夜の街は、静かだった。
戦いが続いた街とは思えないほど、周囲には静けさが広がっている。
アクティア、ルミナ、エクリア、そして助手。
4人は、束の間の休息を楽しんでいた。
いつ終わるか分からない戦いの中で、こうして何気ない話をできる時間は貴重だった。
ルミナが笑い、アクティアがそれに突っ込み、助手が二人を茶化す。
エクリアも、そんな3人を見ながら静かに微笑んでいた。
そのときだった。
「……ん?」
ルミナが、ふと空を見上げた。
「どうしたの?」
アクティアも空を見る。
夜空には、何かがあった。
暗闇の中に、細い光の道筋のようなものが浮かんでいる。
それは星でもない。
流れ星でもない。
空の彼方へ向かって、何か巨大なものが移動しているようだった。
「……あれ、何だろう?」
ルミナが呟いた。
その瞬間。
空から、一筋の光が落ちた。
「えっ?」
光は真っ直ぐ地上へ向かっていく。
そして、その下にあった建築中のビルを直撃した。
轟音が街を揺らす。
建物が大きく崩れ落ち、鉄骨とコンクリートが次々と地面へ落下していった。
「な、何なの……?」
アクティアたちは、呆然と崩れたビルを見つめる。
ただの事故ではない。
あの光は、明らかに空から落ちてきた。
そして、それからしばらくして。
夜が明け始めた。
空が少しずつ青くなっていく。
朝日が街を照らし始めたとき、4人は再び空を見上げた。
そこで目にしたものは、
想像を遥かに超えていた。
「…………」
4人とも、言葉を失った。
空に浮かんでいた。
巨大な蜘蛛の巣が。
その大きさは、直径10キロにも及ぶのではないかと思えるほどだった。
朝日に照らされた巨大な巣は、紫色の光を帯びている。
そして、その巣の上を何かが移動していた。
巨大な、
一つの目。
建造物の中央に、巨大な目が存在している。
それが蜘蛛の巣の上を移動するたび、その後ろには紫色の光の軌跡が残っていた。
「……何、あれ……」
ルミナの声が震える。
助手はすぐに判断した。
「みんな、隠れて!」
「え?」
「空から見えない場所へ!」
4人は急いで物陰へ身を隠した。
やがて完全に朝が来る。
明るくなったことで、空に浮かぶ巨大な蜘蛛の巣と、その上を移動する一つ目の姿がはっきりと見えた。
そして、
一つ目が停止した。
その真下には商店街があった。
アクティアが息を呑む。
「……まさか」
巨大な目が、ゆっくりと下を向く。
中心に光が集まっていく。
「やめて……!」
ルミナが呟いた。
次の瞬間。
巨大な光が、真下へ落ちた。
轟音。
商店街が光に包まれる。
建物が焼け、道路が砕け、炎と煙が一気に広がっていった。
「…………」
4人は声を失った。
あの一つ目は、
街を攻撃できる。
しかも、
あれほど巨大なものを一撃で。
「……あれを止めないと」
アクティアが呟いた。
「行こう」
3人は空へ飛び上がった。
助手だけは、その場に残る。
「気をつけて!」
アクティア、ルミナ、エクリアは、一つ目へ向かって上昇していく。
しかし、その途中だった。
地面から、
巨大な何かが突き出した。
「なに!?」
市役所から約5キロ離れた場所。
地面を突き破り、巨大な塔のようなものが伸びていく。
その形は、
蜘蛛の脚に似ていた。
節のある巨大な構造物。
紫色の光を放つその塔は、空へ向かって伸びていく。
そして、
市役所を挟んで反対側。
そこからも同じような塔が出現した。
「もう一つ……!」
二本の塔から、同時に紫色の光が放たれる。
光は空へ伸び、
巨大な蜘蛛の巣へ接続した。
すると、
蜘蛛の巣全体が一瞬、強く輝いた。
アクティアは目を見開いた。
「地上の塔と、あの蜘蛛の巣が繋がってる……!」
エクリアも、その光景を見つめる。
「……一つの巨大な装置みたい」
3人はさらに上へ飛ぶ。
一つ目へ近づこうとする。
ところが、
突然。
上昇が止まった。
「え?」
アクティアがビットへ魔力を送る。
「もっと上!」
ビットは正常に動いている。
それでも、
上へ進まない。
「どうして!?」
ルミナもマントを広げた。
「だったら私が!」
マントが光を放つ。
しかし、やはり上昇できない。
エクリアも光刃を展開する。
両腕と両脚の光刃で反発力を生み出す。
しかし、
高度が上がるほど、
光刃の反発力が弱くなっていく。
「……おかしい」
エクリアが呟く。
魔力がなくなったわけではない。
それなのに、
一定の高度から上へ行けない。
「一つ目に近づけない……」
アクティアが空を見上げる。
そのときだった。
一つ目が動いた。
ゆっくりと、
3人の真上へ。
「……!」
3人は危険を察知する。
その瞬間。
地面から触手が伸びてきた。
「きゃっ!」
3人の足に触手が絡みつく。
そして、
一気に地面へ引き戻された。
ドンッ!
