第21章 できることを | 光と闇を 抱きしめたまま

光と闇を 抱きしめたまま

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テレビの音が、静かな部屋に流れていた。

『先日の事件で魔法少女アクティアが見せた戦闘能力について、専門家からは以前よりも大幅に低下しているのではないかという見方が出ています』

アクティアは、ベッドに座ったまま画面を見つめていた。

画面の中では、先日の戦いの映像が繰り返し流されている。

かつてなら、空を高速で飛び回り、レイピアと光の盾を自在に操っていたアクティア。

しかし今は違う。

飛行速度は遅く、魔法も長くは続かない。

以前のような圧倒的な力は、もうない。

『ネット上でも、アクティアは以前ほど強くないのではないかという声が――』

「……」

アクティアはリモコンを握った。

テレビを消す。

けれど、音が消えても、言葉だけは頭の中に残っていた。

――弱くなった。

――もう戦えないんじゃないか。

――魔法少女として終わったのでは?

スマートフォンを手に取る。

SNSを開けば、似たような言葉がいくつも目に入った。

アクティアは画面を閉じた。

「……私、本当に弱くなったんだ」

ぽつりと呟く。

その声には、いつもの明るさがなかった。

「前なら……もっとできたのに」

両手を見つめる。

魔法を使えば、今でも変身できる。

戦うこともできる。

けれど、それだけだった。

以前のように何でもできるわけではない。

自分でも、それは分かっていた。

だからこそ、他人から同じことを言われると、胸に刺さった。

「私……魔法少女なのに」

その言葉を聞いていた助手が、静かに口を開いた。

「アクティア」

「……なに?」

「テレビを見て落ち込むくらいなら、消しておきなさい」

「でも……」

助手はベッドから身体を起こした。

まだ完全には傷が治っていない。

それでも、アクティアたちのために作業を続けていた。

「世間があなたをどう評価するかは、その人たちの自由よ」

アクティアは顔を上げる。

「でも、それであなた自身の価値まで決まるわけじゃない」

「……」

「強いから価値がある。弱くなったから価値がなくなる。そんな単純な話じゃないでしょう?」

助手の言葉は、静かだった。

けれど、アクティアの胸にしっかり届いた。

「今のあなたに、何ができる?」

「……できること?」

「そう。以前できたことじゃない。今のあなたにできること」

アクティアは考えた。

「……戦うこと」

「それだけ?」

「え?」

助手は少し笑った。

「あなたは、誰かを助けることもできるでしょう」

アクティアは黙った。

その横で、エクリアも頷いた。

「私も、最初は自分の力を何も理解していなかった」

「エクリアが?」

「そう」

エクリアは、自分の手を見つめた。

「私は自分の光刃が、ただ攻撃するための武器だと思っていた。でも、あの戦いで気づいた」

「反動……だよね」

「ええ」

光刃を撃ったときに生じる反動。

それを利用すれば、自分自身を動かすことができる。

今まで知らなかった力。

新しい魔力を手に入れたわけではない。

ただ、自分の持っていた能力を理解した。

「強くなるというのは、必ずしも魔力を増やすことじゃない」

エクリアはアクティアを見る。

「自分に何ができるのかを知ることも、強くなるということだと思う」

「……何ができるのかを、知る」

アクティアは、その言葉を繰り返した。

「そう」

助手が言った。

「だから、今のあなたにできることを探しなさい」

アクティアは、しばらく黙っていた。

やがて、小さく笑った。

「……そっか」

ほんの少しだけ。

いつものアクティアに戻った。

「じゃあ、今の私にできること……探してみる」

「それでいいのよ」

そのときだった。

助手の作業机から、小さな電子音が聞こえた。

「……完成した」

助手が振り返る。

机の上には、いくつもの白い球体が並んでいた。

アクティア・ビット。

先日の戦いで損傷したものを含め、助手が修理を続けていた装置だった。

「ビット、直ったの?」

「ええ」

