第38章 ネガティア基地 | 光と闇を 抱きしめたまま

光と闇を 抱きしめたまま

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市役所の再建工事が進む夜。

工事現場を照らす照明が、崩れた建物の残骸を白く照らしていた。

以前なら、この場所は巨大な瓦礫の山だった。

けれど今は違う。

新しい市役所を建てるため、昼も夜も関係なく工事が続いている。

その光景を、施設からやってきた4人の魔法少女が見つめていた。

アクティア。

ルミナ。

エクリア。

そして、魔法少女リネアとなった助手。

4人の目的は、ただ一つ。

ネガティアの基地へ入ることだった。

 

「……やっぱり、ここだ」

助手がタブレットを操作する。

監視カメラの映像。

そこには、市役所の残骸から出入りするネガティアの戦闘員が映っていた。

「市役所の下に……ネガティアの基地がある?」

アクティアが尋ねる。

助手は頷いた。

「可能性は高いと思います」

するとルミナが、アクティアとエクリアを見る。

「そういえば、お前たちがネガティアから脱出したときも、市役所だったんだろ?」

「ううん」

アクティアは首を横に振った。

「私たちが脱走したときは、森の中だったよ」

「私も同じ」

エクリアも答える。

「……森?」

ルミナは頭を傾げた。

どういうことなのか。

ネガティアには、まだ知られていない施設がいくつも存在するのかもしれない。

助手はタブレットを閉じた。

「アクティアビットの修復が終わり次第……」

4人を見る。

「ネガティア基地へ突入しましょう」

しばらく、誰も何も言わなかった。

やがてアクティアが呟く。

「これが……最後の戦いね」

ルミナも空を見上げた。

「……そうだといいね」

エクリアは静かに頷く。

「うん」

4人は、心のどこかで願っていた。

これが最後であってほしい。

魔法少女になってから、戦わない日はほとんどなかった。

誰かを守るため。

誰かを幸せにするため。

そのために何度も戦ってきた。

でも。

ふと、アクティアの胸に別の疑問が浮かんだ。

誰かを幸せにすることはできた。

では――。

自分たちの幸せは?

その答えは、まだ見つかっていなかった。

 

数日後。

アクティアビットの修復が完了した。

10基のビットが、アクティアの周囲へ浮かび上がる。

「……戻ってきた」

アクティアが小さく笑った。

4人は市役所の残骸へ向かった。

そして、それぞれ魔法少女へ変身する。

アクティア。

ルミナ。

エクリア。

リネア。

4人は、瓦礫の間に隠された入口へ足を踏み入れた。

 

ところが。

「……あれ?」

ルミナが拍子抜けした声を出した。

基地の内部は、普通のビルとほとんど変わらなかった。

廊下。

部屋。

事務スペース。

会議室。

エレベーターホール。

ネガティアの基地とは思えない。

「誰もいないね」

アクティアが周囲を見回す。

戦闘員もいない。

量産型魔法少女もいない。

怪人もいない。

あまりにも静かだった。

4人は警戒しながら、さらに奥へ進んでいく。

やがて、巨大な扉が現れた。

アクティアが扉を見る。

「この先……何かある」

助手も頷いた。

「行きましょう」

扉が開く。

ギィィィ……。

その先にいたのは――。

一人の魔法少女だった。

4人は言葉を失った。

長いスカート。

大きなリボン。

シンプルな衣装。

現在の魔法少女とはまるで違う。

まるで、1970年代に流行した「魔女っ子」と呼ばれていた時代の魔法少女が、そのまま現代に現れたような姿。

リネアが呟いた。

「……初代魔法少女」

初代魔法少女は、静かに4人を見つめていた。

「あなたたちが……今の魔法少女なのね」

その声には、怒りだけではない。

長い年月を生きてきた者の寂しさがあった。

 

「古いものは……」

初代魔法少女が口を開く。

「幸せの証明なんて、できないのよ」

アクティアが眉をひそめる。

「……何を言ってるの?」

初代魔法少女は答えず、指を鳴らした。

パチン。

その瞬間。

アクティアの左手にあったシールド装甲が消えた。

「えっ……?」

アクティアは自分の左腕を見る。

壊されたわけではない。

消えた。

最初から存在しなかったように。

「何をしたの……?」

初代魔法少女は静かに答える。

「私の魔法は、自身の思考を現実へ効果させる魔法」

4人には、その意味がすぐには理解できなかった。

初代魔法少女は続ける。

「私が考えれば、その場所に効果を起こすことができる」

「何かを消すこともできる」

「何かを変えることもできる」

そして、

「言い換えれば……私の考え一つで、何かが変わるということ」

 

