ネガティアとの戦いが終わってから、しばらくの時間が流れていた。
アクティア、ルミナ、エクリア。
三人とも、まだ完全に回復したわけではない。
それでも、少しずつ身体を休め、魔力を取り戻していた。
助手も、ようやく自力で立ち上がれる程度には回復していた。
そんな中。
アクティアとルミナは、ちょっとした冗談を思いついた。
互いのチョーカーを交換してみたのだ。
「本当に衣装まで変わるのかな?」
ルミナが興味津々に尋ねる。
「やってみようよ」
アクティアも笑う。
二人はそれぞれ相手のチョーカーを首につけた。
そして、変身を試してみる。
光が二人を包んだ。
次の瞬間。
アクティアはルミナの魔法少女衣装を身につけていた。
「……わぁ」
ルミナもアクティアの衣装になっている。
アクティアは自分の姿を見下ろす。
「これ……ルミナの衣装だ……」
そう言ったものの、少し頬が赤い。
「なんか、恥ずかしい……」
一方のルミナは、アクティアの衣装を身につけたまま身体を動かしてみる。
腕を回す。
足を動かす。
軽く跳んでみる。
「うーん……」
ルミナは困った顔をした。
「やっぱり、ちょっと動きづらいな」
「やっぱり?」
アクティアが笑う。
「私も最初に着たとき、そんな感じだったよ」
二人は顔を見合わせる。
衣装が変わっても、身体まで変わるわけではない。
そして、それを確かめるため、二人は外へ出た。
外へ出ると、アクティアはルミナの衣装のまま魔力を集中させた。
すると、いつものように光が集まり、
レイピアが手の中に現れた。
「出た!」
さらに手のひらを前へ向ける。
バシュッ!
光のビームが放たれる。
「やっぱり私の魔法は使えるんだ」
アクティアは自分の手を見る。
ルミナの衣装を着ていても、魔力そのものはアクティアのものだった。
ルミナも試してみる。
自分の魔力を集中させる。
だが、いつものビームシールドは出てこない。
「……あれ?」
もう一度試す。
やはり出ない。
ルミナはアクティアの衣装を見る。
「そっか」
ビームシールドは自分の身体から直接発生する魔法ではない。
衣装に備わった機能なのだ。
同じように、マントも衣装側の機能。
衣装を交換すれば、その機能も入れ替わる。
つまり、
魔法少女本人が持つ魔法と、
衣装に組み込まれた機能は、
別のものだった。
その光景を見ていた助手も、興味を持っていた。
そしてエクリアも、二人の様子を眺めながら、ほんの少しだけ興味を抱いていた。
助手は冗談めかして笑う。
「二人とも、楽しそうだね」
エクリアも、
「ちゃんとやってよね」
と注意する。
けれど、その表情はどこか微笑ましそうだった。
するとルミナがエクリアを見る。
「エクリアもやってみる?」
「え?」
アクティアも笑う。
「そうだよ。チョーカー交換!」
エクリアは自分のチョーカーを見る。
そして二人を見る。
少し考えたあと、
「……私はいいよ」
苦笑しながら断った。
「なんで?」
「……ちょっと恥ずかしいから」
二人は顔を見合わせる。
エクリアは視線を逸らした。
その心の中では、
魔法少女衣装、もっと可愛らしいデザインにしておけばよかったな……
そんな小さな後悔が浮かんでいた。
もちろん、二人には言わない。
その夜。
助手の寝室。
助手はエクリアを見ながら、ふと思った。
「ねぇ、チョーカー借りていい?」
「チョーカー?」
「うん。ちょっとだけ」
エクリアは少し考えた。
助手は魔法少女ではない。
だから、チョーカーをつけても変身することはないだろう。
そう思った。
「……まあ、いいけど」
エクリアはチョーカーを外して、助手へ渡した。
助手は嬉しそうに受け取る。
「ありがとう!」
そして、何のためらいもなく首へ通した。
その瞬間だった。
シュンッ!
光が助手を包み込む。
「え?」
光が消える。
助手は目を丸くした。
そして自分の身体を見る。
そこには、
エクリアの魔法少女衣装を身につけた助手が立っていた。
「わぁ!」
助手は無邪気に喜ぶ。
「本当に変身できた!」
しかし、エクリアは笑えなかった。
「……え?」
目の前の光景を理解できない。
魔法少女ではない助手が、自分の衣装を身につけている。
確かに、そこにいる。
助手は満足そうに身体を眺めると、チョーカーを外した。
光が消え、元の姿へ戻る。
「はい。ありがとう」
エクリアへチョーカーを返す。
エクリアは受け取りながら、しばらく黙っていた。
「……魔法少女じゃなくても、変身できる……?」
チョーカーは、魔法少女本人を認識しているのではない。
そこに保存されている変身情報を、装着した人間へ適用している。
そんな可能性が浮かんだ。
小さな冗談から、とんでもない発見が生まれていた。
一方。
ネガティア基地。
立入禁止区画。
そこでは、ネレイドが三本の杖のような装置を眺めていた。
三本の杖は、床に並べられている。
ネレイドは、その一本へ視線を向けた。
そして、少しだけ力を込める。
すると、
ふわっ。
三本の杖が同時に浮き上がった。
「……」
ネレイドは目を細める。
自分の意思に反応している。
しかし、次の瞬間。
身体から力が抜けるような感覚が走った。
「……?」
ネレイドは力を緩める。
カラン。
三本の杖が床へ落ちた。
ネレイドは自分の手を見る。
「……魔力を消費した?」
三本を浮かせる。
ただ、それだけ。
それでも、はっきりと脱力感が残っている。
この杖には、まだ何か秘密がある。
