市役所の再建工事が進む夜。
工事現場を照らす照明が、崩れた建物の残骸を白く照らしていた。
以前なら、この場所は巨大な瓦礫の山だった。
けれど今は違う。
新しい市役所を建てるため、昼も夜も関係なく工事が続いている。
その光景を、施設からやってきた4人の魔法少女が見つめていた。
アクティア。
ルミナ。
エクリア。
そして、魔法少女リネアとなった助手。
4人の目的は、ただ一つ。
ネガティアの基地へ入ることだった。
「……やっぱり、ここだ」
助手がタブレットを操作する。
監視カメラの映像。
そこには、市役所の残骸から出入りするネガティアの戦闘員が映っていた。
「市役所の下に……ネガティアの基地がある?」
アクティアが尋ねる。
助手は頷いた。
「可能性は高いと思います」
するとルミナが、アクティアとエクリアを見る。
「そういえば、お前たちがネガティアから脱出したときも、市役所だったんだろ?」
「ううん」
アクティアは首を横に振った。
「私たちが脱走したときは、森の中だったよ」
「私も同じ」
エクリアも答える。
「……森?」
ルミナは頭を傾げた。
どういうことなのか。
ネガティアには、まだ知られていない施設がいくつも存在するのかもしれない。
助手はタブレットを閉じた。
「アクティアビットの修復が終わり次第……」
4人を見る。
「ネガティア基地へ突入しましょう」
しばらく、誰も何も言わなかった。
やがてアクティアが呟く。
「これが……最後の戦いね」
ルミナも空を見上げた。
「……そうだといいね」
エクリアは静かに頷く。
「うん」
4人は、心のどこかで願っていた。
これが最後であってほしい。
魔法少女になってから、戦わない日はほとんどなかった。
誰かを守るため。
誰かを幸せにするため。
そのために何度も戦ってきた。
でも。
ふと、アクティアの胸に別の疑問が浮かんだ。
誰かを幸せにすることはできた。
では――。
自分たちの幸せは?
その答えは、まだ見つかっていなかった。
数日後。
アクティアビットの修復が完了した。
10基のビットが、アクティアの周囲へ浮かび上がる。
「……戻ってきた」
アクティアが小さく笑った。
4人は市役所の残骸へ向かった。
そして、それぞれ魔法少女へ変身する。
アクティア。
ルミナ。
エクリア。
リネア。
4人は、瓦礫の間に隠された入口へ足を踏み入れた。
ところが。
「……あれ?」
ルミナが拍子抜けした声を出した。
基地の内部は、普通のビルとほとんど変わらなかった。
廊下。
部屋。
事務スペース。
会議室。
エレベーターホール。
ネガティアの基地とは思えない。
「誰もいないね」
アクティアが周囲を見回す。
戦闘員もいない。
量産型魔法少女もいない。
怪人もいない。
あまりにも静かだった。
4人は警戒しながら、さらに奥へ進んでいく。
やがて、巨大な扉が現れた。
アクティアが扉を見る。
「この先……何かある」
助手も頷いた。
「行きましょう」
扉が開く。
ギィィィ……。
その先にいたのは――。
一人の魔法少女だった。
4人は言葉を失った。
長いスカート。
大きなリボン。
シンプルな衣装。
現在の魔法少女とはまるで違う。
まるで、1970年代に流行した「魔女っ子」と呼ばれていた時代の魔法少女が、そのまま現代に現れたような姿。
リネアが呟いた。
「……初代魔法少女」
初代魔法少女は、静かに4人を見つめていた。
「あなたたちが……今の魔法少女なのね」
その声には、怒りだけではない。
長い年月を生きてきた者の寂しさがあった。
「古いものは……」
初代魔法少女が口を開く。
「幸せの証明なんて、できないのよ」
アクティアが眉をひそめる。
「……何を言ってるの?」
初代魔法少女は答えず、指を鳴らした。
パチン。
その瞬間。
アクティアの左手にあったシールド装甲が消えた。
「えっ……?」
アクティアは自分の左腕を見る。
壊されたわけではない。
消えた。
最初から存在しなかったように。
「何をしたの……?」
初代魔法少女は静かに答える。
