轟音とともに、施設全体が大きく揺れる。
「なに!?」
ルミナが振り返る。
助手は手にしていたタブレットを確認した。
表示された魔力反応を見て、顔色が変わる。
「……メメントモリが動いた」
窓の外。
朝の空に浮かぶ巨大な蜘蛛の巣。
その中心を移動していた、巨大な一つ目の建造物。
メメントモリ。
閉じていたはずの目が、ゆっくりと開き始めていた。
「まずい……!」
助手が叫ぶ。
「まだ完全に充填されていない。でも、このままだと次のビームが撃てるようになる!」
アクティア、ルミナ、エクリアの表情が変わった。
ここで待っているわけにはいかない。
助手は3人を見た。
「メメントモリを直接攻撃する前に、まず死界脚を止める!」
「死界脚……」
アクティアが窓の外を見る。
市役所から離れた場所。
地面から空へ伸びる、巨大な蜘蛛の脚のような塔。
紫色の光を放ちながら、空の蜘蛛の巣へ魔力を送り続けている。
助手は続けた。
「死界脚には、魔法少女の魔力を減衰させる効果がある」
「だから私たちは、メメントモリまで飛べなかったんだね」
ルミナが言う。
「そう。そして、死界脚そのものには攻撃能力がほとんどない」
助手はタブレットを見せる。
「減衰効果しかない。だから……」
「壊せば、魔力の減衰も消える」
エクリアが言葉を続けた。
「その通り」
助手は頷いた。
「だから、まずあれを壊す」
アクティアは腰へ手を伸ばした。
10基のアクティアビット。
その存在を、はっきりと感じる。
損傷した2基も、助手の修理によって最低限の機能を取り戻していた。
「……みんな、行こう」
アクティアは立ち上がった。
そして、ルミナと顔を見合わせる。
二人は以前と同じようにチョーカーを交換していた。
「今度は、ちゃんと意味のある交換だね」
ルミナが笑う。
「うん」
アクティアも頷いた。
2人は互いのチョーカーを身につける。
光が二人を包む。
アクティアは、ルミナの魔法少女コスチュームへ。
ルミナは、アクティアの魔法少女コスチュームへ。
そしてエクリアも変身する。
「行こう!」
三人は施設の外へ飛び出した。
*
空へ。
三人は死界脚へ向かって飛んでいく。
しかし、死界脚へ近づくにつれて、身体が重くなっていった。
「……来た!」
ルミナが叫ぶ。
魔力の感覚がおかしい。
いつもなら軽々と動かせる身体が、まるで重い鎧を身につけたように感じる。
アクティアのビットも動きが鈍くなる。
「ビットの反応が遅い……!」
エクリアは光刃を展開した。
しかし、その反発力も弱い。
「やっぱり……」
エクリアは死界脚を見る。
「あれが魔力を減衰させている」
巨大な塔の表面を、紫色の光が走っている。
まるで塔そのものが巨大な生き物のようだった。
「だったら!」
アクティアが前へ出る。
「壊せばいい!」
10基のビットが一斉に展開した。
死界脚の周囲を取り囲む。
アクティアはビットとの感覚を集中させる。
「お願い……!」
ビットが光る。
「みんな、力を貸して!」
次の瞬間。
10基のビットから、一斉にビームが放たれた。
ドォォォォン!!
紫色の塔へ光が集中する。
表面が砕ける。
巨大な亀裂が走った。
しかし、
「まだ!」
死界脚は倒れない。
ルミナがアクティアの衣装をまとったまま前へ出る。
「だったら、私も!」
両手を前へ。
シールド発生器へ力を込める。
しかし、アクティアの衣装を着ているため、いつものようにシールドが展開するわけではない。
「……やっぱり、私のシールドは出ない!」
シールドは衣装側の機能。
チョーカーを交換していても、本人の能力として使えるわけではない。
ルミナは一瞬だけ悔しそうな顔をした。
だが、
「だったら、走る!」
ルミナは地上へ向かって加速した。
死界脚の減衰領域で速度は落ちている。
それでもルミナの脚力は健在だった。
「エクリア!」
「分かってる!」
エクリアが飛び出す。
左手の光刃を構える。
死界脚へ接近する。
「ここ!」
光刃が振り下ろされた。
ズバッ!!
塔の外装が切り裂かれる。
しかし内部はまだ無傷。
「硬い……!」
エクリアが距離を取る。
その直後、
「今度は私!」
ルミナが死界脚へ突っ込む。
ドゴォン!!
身体ごとぶつかる。
塔が大きく揺れた。
「効いてる!」
アクティアが叫ぶ。
「もう一度!」
10基のビットが再び位置を変える。
今度は死界脚の亀裂へ狙いを集中させる。
「いっけぇぇぇっ!」
10本のビームが一点へ集中した。
ドォォォォン!!
亀裂が一気に広がる。
死界脚が震える。
そして、
バキィィィィン!!
巨大な塔の中心部が砕けた。
死界脚が大きく傾く。
「倒れる!」
エクリアが叫ぶ。
三人が距離を取る。
巨大な蜘蛛の脚のような塔が、ゆっくりと地面へ倒れていく。
ドォォォォン!!
地面が揺れる。
紫色の光が消えた。
その瞬間だった。
「……あ」
アクティアが身体を見つめる。
先ほどまで感じていた重さが、
消えている。
ルミナも手を握る。
「魔力が……戻った」
エクリアは光刃を展開する。
シュンッ!
今までとは比べものにならないほど、強い反発力が戻ってきた。
「死界脚の減衰効果が消えた」
3人は空を見上げる。
巨大な蜘蛛の巣。
その中心には、
メメントモリ。
そして、
ゆっくりと開いていく巨大な目。
「……次は、あれ」
アクティアが呟く。
助手から通信が入る。
『みんな、急いで!』
声が緊迫している。
『メメントモリの魔力充填が進んでる!』
ルミナが空を見上げる。
メメントモリの目の奥に、
光が集まっていく。
エクリアが光刃を握り直す。
「死界脚は壊した」
アクティアが頷く。
「なら、今度は……」
三人は空へ向き直る。
さっきまで彼女たちを阻んでいた魔力減衰は、もうない。
上昇するための力も戻っている。
アクティアの10基のビットが、静かに浮かび上がる。
ルミナが構える。
エクリアの光刃が強く輝く。
そして。
メメントモリの目が、
完全に開いた。
空全体が、
白く光り始める。
助手の声が響く。
『来る!!』
三人は一斉に空を見上げた。
その先に待っているのは、
直径20メートルにも及ぶ、
死を運ぶ光。
メメントモリ攻略戦は、
ここから始まる。
