ネレイドとの戦いから、しばらくの時間が過ぎていた。
助手の家。
静かな部屋の中には、まだ戦いの名残が残っている。
ベッドには、助手が横になっていた。
大きな怪我は少しずつ落ち着いてきているものの、まだ完全に動ける状態ではない。
その横では、アクティアが白い小さな球体を机の上に並べていた。
「……これで、全部?」
助手はベッドから身体を起こしながら答える。
「うん。修理できるものは、全部修理したよ」
机の上には、いくつもの白い球体。
アクティアビット。
ネレイドとの戦いで壊れたものもあったが、助手が一つずつ修理していた。
そして今。
そこには十基のビットが並んでいた。
「十個……」
アクティアは目を輝かせる。
「これなら、もっと強くなれるね!」
「そう簡単にはいかないよ」
助手は苦笑した。
「問題は、アクティアが何個まで同時にリンクできるか」
「リンク?」
「そう。ビットとアクティアの魔力をつなぐの」
アクティアは十基のビットを見つめた。
そして、目を閉じる。
「じゃあ……やってみる」
静かに意識を集中する。
一基。
二基。
三基。
四基。
白い光がアクティアの周囲に集まっていく。
しかし。
五基目へ意識を向けた瞬間。
「……あれ?」
反応がない。
もう一度、意識を伸ばす。
五基目。
六基目。
七基目。
それでも、何も起こらなかった。
アクティアは目を開ける。
「……返事してくれない」
助手も十基のビットを確認した。
「四基までは反応してるね」
アクティアがもう一度、四基へ意識を向ける。
すると。
四基のビットが、ふわりと浮かび上がった。
「やっぱり四つまで……」
「今のアクティアが認識して、リンクできるのは四基までみたい」
「十個あるのに……」
少し残念そうなアクティア。
助手は優しく言った。
「でも、四基使えるだけでも大きいよ」
「そうかな?」
「ネレイドとの戦いでは、三基を組み合わせただけで、かなりの威力が出ていたでしょう?」
「……うん」
アクティアは四基のビットを見つめる。
三基でも巨大な光線を撃てた。
なら。
四基なら――。
「もっと強い攻撃ができるかも」
その目に、少しだけいつもの輝きが戻った。
すると。
アクティアは不思議そうにビットを見る。
「ねえ、助手さん」
「なに?」
「今、この子たちがどれくらい魔力を持ってるのか……なんとなく分かる」
「え?」
アクティアが一基のビットへ意識を向ける。
白い球体の中にある魔力。
それが、感覚として伝わってくる。
「この子は……まだいっぱいある」
別のビット。
「こっちは少し減ってる」
助手は驚いた。
「ビット自身の魔力を、アクティアが感じ取れてるんだ」
「うん」
さらに助手が確認すると、ビット側にも変化があった。
「そして、ビットのほうも自分の魔力残量を認識しているみたい」
「つまり……」
アクティアは少し考える。
「私がこの子たちの魔力を使うんじゃなくて、この子たち自身が持ってる魔力で戦ってるんだ」
「そういうこと」
それは、アクティアビットという新しい力の重要な特徴だった。
アクティア自身の魔力を大きく消耗させずに戦える。
ただし。
使える数には、今のアクティア自身の限界がある。
「十個あるけど、今は四個」
アクティアはそう呟いた。
「じゃあ……五個目は?」
「今は無理なんだと思う」
「……そっか」
悔しそうではあった。
けれど、アクティアはすぐに笑った。
「だったら、いつか五個目にも返事してもらえばいいんだよね」
「……うん」
助手が微笑む。
「そうだね」
そのときだった。
助手の身体が、ふらりと傾いた。
「助手さん?」
「大丈夫……」
そう言った直後。
助手の力が抜けた。
「わっ!」
アクティアが慌てて身体を支える。
「助手さん!」
「ちょっと……疲れただけ……」
「疲れただけって……!」
アクティアはそのまま助手を抱えて、ベッドへ運ぶ。
ゆっくりと身体を寝かせる。
「もう無理しちゃダメだよ」
「……アクティアに言われちゃった」
助手は小さく笑った。
「あなたも、ずいぶん変わったね」