「私の魔法は、自身の思考を現実へ効果させる魔法」
4人には、その意味がすぐには理解できなかった。
初代魔法少女は続ける。
「私が考えれば、その場所に効果を起こすことができる」
「何かを消すこともできる」
「何かを変えることもできる」
そして、
「言い換えれば……私の考え一つで、何かが変わるということ」
エクリアが構える。
しかし初代魔法少女は動かない。
指すら動かさない。
それなのに――。
エクリアの魔法少女コスチュームが、突然すべて破損した。
「……え?」
エクリアは自分を見下ろす。
何もされていない。
攻撃を受けた感覚すらない。
初代魔法少女は言った。
「さっきは指を鳴らしていたけど」
「今度は何も動かずに、あなたたちを倒すこともできるのよ」
4人の表情が変わった。
敵には、攻撃の予兆がない。
武器を構える必要もない。
技を放つ必要もない。
ただ、
考えるだけ。
初代魔法少女は悲しそうに言った。
「私は……これからも幸せを証明できる」
その言葉には、切実な感情があった。
自分にはまだ価値がある。
そう証明したい。
しかし4人は、彼女へ向かおうとする。
その瞬間。
パチン。
アクティアビット10基が、すべて破損した。
「……っ!」
ルミナの左足にも損傷が走る。
エクリアの背中が傷つく。
そしてリネアには――。
ヒュッ!
小石が高速で飛んできた。
「っ!」
額に直撃する。
血が流れた。
「……近づけない」
ルミナが歯を食いしばる。
その通りだった。
4人には、初代魔法少女へ近づくことすらできない。
それでもリネアは諦めなかった。
背中のユニットを展開する。
青い光が広がった。
「リンクオーバー」
光が伸びる。
アクティアへ。
ルミナへ。
3人を繋ぐ。
しかし初代魔法少女は、悲しそうに呟いた。
「何をしても……あなたたちには幸せはない」
次の瞬間。
リネアの背部ユニットが破壊された。
「……!」
リンクが途切れる。
それと同時に、アクティアとルミナの飛行マントにも破損が走る。
さらにエクリアの背中へ衝撃が加わった。
「……っ」
エクリアの身体から力が抜ける。
ドサッ。
床へ倒れた。
「エクリア!」
アクティアが叫ぶ。
しかし、自分も動けない。
ビットはすべて破損している。
ルミナも負傷している。
リネアのリンクオーバーも失われた。
初代魔法少女は4人を見つめた。
「もう……戦えないでしょう?」
初代魔法少女は、ゆっくりと目を閉じた。
4人にはもう戦う術がない。
そう思ったのだ。
しかし――。
ズンッ!
初代魔法少女の頭へ、レイピアが突き刺さった。
「……!」
初代魔法少女の目が見開かれる。
アクティアだった。
彼女の手にはレイピアがある。
初代魔法少女は気づく。
自分は、4人の戦闘装備を奪った。
だが――。
アクティア自身が持つレイピアまでは完全に警戒していなかった。
さらに。
頭部へレイピアが刺さったことで、初代魔法少女の思考が空間へ伝わらなくなっている。
思考を現実へ変える。
その魔法の繋がりが、一時的に遮断されていた。
初代魔法少女はレイピアを抜く。
そして床へ投げ捨てた。
カランッ。
静かな音が響く。
初代魔法少女はアクティアを見る。
「……そんなに」
少し間を置いて。
「そんなにあなたたちは、辛い現実を知りたいのね」
4人は黙っている。
初代魔法少女は、基地のさらに奥へ続く通路を見る。
「見たければ……」
「奥へいらっしゃい」
そう言い残して、初代魔法少女は歩き始めた。
そして暗い通路の奥へ消えていく。
4人は、その背中を見つめていた。
辛い現実。
その先に何があるのか。
なぜ、初代魔法少女は自分たちを奥へ誘うのか。
アクティアは、床に落ちたレイピアを拾った。
そして、倒れているエクリアを見る。
ルミナとリネアが彼女を支える。
アクティアは立ち上がった。
「……行こう」
4人は、再び歩き出す。
ネガティア基地の、さらに奥へ。
そこにはまだ、
彼女たちが知らないネガティアの真実が待っていた。
