第31章 閉じた一つ目、その仕組み | 光と闇を 抱きしめたまま

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静かな施設の一室。

 ベッドが三つ並んでいた。

 その上で、アクティア、ルミナ、エクリアの三人は深く眠っていた。

 30章で受けた攻撃は、これまでの戦闘とは比べものにならないほど激しいものだった。

 特にアクティアの損傷は大きい。

 魔力最大値そのものが少ないアクティアは、魔力が減っているときの再生も遅い。

 そのため、身体の修復にはかなりの時間が必要だった。

 アクティアは変身を解いていた。

 変身しているほうが身体の再生には有利かもしれない。

 それでも今は、別のものを優先していた。

 アクティアビット。

 10基のビットに蓄えられた魔力を、もう一度戦えるところまで戻すためだった。

 自分自身の回復を急ぐよりも、ビットの魔力充填を優先する。

 それが今のアクティアにできることだった。

 アクティアは、ただ静かに眠っている。

 以前、ネガティア化したときのような異常な様子はない。

 苦しそうでもない。

 ただ深く、深く眠っていた。

 その隣では、助手が作業を続けている。

 机の上には、破壊されたアクティアビットが二基。

「……これは、かなり破損したわね」

 助手は慎重に内部を確認する。

 外装だけではない。

 内部の魔力回路にも損傷がある。

 それでも修理を諦めるつもりはなかった。

 タブレットには、30章の戦闘データが大量に表示されている。

 メメントモリのビーム。

 空に浮かぶ巨大な蜘蛛の巣。

 地上から伸びてきた蜘蛛の脚のような塔。

 そして、ビーム発射直前の魔力の変化。

 助手はそれらを一つずつ照合していく。

「……やっぱり、何か条件がある」

 画面を拡大する。

 メメントモリがビームを撃つ直前。

 巨大な蜘蛛の巣に張り巡らされた道が、次々と光っていた。

 そしてビームを撃った直後。

 その光が弱くなり、メメントモリの目が閉じていた。

「なるほど……」

 助手の指が止まった。

 その頃。

「……うっ」

 エクリアが目を覚ました。

 身体を起こすと、まだ痛みが残っている。

 しかし、動くことはできる。

 その少し後にルミナも目を覚ました。

「……ここは?」

「施設だよ」

 助手が答える。

 ルミナは周囲を見回した。

「アクティアは?」

 助手が、隣のベッドを見る。

「まだ眠ってる」

 エクリアもアクティアを見る。

 穏やかな寝顔だった。

「大丈夫なの?」

 ルミナが心配そうに尋ねる。

「うん。以前のネガティア化のときとは違う。単純に損傷が大きいんだ」

 助手は少しだけ間を置く。

「それにアクティアは、魔力最大値が少ないからね。どうしても回復には時間がかかる」

「そっか……」

 ルミナは小さく息を吐いた。

 エクリアも黙ってアクティアを見る。

 そして助手は、タブレットを二人の前に置いた。

「二人に話しておきたいことがある」

 画面には、空に浮かぶ巨大な蜘蛛の巣。

 その上を移動する一つ目の建造物。

 30章で三人が戦った、あの存在だった。

「まず、あの一つ目」

 助手は画面を拡大する。

「名前を付けることにした」

「名前?」

 ルミナが首を傾げる。

「うん」

 助手は一つ目の建造物を指差した。

「メメントモリ」

 エクリアがその名前を繰り返す。

「メメントモリ……」

「最短で、一時間に一度ビームを撃てる」

 二人の表情が変わる。

「一時間に一度……」

「そう」

 助手はさらにデータを表示した。

「ビームの直径は、およそ20メートル」

「20メートル……」

「直撃すれば、魔法少女でも耐えられないと思う」

 30章の光景が脳裏によみがえる。

 商店街を一瞬で焼き払った光。

 そして、量産型魔法少女たちを灰へ変えた光。

 ルミナが唇を噛む。

「……あれを、もう一度撃てるんだ」

「しかも最短で一時間に一回」

 助手は続ける。

「ただし、弱点もある」

 画面にメメントモリの目が映し出された。

「目が閉じている間は、ビームを撃てない」

 エクリアはメメントモリの目のことを思い出した。

「あのとき……ビームを撃ったあとに目が閉じた」

「そう。おそらくビームを撃った直後は、再充填が必要になる」

 次に助手が蜘蛛の巣を表示する。

「それと、もう一つ」

 蜘蛛の巣には、無数の道が張り巡らされている。

「メメントモリは、この蜘蛛の巣の道を移動する」

「いつでも?」

 エクリアが尋ねる。

「基本的にはね」

 しかし助手は、一部の道を拡大した。

「ただし、光っている道は通れない」

「……なるほど」

 エクリアは納得した。

「蜘蛛の巣全体の道が光っていたときに、メメントモリが動かなかったのはそのためだったのね」

「そういうこと」

 助手は次の画面を表示した。

 そこに映ったのは、

 地上から伸びる巨大な蜘蛛の脚のような塔。

「そして、こっち」

 助手はそれを指差した。