「そう?」
「うん」
助手は目を閉じる。
「前より……周りを見るようになった」
アクティアは少し黙った。
そして。
自分の胸元へ手を当てる。
「……まただ」
身体の中を流れる魔力。
少し前よりも。
また少しだけ。
流れが速くなっている。
「私の魔力……回復するの、早くなってる」
戦いの前とは違う。
ネレイドとの戦いを越えて。
ルミナと一緒に戦って。
エクリアと力を合わせて。
そして今。
仲間を支える側にもなっている。
その変化が、魔力の回復にも影響しているのかもしれない。
アクティア自身にも、その理由はまだ分からなかった。
ただ。
確実に何かが変わっている。
「……もう少しで、元に戻れるのかな」
そう呟いて。
アクティアは魔法少女への変身を解いた。
部屋の中には、十基のアクティアビット。
そのうち四基だけが、静かにアクティアのそばを漂っていた。
一方。
テレビの画面には、ニュース映像が映っていた。
『またしてもネガティアによる魔法少女の捕獲が確認されました』
エクリアは黙って画面を見つめていた。
映っているのは。
街を逃げる魔法少女。
その後ろから迫る、ネガティアの捕獲ユニット。
「……また」
画面の中で、魔法少女が捕獲ユニットに捕まる。
エクリアの手が、強く握られた。
「……助けなきゃ」
隣を見る。
アクティアは休んでいる。
ルミナは、まだ深い眠りの中。
助手もベッドから動けない。
エクリアは三人を起こさなかった。
「……みんなは、まだ休んでいて」
静かに立ち上がる。
「私が行く」
そして。
一人で家を出た。
街では、すでに戦闘が始まっていた。
「逃げて!」
エクリアが空から飛び込む。
捕獲ユニットの攻撃をかわしながら、捕らえられていた魔法少女の前へ着地した。
「大丈夫?」
「あなたは……?」
「話はあと!」
エクリアが腕を振る。
赤い光刃が伸びる。
一閃。
捕獲ユニットが切り離される。
「今のうちに逃げて!」
助けられた魔法少女たちは、急いでその場から離れていく。
しかし。
エクリアは周囲を見回した。
「……まだいる」
別の場所。
さらに別の場所。
捕獲ユニットが次々と現れる。
「こんなに……?」
エクリアは息を整える。
本来なら、アクティアがいる。
ルミナもいる。
三人なら。
何度も経験してきた。
けれど。
今日は違う。
自分一人。
しかも、まだ完全に回復しているわけではない。
エクリアの魔力は、限界に近づきつつあった。
それでも。
後ろには、逃げ遅れた魔法少女たちがいる。
「……私は」
エクリアは振り返る。
震えている少女たちを見る。
かつての自分なら。
一人で全部背負おうとした。
誰にも頼らず。
誰も傷つけさせないために。
自分だけが戦えばいいと思っていた。
でも。
今のエクリアは違う。
「……守る」
赤い光が、腕に灯る。
「みんなが逃げる時間を……私が作る!」
捕獲ユニットが一斉に迫ってくる。
エクリアは地面を蹴った。
腕の光刃が、後方へ向けて放たれる。
その瞬間。
身体が前へ飛ぶ。
「……やっぱり!」
光刃の反動。
それを利用して、エクリアは一気に加速する。
さらに。
足の光刃。
方向を変える。
右へ。
そして直角に左へ。
「この力……!」
捕獲ユニットの攻撃を紙一重でかわす。
赤い光が、夜の街を駆け抜ける。
一体。
二体。
三体。
次々と捕獲ユニットを切り離していく。
だが。
倒しても。
倒しても。
新しい捕獲ユニットが現れる。
「まだ来るの……!」
エクリアの呼吸が乱れる。
魔力も少ない。
それでも。
退かない。
「……まだ」
エクリアは立ち上がる。
「まだ、守れる」
さらに数体の捕獲ユニットが、エクリアを取り囲む。
前。
後ろ。
左右。
逃げ道はない。
エクリアは四方を見渡す。
そして。
小さく笑った。
「……一人でも」
赤い光刃が、両腕と両脚に灯る。
「私は、魔法少女だから」
捕獲ユニットが、一斉に動き出す。
エクリアも地面を蹴った。
夜の街に、赤い光が走る。
その先にあるのは。
まだ終わっていない戦いだった。