ネレイドは三本の杖を見つめた。
「……まだ、扱いきれないということね」
その背後では、巨大な建造物が妖しく光っていた。
翌日。
アクティアはルミナの魔法少女衣装を身につけたまま、街を歩いていた。
しかし、その街は以前とは違っていた。
戦闘で崩れたビル。
割れた窓。
人のいなくなった商店街。
誰もいない。
静かすぎる街だった。
アクティアは何も言わずに歩く。
そして、さらに奥へ進んだところで、
一人の女性が倒れているのを見つけた。
「……!」
アクティアは駆け寄る。
そして手を差し伸べようとした。
けれど、
その女性はすでに事切れていた。
「……」
アクティアは何も言えなかった。
助けられなかった。
その事実だけが、胸の中に重く残る。
拳を握る。
「……私、何やってるんだろう」
それでも、歩く。
さらに奥へ。
そこで、また倒れている人影が見えた。
「……また……」
アクティアは少しうんざりしたような顔をする。
近づいてみる。
倒れていたのは、まだ幼さの残る子だった。
その小さな手には、
血の跡がついたチョーカーが握りしめられていた。
アクティアは息を呑んだ。
「……こんな幼い子まで……」
拳を握る。
その手から、血が滲んだ。
怒りなのか。
悔しさなのか。
悲しみなのか。
自分でも分からない。
ただ、その子が最後まで握りしめていたチョーカーだけは、そのままにしておけなかった。
アクティアはそっとチョーカーを回収する。
「……助手のところへ持っていこう」
そして、再び歩き出した。
その頃。
ルミナはアクティアの魔法少女衣装を身につけ、怪人と向かい合っていた。
「よし……!」
いつものように走り出す。
しかし、
「……!」
身体が思うようについてこない。
一歩。
二歩。
動きがぎこちない。
アクティアの衣装は、ルミナの普段の戦い方とは違う。
ルミナの身体能力は変わっていない。
それでも、衣装が動きについてこない。
怪人は、その隙を見逃さなかった。
ドンッ!
攻撃がルミナに当たる。
「くっ!」
大したダメージではない。
しかし、問題はそこではない。
避けられない。
怪人が再び迫る。
ルミナは横へ飛ぼうとする。
しかし、一瞬遅れた。
また攻撃を受ける。
「もう……!」
怪人は勝ち誇ったように笑う。
そして、大きく口を開いた。
「まずい!」
ゴォォォッ!
口からビームが放たれる。
ルミナは避けきれず、まともに受けた。
ドォンッ!
アクティアの衣装が一部砕ける。
「……!」
ルミナはよろめきながら立ち上がる。
破損した衣装へ魔力を流す。
少しずつ修復されていく。
「まだ戦える……!」
しかし怪人は待ってくれない。
再び口を開く。
「また!?」
二度目のビーム。
ルミナは避けようとする。
だが、やはり動きが遅い。
ドォォン!
直撃。
ルミナは大きく吹き飛ばされた。
背中のマントにも亀裂が入り、破損する。
「うっ……!」
ルミナは起き上がる。
そして、自分の両手を見る。
そこには、
シールド発生器。
アクティアの衣装では使えないと思っていた、自分自身の装備。
ルミナはゆっくりと手を構える。
「……これなら」
シールド発生器へ魔力を込める。
パァァァッ!
手のひらから光の盾が現れた。
「出た……!」
さらに力を込める。
すると、
パァンッ!
もう片方の手からもシールドが展開された。
「え?」
二枚。
しかも、その輝きはアクティアが使っていたときよりも強い。
怪人は構わずビームを放つ。
ゴォォォッ!
ルミナは二枚のシールドを構える。
ドォォォン!
ビームが盾に激突する。
シールドにヒビが入る。
それでも、ルミナは耐える。
怪人はさらに力を込める。
今までよりも明らかに強いビーム。
「これで終わりだ!」
巨大な光がルミナへ迫る。
ルミナは、両手のシールドを見る。
そして、
「……私の魔法は、私のもの」
巨大なビームがルミナを飲み込んだ。
ドォォォォン!!
爆煙が立ち昇る。
怪人は勝利を確信した。
しかし、
煙の中に人影が立っている。
やがて爆煙が晴れる。
そこには、
ルミナが立っていた。
両手のシールドを重ねて、真正面からビームを防いでいる。
怪人の表情が変わる。
焦り。
ルミナは顔を上げた。
そして、
ニヤッ。
何かを思いついたような笑みを浮かべる。
身体が鮮やかな赤に輝く。
破損していた背中のマントが、一瞬で修復された。
二枚のシールドも、さらに激しく輝く。
「これなら……!」
次の瞬間。
ルミナの姿が消えた。
「なっ……!?」
怪人の身体に衝撃が走る。
ドゴォン!
一撃。
ドン!
二撃。
さらに、
ドドドドドドドドッ!
ルミナは、両手のシールドを拳のように構えながら、怪人の周囲を高速で移動していた。
その速度は目で追うことすらできない。
音速を超える連続攻撃。
怪人は反応できない。
身体が次々と崩れていく。
最後の一撃が、怪人へ叩き込まれる。
ドォン!
怪人の身体が崩れ、
やがて灰となって消えていった。
静寂が戻る。
ルミナはゆっくりと着地する。
両手には、まだ二枚の光の盾。
アクティアの衣装を着ている。
それでも、
戦っているのは、ルミナ自身だった。
ルミナは自分の手を見つめる。
「……衣装が違っても」
小さく笑う。
「私の力は、私の力なんだ」
その言葉は、誰に聞かせるでもなく、静かな街へ消えていった。
そして遠くでは、ネガティアの基地が、また一つ紫色の光を放っていた。
