静かな施設の一室。
ベッドが三つ並んでいた。
その上で、アクティア、ルミナ、エクリアの三人は深く眠っていた。
30章で受けた攻撃は、これまでの戦闘とは比べものにならないほど激しいものだった。
特にアクティアの損傷は大きい。
魔力最大値そのものが少ないアクティアは、魔力が減っているときの再生も遅い。
そのため、身体の修復にはかなりの時間が必要だった。
アクティアは変身を解いていた。
変身しているほうが身体の再生には有利かもしれない。
それでも今は、別のものを優先していた。
アクティアビット。
10基のビットに蓄えられた魔力を、もう一度戦えるところまで戻すためだった。
自分自身の回復を急ぐよりも、ビットの魔力充填を優先する。
それが今のアクティアにできることだった。
アクティアは、ただ静かに眠っている。
以前、ネガティア化したときのような異常な様子はない。
苦しそうでもない。
ただ深く、深く眠っていた。
その隣では、助手が作業を続けている。
机の上には、破壊されたアクティアビットが二基。
「……これは、かなり破損したわね」
助手は慎重に内部を確認する。
外装だけではない。
内部の魔力回路にも損傷がある。
それでも修理を諦めるつもりはなかった。
タブレットには、30章の戦闘データが大量に表示されている。
メメントモリのビーム。
空に浮かぶ巨大な蜘蛛の巣。
地上から伸びてきた蜘蛛の脚のような塔。
そして、ビーム発射直前の魔力の変化。
助手はそれらを一つずつ照合していく。
「……やっぱり、何か条件がある」
画面を拡大する。
メメントモリがビームを撃つ直前。
巨大な蜘蛛の巣に張り巡らされた道が、次々と光っていた。
そしてビームを撃った直後。
その光が弱くなり、メメントモリの目が閉じていた。
「なるほど……」
助手の指が止まった。
その頃。
「……うっ」
エクリアが目を覚ました。
身体を起こすと、まだ痛みが残っている。
しかし、動くことはできる。
その少し後にルミナも目を覚ました。
「……ここは?」
「施設だよ」
助手が答える。
ルミナは周囲を見回した。
「アクティアは?」
助手が、隣のベッドを見る。
「まだ眠ってる」
エクリアもアクティアを見る。
穏やかな寝顔だった。
「大丈夫なの?」
ルミナが心配そうに尋ねる。
「うん。以前のネガティア化のときとは違う。単純に損傷が大きいんだ」
助手は少しだけ間を置く。
「それにアクティアは、魔力最大値が少ないからね。どうしても回復には時間がかかる」
「そっか……」
ルミナは小さく息を吐いた。
エクリアも黙ってアクティアを見る。
そして助手は、タブレットを二人の前に置いた。
「二人に話しておきたいことがある」
画面には、空に浮かぶ巨大な蜘蛛の巣。
その上を移動する一つ目の建造物。
30章で三人が戦った、あの存在だった。
「まず、あの一つ目」
助手は画面を拡大する。
「名前を付けることにした」
「名前?」
ルミナが首を傾げる。
「うん」
助手は一つ目の建造物を指差した。
「メメントモリ」
エクリアがその名前を繰り返す。
「メメントモリ……」
「最短で、一時間に一度ビームを撃てる」
二人の表情が変わる。
「一時間に一度……」
「そう」
助手はさらにデータを表示した。
「ビームの直径は、およそ20メートル」
「20メートル……」
「直撃すれば、魔法少女でも耐えられないと思う」
30章の光景が脳裏によみがえる。
商店街を一瞬で焼き払った光。
そして、量産型魔法少女たちを灰へ変えた光。
ルミナが唇を噛む。
「……あれを、もう一度撃てるんだ」
「しかも最短で一時間に一回」
助手は続ける。
「ただし、弱点もある」
画面にメメントモリの目が映し出された。
「目が閉じている間は、ビームを撃てない」
エクリアはメメントモリの目のことを思い出した。
「あのとき……ビームを撃ったあとに目が閉じた」
「そう。おそらくビームを撃った直後は、再充填が必要になる」
次に助手が蜘蛛の巣を表示する。
「それと、もう一つ」
蜘蛛の巣には、無数の道が張り巡らされている。
「メメントモリは、この蜘蛛の巣の道を移動する」
「いつでも?」
エクリアが尋ねる。
「基本的にはね」
しかし助手は、一部の道を拡大した。
「ただし、光っている道は通れない」
「……なるほど」
エクリアは納得した。
「蜘蛛の巣全体の道が光っていたときに、メメントモリが動かなかったのはそのためだったのね」
「そういうこと」
助手は次の画面を表示した。
そこに映ったのは、
地上から伸びる巨大な蜘蛛の脚のような塔。
「そして、こっち」
助手はそれを指差した。
「こいつを、死界脚と呼ぶことにしました」