「こいつを、死界脚と呼ぶことにしました」

「死界脚……」

 ルミナが名前を口にする。

「これは攻撃用の装置じゃない」

 助手の画面に、紫色の波が表示された。

「魔法少女の魔力を減衰させる装置なの」

 エクリアの目が見開かれる。

「だから……」

「そう」

 助手は頷いた。

「三人がメメントモリの高さまで飛べなかった原因は、これ」

 アクティアのビット。

 ルミナのマント。

 エクリアの光刃。

 どれも飛行に使える。

 だが、死界脚の影響を受けたことで、魔力の出力が大きく低下した。

「高度を上げれば上げるほど、飛行には大きなエネルギーが必要になる」

「でも魔力を減衰させられていた」

 エクリアが続ける。

「だから、横には飛べても……上には飛べなかった」

「その通り」

 助手は画面を切り替えた。

「でも、死界脚にも弱点がある」

 二人が画面を見る。

「こいつは、魔力を減衰させる機能しか持っていない」

 そして、

「だから、死界脚を破壊すれば、減衰効果は消える」

 部屋に沈黙が落ちる。

 エクリアが腕を組む。

「だったら、まず死界脚を破壊する」

 ルミナも頷く。

「そうすれば、メメントモリのところまで飛べる」

「その通り」

 助手は三人の能力を画面に並べた。

「メメントモリと死界脚を破壊できる可能性があるのは、あなたたちの能力だと思う」

 まずアクティアビット。

「アクティアビットなら、合体させて攻撃できる」

 次にエクリアの光刃。

「エクリアの光刃なら、接近して構造物そのものを切断できる」

 そしてルミナ。

「ルミナはアクティアのコスチュームなら高速移動とシールドがある」

 3人は顔を見合わせた。

 そのとき、助手がふと思いついたように言った。

「……だから、もう一度チョーカーを交換してみたら?」

 アクティアとルミナが同時に助手を見る。

「また?」

「今回は冗談じゃない」

 助手は真剣だった。

「戦闘のためだよ」

 二人は顔を見合わせる。

 そして、

「分かった」

 アクティアが頷いた。

 ルミナもチョーカーを外す。

 互いのチョーカーを交換する。

 首に装着。

 そして、変身。

 光が二人を包み込む。

 次の瞬間。

 アクティアは、

 ルミナの魔法少女コスチュームを身にまとっていた。

 そしてルミナは、

 アクティアの魔法少女コスチュームへ。

 以前は冗談だった。

 今回は違う。

 二人は、互いの衣装の力を理解したうえで交換している。

「……よし」

 アクティアが自分の新しい衣装を見る。

「これなら動きやすい」

 ルミナも自分の衣装を確認する。

「私も、これなら……」

 そのときだった。

「……ん」

 ベッドから声がした。

 三人が振り返る。

 アクティアが目を覚ましていた。

「アクティア!」

 ルミナが駆け寄る。

「大丈夫?」

「うん……」

 アクティアはゆっくり身体を起こした。

 まだ完全な回復ではない。

 だが、

「身体……動く」

 手を動かす。

 足を動かす。

 そして、アクティアは意識を集中させた。

「……ビット」

 目を閉じる。

 その瞬間。

 頭の中に、

10個の存在。

「……いる」

 アクティアビット。

 10基すべての存在を感じ取ることができた。

「10基……全部分かる」

 アクティアは安心したように微笑んだ。

 変身はしない。

 普段着のまま、3人と助手のところへ歩いていく。

 助手はアクティアが来るのを待っていた。

「ちょうどいい」

 タブレットを操作する。

「アクティアにも説明しておこう」

 そして助手は、空を指差した。

「一つ目の建造物は、メメントモリ」

 続いて地上を示す。

「蜘蛛の脚のような塔は、死界脚」

 アクティアは、その名前を聞きながら窓の外を見る。

 空には巨大な蜘蛛の巣。

 その中心には、静かに浮かぶメメントモリ。

「……メメントモリ」

 アクティアはその名前を呟いた。

 その瞬間。

ドォォォォン!!

 突然、施設の外が白く輝いた。

「えっ!?」

 4人が窓を見る。

 市役所。

 その上空から、

一筋の光が落ちてきた。

 巨大な光は一直線に地面へ向かい、

 そして、

市役所へ着弾した。

 施設全体が激しく揺れる。

「な、何!?」

 ルミナが身構える。

 エクリアもすぐに戦闘態勢に入る。

 助手はタブレットを確認した。

 画面には、異常な魔力反応。

「……そんな」

 アクティアが助手を見る。

「どうしたの?」

 助手は空を見上げた。

「メメントモリの魔力充填が……」

 そして、

 4人が空を見る。

 巨大な蜘蛛の巣。

 その中心。

 閉じていたはずの一つ目が、

 ゆっくりと、

 ゆっくりと、

開き始めていた。

「……もう、次が来る」

 エクリアが呟く。

 アクティアは拳を握った。

 ルミナも構える。

 まだ身体は完全ではない。

 それでも、

 4人の前には、

 これまでとは桁違いの敵が待っている。

 そして空の巨大な目が、

再び、街を見下ろし始めた。