ネガティアとの戦いによって、大きく傷ついた街。
崩れたビル。
割れた窓。
誰もいなくなった商店街。
その中を、アクティアは一人で歩いていた。
けれど、今のアクティアが身につけているのは、いつもの魔法少女衣装ではない。
ルミナの魔法少女コスチュームだった。
「……」
アクティアは足を止めた。
道の先に、一人の女性が倒れている。
「大丈夫ですか!」
アクティアは駆け寄り、手を差し伸べようとする。
しかし、その手が止まった。
女性は、すでに事切れていた。
「……」
アクティアは何も言えなかった。
助けられなかった。
ただ、その事実だけが胸に重くのしかかる。
それでもアクティアは歩き続けた。
さらに奥へ。
そして、また人影を見つける。
今度は、まだ幼さの残る子だった。
アクティアは少しうんざりしたような表情を浮かべる。
「……また……」
その子の手には、血の跡が残ったチョーカーが握られていた。
アクティアは息を呑む。
「……こんな幼い子まで……」
拳を握る。
その拳から、わずかに血が流れた。
怒りなのか。
悲しみなのか。
悔しさなのか。
自分でも分からない。
アクティアは静かにそのチョーカーを回収した。
「……助手のところへ持っていこう」
そして、来た道を戻った。
「魔法少女は無力じゃない」
基地へ戻ったアクティアは、助手のところへ向かった。
そして、血のついたチョーカーを見せる。
助手はそれを見た瞬間、何も聞かなくても察した。
「……そうだったんだね」
アクティアは俯いた。
「……助けられなかった」
声が震える。
「目の前にいたのに……私は……」
涙を堪える。
しかし、もう限界だった。
アクティアは助手から離れようとする。
その背中へ、助手が声をかけた。
「アクティア」
アクティアが足を止める。
「魔法少女は、無力なんかじゃないよ」
「……でも……」
「街のすべてを守れなかったからって、君たちが守ってきたものまで消えるわけじゃない」
アクティアは振り返る。
助手は続けた。
「君たちは何度も、誰かを助けてきた」
「……」
「魔法少女だからって、すべての人を救えるわけじゃない。でも、魔法少女だからこそ救えた人もいる」
その言葉を聞いた瞬間。
アクティアの脳裏に、これまでの戦いが蘇った。
巨大怪人。
ネガティアの戦闘員。
捕獲ユニット。
そして、何度も一緒に戦ったルミナとエクリア。
「……私……」
アクティアは拳を握り直す。
「まだ、戦える」
その言葉に呼応するように、そばに置かれていたアクティアビットが、淡く輝いた。
「一緒に戦ってくれる?」
アクティアは10基のアクティアビットへ向き直った。
「みんな……」
一つ一つを見る。
「一緒に戦ってくれる?」
静寂。
すると、
フワッ。
4基のビットが浮かび上がった。
アクティアの周囲を旋回する。
「……ありがとう」
その瞬間だった。
以前戦った巨大怪人が、再び姿を現した。
「グォォォォォッ!」
アクティアは怪人へ向き直る。
「今度は……負けない!」
4基のビットが一斉に光を放つ。
バシュッ!
アクティア自身も両手からビームを放つ。
ビットとアクティア。
複数方向から飛んでくる光線に、巨大怪人は苦しむ。
アクティアは走る。
ルミナの衣装のおかげで、いつもより身体が軽い。
「この衣装……やっぱり動きやすい!」
怪人の腕が振り下ろされる。
アクティアは軽々とかわす。
そのまま走りながらビームを撃ち続ける。
「そこっ!」
ドンッ!
怪人の身体へビームが命中する。
巨大怪人の大砲
追い詰められた怪人が怒りの咆哮を上げた。
「グォォォォォッ!」
肩がせり上がる。
そこから巨大な砲身が姿を現した。
「……大砲!?」
怪人が砲身を向ける。
ドォォォン!!
砲弾が飛ぶ。
ところが途中で無数に分裂した。
まるで花火のように、無数の光弾が広がっていく。
「うそっ!」
アクティアは逃げようとする。
しかし、光弾が逃げ道を塞ぐ。
ドドドドドドッ!
次々と衝撃が走る。
ルミナの衣装は動きやすい。
しかし、防御範囲はアクティアの衣装より狭い。
そのため、完全には避けきれない。
「くっ……!」
そして、
バキッ!
一基のアクティアビットが破損する。
「ビット!」
続けて、
ガンッ!