エクリアが構える。

しかし初代魔法少女は動かない。

指すら動かさない。

それなのに――。

エクリアの魔法少女コスチュームが、突然すべて破損した。

「……え?」

エクリアは自分を見下ろす。

何もされていない。

攻撃を受けた感覚すらない。

初代魔法少女は言った。

「さっきは指を鳴らしていたけど」

「今度は何も動かずに、あなたたちを倒すこともできるのよ」

4人の表情が変わった。

敵には、攻撃の予兆がない。

武器を構える必要もない。

技を放つ必要もない。

ただ、

考えるだけ。

 

初代魔法少女は悲しそうに言った。

「私は……これからも幸せを証明できる」

その言葉には、切実な感情があった。

自分にはまだ価値がある。

そう証明したい。

しかし4人は、彼女へ向かおうとする。

その瞬間。

パチン。

アクティアビット10基が、すべて破損した。

「……っ!」

ルミナの左足にも損傷が走る。

エクリアの背中が傷つく。

そしてリネアには――。

ヒュッ!

小石が高速で飛んできた。

「っ!」

額に直撃する。

血が流れた。

「……近づけない」

ルミナが歯を食いしばる。

その通りだった。

4人には、初代魔法少女へ近づくことすらできない。

 

それでもリネアは諦めなかった。

背中のユニットを展開する。

青い光が広がった。

「リンクオーバー」

光が伸びる。

アクティアへ。

ルミナへ。

3人を繋ぐ。

しかし初代魔法少女は、悲しそうに呟いた。

「何をしても……あなたたちには幸せはない」

次の瞬間。

リネアの背部ユニットが破壊された。

「……!」

リンクが途切れる。

それと同時に、アクティアとルミナの飛行マントにも破損が走る。

さらにエクリアの背中へ衝撃が加わった。

「……っ」

エクリアの身体から力が抜ける。

ドサッ。

床へ倒れた。

「エクリア!」

アクティアが叫ぶ。

しかし、自分も動けない。

ビットはすべて破損している。

ルミナも負傷している。

リネアのリンクオーバーも失われた。

初代魔法少女は4人を見つめた。

「もう……戦えないでしょう?」

 

初代魔法少女は、ゆっくりと目を閉じた。

4人にはもう戦う術がない。

そう思ったのだ。

しかし――。

ズンッ!

初代魔法少女の頭へ、レイピアが突き刺さった。

「……!」

初代魔法少女の目が見開かれる。

アクティアだった。

彼女の手にはレイピアがある。

初代魔法少女は気づく。

自分は、4人の戦闘装備を奪った。

だが――。

アクティア自身が持つレイピアまでは完全に警戒していなかった。

さらに。

頭部へレイピアが刺さったことで、初代魔法少女の思考が空間へ伝わらなくなっている。

思考を現実へ変える。

その魔法の繋がりが、一時的に遮断されていた。

初代魔法少女はレイピアを抜く。

そして床へ投げ捨てた。

カランッ。

静かな音が響く。

初代魔法少女はアクティアを見る。

「……そんなに」

少し間を置いて。

「そんなにあなたたちは、辛い現実を知りたいのね」

4人は黙っている。

初代魔法少女は、基地のさらに奥へ続く通路を見る。

「見たければ……」

「奥へいらっしゃい」

そう言い残して、初代魔法少女は歩き始めた。

そして暗い通路の奥へ消えていく。

4人は、その背中を見つめていた。

辛い現実。

その先に何があるのか。

なぜ、初代魔法少女は自分たちを奥へ誘うのか。

アクティアは、床に落ちたレイピアを拾った。

そして、倒れているエクリアを見る。

ルミナとリネアが彼女を支える。

アクティアは立ち上がった。

「……行こう」

4人は、再び歩き出す。

ネガティア基地の、さらに奥へ。

そこにはまだ、

彼女たちが知らないネガティアの真実が待っていた。