助手は一つを手に取った。

「ただし、私自身もまだ完全に治っていないから、予定より時間がかかったわ」

「助手……」

「心配しなくていい。これくらいはできるから」

「でも、無理しちゃダメだよ」

アクティアが心配そうに言う。

すると助手は、少しだけ苦笑した。

「それはあなたも同じでしょう?」

「うっ……」

エクリアが小さく笑う。

「二人とも、似た者同士ね」

「私はそんなに無茶してないよ!」

「しているわ」

「してるわね」

二人から同時に言われ、アクティアは頬を膨らませた。

「もう!」

久しぶりに、部屋に笑い声が響いた。

助手は完成したビットを机の上に置いた。

そして、その後ろにある棚を指差す。

「それから……」

アクティアが振り返る。

棚には、白い球体が並んでいた。

一つ。

二つ。

三つ。

四つ。

五つ。

六つ。

そして――

「……七つ?」

アクティアが目を丸くした。

「うん」

助手は頷いた。

「現在、完成しているアクティア・ビットは七基」

「七基……!」

アクティアは棚の前まで歩いていく。

七つのビットは、まるで小さな仲間たちのように静かに並んでいた。

「こんなに……」

「ビット自身が魔力を持っているから、あなた自身の魔力を直接消耗させることなく使える」

「つまり……私が弱くなっていても」

「戦い方は増やせる」

アクティアは七つのビットを見つめた。

以前の自分には戻れない。

それは変わらない。

魔力の最大量も、今は十パーセントしかない。

飛行速度も落ちている。

魔法も長時間は使えない。

でも。

だからといって、何もできないわけではない。

アクティアは一つのビットを手に取った。

「……これなら」

小さく呟く。

「今の私にも、できることがある」

その言葉に、エクリアが微笑んだ。

「ええ」

助手も頷いた。

「それでいいのよ」

アクティアは七つのビットを見上げた。

「七基かぁ……」

そして、少しだけ悪戯っぽい笑顔を浮かべる。

「これ、全部ちゃんと使えるようになったら……結構すごいことできそう」

「だから、まずは練習」

「はーい」

「返事だけはいいわね」

「返事だけじゃないよ!」

また笑い声が響いた。

その頃。

ネガティアの施設では――。

薄暗い部屋の中で、ネレイドが目を覚ましていた。

「……」

身体を動かす。

まだ完全ではない。

胸の傷は塞がりつつあるものの、身体には大きな負担が残っていた。

それでも。

ゆっくりと、紫色の生体素材が伸びていく。

失われた腕。

蜘蛛の脚。

そして、背中の触手。

時間をかけながら、それらが少しずつ形を取り戻していく。

ネレイドは自分の手を見つめた。

「……再生は、止まっていたわけではなかった」

あのとき。

エクリアの光刃によって弾かれたアクティアの光。

それが自分の背中を直撃した。

再生能力そのものが消えたのではない。

一時的に、その働きが止まっていただけだった。

そして今。

再び身体は再生を始めている。

「面白い……」

ネレイドの口元に笑みが浮かぶ。

魔法少女たちも。

自分自身も。

まだ知らない力を持っている。

ならば――

「もっと、調べなくては」

静かな部屋に、ネレイドの声だけが響いた。

一方。

アクティアは、七つのビットを前にしていた。

「私にできること……か」

窓の外を見る。

朝の光が、部屋の中へ差し込んでいた。

世間の評価は変わらないかもしれない。

また「弱くなった」と言われるかもしれない。

それでも。

アクティアはもう、テレビの言葉だけを見つめてはいなかった。

今の自分に何ができるのか。

それを、自分自身で探そうとしていた。

「よし!」

アクティアは立ち上がった。

「まずは、ビットの練習!」

「その前に休みなさい」

助手の即答が飛んできた。

「……はい」

エクリアが笑う。

「焦らなくてもいい。できることは、少しずつ増やせばいい」

アクティアは頷いた。

「うん」

七つの白いビットが、静かに光を反射していた。

失った力を数えるのではなく。

今、手の中にあるものを数える。

それが、アクティアにとっての新しい一歩だった。