もう一基も破損。
アクティアは悔しそうに見る。
「ごめん!」
破損した2基を残し、すぐに新しい2基を腰へ装着する。
カチッ。
カチッ。
「まだ4基なら使える!」
ビットを武器そのものにする
アクティアは突然、何かを思いついた。
「……そうか」
残りのビットを取り出す。
両肩。
両腕。
両太腿。
それぞれへ装着していく。
「こうすれば……!」
巨大怪人は再び大砲を構える。
「また来る!」
ドォォォン!!
再び無数の光弾が花火のように広がる。
逃げ道を塞ぐ。
しかし今度、アクティアは動かなかった。
「逃げる必要なんてない!」
両肩のビットが輝く。
腰のビットも輝く。
「まとめて消しちゃえばいい!」
バシュゥゥゥッ!!
拡散するビーム。
無数の光弾へ次々と命中する。
光弾が溶けるように消滅していく。
「なにっ!?」
怪人が驚く。
アクティアはさらに腕と太腿のビットへ意識を集中させる。
「次は……あなたの大砲!」
ズバァァァッ!!
ビームが大砲を直撃する。
ガキィンッ!
巨大な砲身が崩れた。
「これでもう撃てないよ!」
「4基しか使えない」なら
巨大怪人が拳を振り下ろす。
ブォンッ!
アクティアは横へ跳ぶ。
ルミナの衣装のおかげで、攻撃を簡単にかわす。
そして、腰の横にあるビットと、両腕のビットをそれぞれ組み合わせる。
カチッ。
カチッ。
2基ずつのグループ。
「まずは……足!」
ドォォォォッ!!
二つのビットグループから、強烈なビームが放たれる。
巨大怪人の両脚が光に包まれ、
消滅した。
「グォォォォッ!」
巨体が崩れ落ちる。
しかし、アクティアは攻撃を止めない。
太腿に装着していた2基を腰へ移動させる。
腰に3基のビットが並ぶ。
「これなら……!」
3基のビットが一斉に輝く。
これまでよりも強い光。
「いけぇぇぇっ!」
ズドォォォォン!!
3基のビットから放たれた強烈なビームが、巨大怪人の胴体を貫く。
そして頭部へ。
バシュゥゥゥッ!!
巨大怪人の身体が光の中へ消えていく。
やがて残った身体も、
灰へと戻った。
アクティアは静かに息を吐く。
そして10基のビットを見る。
「……全部を同時に使えなくても」
ビットが静かに浮かぶ。
「組み替えればいいんだ」
戦闘が終わると、アクティアとルミナは改めて互いの衣装を見た。
ルミナはアクティアの衣装を見ながら言う。
「やっぱり、これ……動きにくい!」
「そう?」
「うん。私がいつもの速度で動こうとすると、全然ついてこないんだもん」
アクティアは笑う。
「でも、防御はしっかりしてるでしょ?」
「それはそう!」
今度はアクティアがルミナの衣装を見る。
「でも、ルミナの衣装は本当に動きやすかった」
「でしょ?」
「私の戦い方にも合ってるかもしれない」
二人は互いの衣装について、いろいろと意見を交換した。
動きやすさ。
防御範囲。
マント。
そして、衣装によって使える機能の違い。
実際に着てみたからこそ分かったことも多かった。
やがてルミナが満足そうに笑う。
「うん。もう十分!」
「私も」
二人は首元へ手を伸ばす。
互いのチョーカーを外した。
「はい」
ルミナがアクティアへチョーカーを返す。
アクティアもルミナへ返す。
「ありがとう」
「こちらこそ!」
二人が自分のチョーカーを身につける。
すると、
シュンッ!
光が二人を包み込む。
次の瞬間。
アクティアは自分の魔法少女衣装へ。
ルミナも自分の魔法少女衣装へ戻っていた。
二人は顔を見合わせる。
「やっぱり、自分の衣装が一番落ち着くね」
「うん!」
少し離れたところで、その様子を見ていたエクリアと助手も、思わず微笑んでいた。
けれど、助手の視線はチョーカーへ向いていた。
衣装は交換できる。
魔法の一部は本人の力によって発現する。
そして、装着者が変わっても変身そのものが成立する。
チョーカーには、まだ誰も知らない秘密がある。
その謎は、少しずつ姿を現し始めていた。
そしてアクティアもまた、自分自身の力を一つ理解した。
すべての力を一度に使う必要はない。
限られた力でも。
仲間と支え合いながら。
工夫して。
自分の意思で使えばいい。
魔法少女は、無力ではない。
アクティアは、そう思えるようになっていた。
