットが青白く点滅している。
リネア自身の魔力によって、少しずつ修復が進んでいた。
けれど、完全に直るにはまだ時間が必要だった。
そして、エクリア。
彼女はリネアのそばで、まだ目を閉じていた。
衣装も、両手両足の装甲も、すでに修復されている。
ただ、初代魔法少女から受けた背中への二度の大きなダメージ。
身体は生きている。
けれど、意識だけが戻ってこない。
「エクリア……」
アクティアが心配そうに呼びかける。
リネアはエクリアの身体を確認した。
「大丈夫。生きてる」
その言葉に、アクティアは小さく息を吐いた。
そのときだった。
遠くから、無数の足音が聞こえてきた。
「……来るよ」
ルミナが振り返る。
基地へ入ってきた方向。
そこから、大勢のネガティア戦闘員が戻ってきた。
「今さら!?」
ルミナが身構える。
アクティアはレイピアを構えた。
「リネア、エクリアをお願い!」
「分かった!」
リネアは意識を失ったエクリアを背負った。
アクティアとルミナが前に出る。
二人は迫り来る戦闘員を食い止めながら、少しずつ後退した。
「こっちは任せて!」
「リネア、先に行って!」
「うん!」
リネアはエクリアを背負ったまま、基地の奥へ走る。
アクティアとルミナも、戦闘員を振り切るように後を追った。
やがて、長い通路の先に複数の道が現れた。
「……分かれ道?」
アクティアが立ち止まる。
左右。
そして正面。
三つの道が、それぞれ別方向へ伸びている。
後ろからは、まだ戦闘員が迫っている。
ルミナが周囲を見回した。
「このまま全員で一緒に行ったら、まとめて囲まれるよ」
アクティアも頷いた。
「だったら……分かれよう」
リネアがエクリアを背負ったまま答える。
「戦力を分散させるのね」
「うん。少しでも回復する時間を作って、それから戦闘員を無力化する」
3人は互いに目を合わせた。
そして、それぞれ違う道へ進んだ。
アクティアは左。
ルミナは右。
リネアはエクリアを背負い、正面の道へ。
四人の姿は、暗い通路の中へ別々に消えていった。
アクティアは一人で走っていた。
しばらく進むと、不思議なことに気づいた。
「……戦闘員がいない?」
さっきまで、あれほど大量にいた戦闘員の姿がない。
足音も聞こえない。
基地の奥は、異様なほど静かだった。
アクティアはレイピアを構えたまま、慎重に進んでいく。
やがて、広い部屋に出た。
そこには、一人の人物が立っていた。
「……誰?」
アクティアは目を細める。
その人物は、魔法少女だった。
そして、その姿は――
アクティアによく似ていた。
衣装。
全体のシルエット。
魔法少女としての姿。
まるでアクティアを参考にして作られたかのようだった。
「……私?」
もちろん、アクティア本人ではない。
しかし、あまりにも似ている。
その魔法少女は何も言わず、アクティアを見つめていた。
アクティアはレイピアを握り直す。
「あなた……何者なの?」
返事はない。
ただ静かに、そこに立っている。
一方、別の通路を進んでいたルミナ。
「……こっちも静かすぎる」
戦闘員の姿はない。
ルミナは警戒しながら歩いていた。
そのときだった。
背後に気配を感じた。
「!」
ルミナが振り返る。
そこに、一人の人物が立っていた。
「……え?」
ルミナの目が大きく開く。
その姿もまた――
ルミナ自身の魔法少女姿によく似ていた。
ルミナは一歩後ろへ下がる。
「……何なの、あんた」
その人物は答えない。
ただ、ルミナをじっと見ている。
アクティアと同じだった。
なぜネガティア基地の最奥に、自分たちによく似た魔法少女がいるのか。
ルミナには何も分からなかった。
そのころ。
リネアは、エクリアを背負ったまま、長い通路を進んでいた。
すると――
「……う……」
背中から、小さな声が聞こえた。
リネアが足を止める。
「エクリア?」
エクリアがゆっくりと目を開けた。
「……ここ……どこ?」
「ネガティア基地の奥よ」
リネアは少しだけ安心した。
「ずっと眠っていたの」
エクリアは自分の身体を確認する。
衣装も装甲も戻っている。
けれど、背中にはまだ重い感覚が残っていた。
「……背中が、痛い」
「無理しないで」
「でも……歩ける」
エクリアはリネアの背中から降りる。
二人は並んで歩き始めた。
そして、しばらく進んだ先。
そこには、広い空間があった。
リネアが足を止める。
エクリアも、その人物を見た瞬間に表情を変えた。
「……ネレイド」
そこに立っていたのは、
ネレイドだった。
かつて何度も4人の前に立ちはだかった、ネガティアの幹部。
しかし、以前のような余裕はない。
アクティアたちとの戦い。
そして初代魔法少女との戦い。
幾度もの損傷によって、ネレイド自身もまだ完全には回復していなかった。
それでも、彼女はそこに立っていた。
「……やっぱり来たのね」
ネレイドが静かに言う。
エクリアは光刃を構える。
リネアも警戒する。
ネレイドは二人を見つめた。
そして、二人の後ろにある通路へ目を向ける。
「この先に何があるのか……知りたいのでしょう?」
エクリアは答えない。
ネレイドは続けた。
「なら、見ればいいわ」
「ネガティアが、何のために存在していたのかを」
リネアの表情が変わる。
「……何のために?」
ネレイドは答えなかった。
ただ、基地のさらに奥へ続く扉を見つめる。
その扉の向こうには、まだ誰も知らない何かがある。
そして、初代魔法少女が残した言葉。
「辛い現実を知りたいのね」
その意味も。
アクティアの前に現れた、自分によく似た魔法少女も。
ルミナの前に現れた、自分によく似た魔法少女も。
すべてが一本の線で繋がっているように思えた。
ネガティア基地の最奥。
そこへ向かう4人の前に、
いよいよネガティアの真実が姿を現そうとしていた。