「痛っ……!」
3人が地面へ落ちる。
空を見る。
一つ目の巨大な目が、
強く光り始めていた。
そして、その真下には、
量産型魔法少女たちがいた。
「まさか……!」
エクリアが叫ぶ。
一つ目の光が、さらに強くなる。
「逃げるよ!」
3人は足に触手が絡みついたまま、横方向へ飛び出した。
不思議なことに、
上へは飛べないのに、
横方向には飛べた。
ただし、いつもより明らかに遅い。
「くっ……遅い!」
ルミナが叫ぶ。
量産型魔法少女たちは、3人の足に絡みついた触手を引っ張る。
「逃がさない……!」
その瞬間。
一つ目から、
一本の光が落ちた。
真下にいた量産型魔法少女たちを直撃する。
轟音。
爆煙が一気に立ち上った。
3人は必死に横へ逃げる。
しかし、
完全には逃げ切れなかった。
爆風が3人を吹き飛ばす。
「うわぁぁっ!」
アクティアの身体が地面を転がる。
ルミナも吹き飛ばされる。
エクリアも瓦礫の向こうへ叩きつけられた。
やがて煙が晴れていく。
爆心地。
そこには、
灰の塊だけが残っていた。
量産型魔法少女たちは、
消えていた。
少し離れた場所。
アクティアが身体を起こす。
「……みんな……」
腰のビットを見る。
10基あったビットのうち、
2基が破損していた。
そして身につけているルミナの魔法少女コスチュームも、ほぼ全壊状態だった。
ルミナも立ち上がる。
トップスは大きく破損。
マントは左側だけしか残っていない。
シューズも吹き飛んでいた。
「……こんなの、初めて……」
エクリアも身体を起こす。
両脚の装甲。
そして右手の装甲。
どちらも完全に失われている。
コスチュームも胸元を残し、ほとんど消えていた。
「…………」
3人とも、
満身創痍だった。
しかし、
まだ生きている。
アクティアは空を見上げた。
ところが、
一つ目は動いていなかった。
「……?」
エクリアも気づく。
巨大な蜘蛛の巣。
そこに張り巡らされた無数の道筋が、
すべて光っていた。
「……何か、おかしい」
一つ目も、
目を閉じている。
攻撃してこない。
エクリアは状況を判断した。
「今のうちに離れる」
アクティアとルミナを見る。
「ここにいるのは危険」
エクリアは残った左手の光刃を展開した。
シュンッ!
光刃の反発力を利用して身体を浮かせる。
まずアクティアを拾い上げる。
「エクリア……」
「大丈夫。掴まって」
続いてルミナも拾う。
3人は物陰から物陰へ移動する。
崩れた建物。
瓦礫。
壁の陰。
できるだけ空から見えない場所を選びながら、
助手の待つ施設へ戻っていく。
そして、
ようやく施設へたどり着いた。
扉が閉まる。
3人はその場に座り込んだ。
誰もすぐには話せなかった。
やがて、
アクティアが小さく呟く。
「……あれ、何なの?」
エクリアも答えを持っていない。
「分からない……」
ルミナが窓の隙間から空を見る。
朝の空。
その向こうに、
巨大な蜘蛛の巣が浮かんでいる。
その中心で、
一つ目は目を閉じたまま、
静かに存在していた。
まるで、
次に動き出す時を待っているかのように。
その光景を見ながら、
4人はまだ知らなかった。
あの巨大な蜘蛛の巣が、
ネガティアの計画の中で、
どんな役割を持つものなのかを。
そして、
あの一つ目が、
この街に何をしようとしているのかも。
ただ一つ分かっていた。
これまでの敵とは、
何かが違う。
あれは、魔法少女たちが追いかけて倒す「怪人」ではない。
街そのものを見下ろす、
巨大な存在だった。