「死界脚……」
ルミナが名前を口にする。
「これは攻撃用の装置じゃない」
助手の画面に、紫色の波が表示された。
「魔法少女の魔力を減衰させる装置なの」
エクリアの目が見開かれる。
「だから……」
「そう」
助手は頷いた。
「三人がメメントモリの高さまで飛べなかった原因は、これ」
アクティアのビット。
ルミナのマント。
エクリアの光刃。
どれも飛行に使える。
だが、死界脚の影響を受けたことで、魔力の出力が大きく低下した。
「高度を上げれば上げるほど、飛行には大きなエネルギーが必要になる」
「でも魔力を減衰させられていた」
エクリアが続ける。
「だから、横には飛べても……上には飛べなかった」
「その通り」
助手は画面を切り替えた。
「でも、死界脚にも弱点がある」
二人が画面を見る。
「こいつは、魔力を減衰させる機能しか持っていない」
そして、
「だから、死界脚を破壊すれば、減衰効果は消える」
部屋に沈黙が落ちる。
エクリアが腕を組む。
「だったら、まず死界脚を破壊する」
ルミナも頷く。
「そうすれば、メメントモリのところまで飛べる」
「その通り」
助手は三人の能力を画面に並べた。
「メメントモリと死界脚を破壊できる可能性があるのは、あなたたちの能力だと思う」
まずアクティアビット。
「アクティアビットなら、合体させて攻撃できる」
次にエクリアの光刃。
「エクリアの光刃なら、接近して構造物そのものを切断できる」
そしてルミナ。
「ルミナはアクティアのコスチュームなら高速移動とシールドがある」
3人は顔を見合わせた。
そのとき、助手がふと思いついたように言った。
「……だから、もう一度チョーカーを交換してみたら?」
アクティアとルミナが同時に助手を見る。
「また?」
「今回は冗談じゃない」
助手は真剣だった。
「戦闘のためだよ」
二人は顔を見合わせる。
そして、
「分かった」
アクティアが頷いた。
ルミナもチョーカーを外す。
互いのチョーカーを交換する。
首に装着。
そして、変身。
光が二人を包み込む。
次の瞬間。
アクティアは、
ルミナの魔法少女コスチュームを身にまとっていた。
そしてルミナは、
アクティアの魔法少女コスチュームへ。
以前は冗談だった。
今回は違う。
二人は、互いの衣装の力を理解したうえで交換している。
「……よし」
アクティアが自分の新しい衣装を見る。
「これなら動きやすい」
ルミナも自分の衣装を確認する。
「私も、これなら……」
そのときだった。
「……ん」
ベッドから声がした。
三人が振り返る。
アクティアが目を覚ましていた。
「アクティア!」
ルミナが駆け寄る。
「大丈夫?」
「うん……」
アクティアはゆっくり身体を起こした。
まだ完全な回復ではない。
だが、
「身体……動く」
手を動かす。
足を動かす。
そして、アクティアは意識を集中させた。
「……ビット」
目を閉じる。
その瞬間。
頭の中に、
10個の存在。
「……いる」
アクティアビット。
10基すべての存在を感じ取ることができた。
「10基……全部分かる」
アクティアは安心したように微笑んだ。
変身はしない。
普段着のまま、3人と助手のところへ歩いていく。
助手はアクティアが来るのを待っていた。
「ちょうどいい」
タブレットを操作する。
「アクティアにも説明しておこう」
そして助手は、空を指差した。
「一つ目の建造物は、メメントモリ」
続いて地上を示す。
「蜘蛛の脚のような塔は、死界脚」
アクティアは、その名前を聞きながら窓の外を見る。
空には巨大な蜘蛛の巣。
その中心には、静かに浮かぶメメントモリ。
「……メメントモリ」
アクティアはその名前を呟いた。
その瞬間。
ドォォォォン!!
突然、施設の外が白く輝いた。
「えっ!?」
4人が窓を見る。
市役所。
その上空から、
一筋の光が落ちてきた。
巨大な光は一直線に地面へ向かい、
そして、
市役所へ着弾した。
施設全体が激しく揺れる。
「な、何!?」
ルミナが身構える。
エクリアもすぐに戦闘態勢に入る。
助手はタブレットを確認した。
画面には、異常な魔力反応。
「……そんな」
アクティアが助手を見る。
「どうしたの?」
助手は空を見上げた。
「メメントモリの魔力充填が……」
そして、
4人が空を見る。
巨大な蜘蛛の巣。
その中心。
閉じていたはずの一つ目が、
ゆっくりと、
ゆっくりと、
開き始めていた。
「……もう、次が来る」
エクリアが呟く。
アクティアは拳を握った。
ルミナも構える。
まだ身体は完全ではない。
それでも、
4人の前には、
これまでとは桁違いの敵が待っている。
そして空の巨大な目が、
再び、街を見下ろし始めた。
