第20章 それぞれの再出発 | 光と闇を 抱きしめたまま

光と闇を 抱きしめたまま

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夜の街に、静けさが戻っていた。

さっきまで激しい戦いが繰り広げられていた場所には、壊れた捕獲ユニットや、焼け焦げた地面が残されている。

その戦場から、ひとりの少女がゆっくりと飛んでいた。

魔法少女アクティア。

しかし、その飛行速度は、いつもの彼女とは比べものにならないほど遅かった。

「……重い……」

両腕には、意識を失ったルミナとエクリア。

ふたりを抱えながら飛ぶだけで、アクティアの身体には大きな負担がかかっていた。

しかも、今の彼女に残された魔力は、ほとんどない。

レイピアは消えている。

アクティアビットも、戦場に置き去りになったままだ。

それでも、アクティアは飛び続けた。

「もう少し……」

眼下には、暗い街並み。

その向こうに、助手のいる隠れ家がある。

「もう少しだけだから……」

自分自身に言い聞かせるように、アクティアは前を向いた。

ようやく隠れ家へ戻ると、アクティアはゆっくりと高度を下げた。

「ただいま……」

小さな声。

そのまま、ふたりを床へ寝かせる。

「アクティア!」

助手が駆け寄ってきた。

まだ怪我は治りきっていない。

身体を動かすだけでも痛みがあるはずだった。

それでも、三人の姿を見ると、そんなことは後回しだった。

「二人とも……ひどい怪我……」

「うん。でも、生きてる」

アクティアはそう答えると、その場に座り込んだ。

「私も……もう限界……」

変身状態を維持するだけで精一杯だった。

助手はすぐに二人の状態を確認する。

「ルミナは……気を失ってる。でも呼吸は大丈夫」

「エクリアは?」

「こっちも大丈夫。かなり消耗してるけど……」

助手は安堵の息を吐いた。

「よかった……」

その言葉を聞いて、アクティアも少しだけ表情を緩めた。

そのときだった。

テーブルの上に置かれていた小さな包みが、アクティアの目に入った。

「これ……何?」

「それ?」

助手が振り返る。

「今日、女の子が来たの」

「女の子?」

「私が怪我をしているって聞いて、お見舞いに来てくれたみたい」

包みの中には、お菓子が入っていた。

そのうちのひとつは、すでに半分食べられている。

「……食べたんだ」

「うん」

助手は少し照れたように笑った。

「早く元気になってねって」

アクティアは、その言葉を聞いて黙った。

戦いの中では、人々から恐れられた。

魔法少女が街を壊している。

魔法少女は危険だ。

そんな言葉ばかりが飛び交っていた。

でも。

ここには、違うものがある。

「……そっか」

アクティアは小さく笑った。

「ちゃんと見てくれてる人もいるんだね」

「そうね」

助手も静かに答えた。

アクティアは、ふと助手を見る。

以前なら、この人を見るたびに父親のことを思い出していた。

父親に関わる人物。

それだけで、素直になれなかった。

けれど今は違う。

この人は、自分たちを助けてくれている。

自分が怪我をしていても、三人の治療を優先している。

そして今も。

「……助手さん」

「なに?」

「無理しすぎじゃない?」

助手は一瞬、黙った。

「……そうかもしれないわね」

「ちゃんと自分のことも大事にしてよ」

その言葉に、助手は少し驚いた。

そして、穏やかに笑った。

「ありがとう」

ほんの少しだけ。

二人の間にあった壁が、薄くなった。

その頃。

ネガティアの施設。

薄暗い部屋の中で、ネレイドはベッドに横たわっていた。

胸には深い傷。

エクリアの光刃によって受けた傷は、まだ塞がっていない。

腕もない。

触手も、蜘蛛脚も失われている。

普段なら、すでに再生が始まっているはずだった。

しかし。

何も起こらない。

「……再生しない」

ネレイドは傷口を見つめながら呟いた。

だが、怯えている様子はなかった。

むしろ。

「興味深い……」

戦闘中に起きた出来事を、頭の中で一つずつ整理していく。

エクリア。

あの光刃には、攻撃そのものとは別の効果があった。

光刃を放った反対方向へ身体が動く。

その性質を利用して、エクリアは空中で何度も方向を変えていた。

「知らなかった……」

ネレイドは笑った。

次に、ルミナ。

「最大で……五十体」

大量の分身。

そして、最後の連続攻撃。

あれほどの速度で攻撃を続けられるとは思っていなかった。

「これも……知らなかった」

さらに、アクティア。

三基のアクティアビット。

そして、それらを組み合わせた巨大な光線。

「まさか、あの小さな装置が……」

ネレイドは目を細める。

アクティア自身の魔力だけではない。

ビット自身の魔力を利用して攻撃していた。

「新しい武装……」

そして最後に。

自分自身の再生能力。

あの一撃によって、一時的に再生が止まった。

「……つまり」

ネレイドは考え込む。

「魔法少女の能力には、本人すら知らない使い方が存在する」

それは、ネレイドにとって大きな発見だった。

「知らなければ……強くなれない」

戦闘中、彼女自身も知らなかったことを知った。

魔法少女たちもまた、自分たちの能力を知ることで強くなっている。

「面白い……」

ネレイドの口元がわずかに上がった。

そこへ、扉が開いた。

「ネレイド」

入ってきたのは、ネガティアの指導者だった。

ネレイドは身体を起こそうとする。

「申し訳ありません……」

「何を謝っている?」

「私は……三人を倒せませんでした」

しばらく沈黙が流れた。

しかし、指導者は怒らなかった。

「よく戦った」

「……え?」

「今回の戦いで、重要な情報を得ただろう」

ネレイドは少し驚いた。

「はい」

「ならば、それは失敗ではない」

指導者はネレイドの傷を確認する。

そして、彼女の身体に手をかざした。

「まずは治療だ」

「ありがとうございます……」

「しばらく休め」

そして。

「また現場に戻ってこい」

その言葉に、ネレイドは静かに笑った。

「……はい」

指導者が部屋を出ていく。

再び静寂が戻った。

ネレイドは天井を見上げた。

「また……戦える」

その瞬間だった。

「……?」

胸の傷が、わずかに動いた。

「これは……」

傷口から流れていた血が、少しずつ止まっていく。

そして。

傷ついた肉体が、ゆっくりとつながり始めた。

「……再生?」

ネレイドは目を見開く。

止まっていた再生能力が、再び動き始めていた。

胸の傷が少しずつ塞がっていく。

やがて。

失われた腕にも変化が起きる。

細胞のようなものが集まり、新しい腕が形を作っていく。

さらに。

触手。

蜘蛛脚。

一つずつ。

時間をかけながら、元の姿へ戻っていく。

「……ふふ」

ネレイドは笑った。

「止まっていただけだったのね」

完全に消滅したわけではない。

あの光線によって、一時的に再生が阻害されただけ。

「なるほど……」

新しい発見。

また一つ。

ネレイドにとって、戦いは終わっていなかった。

一方。

隠れ家では、アクティアたちが眠っていた。

ルミナも。

エクリアも。

そして、アクティアも。

長い戦いの疲れが、三人を深い眠りへ誘っていた。

助手は三人の寝顔を確認したあと、机へ向かう。

机の上には、まだ完成していないアクティアビットの部品が並んでいる。

「急がないと……」

身体は痛む。

それでも。

「この子たちが、次に戦うために……」

助手は作業を続ける。

窓の外では、夜が明けようとしていた。

暗かった空が、少しずつ明るくなっていく。

アクティアたちも。

ネレイドも。

それぞれの場所で、次の戦いへ向けて歩き始めていた。

知らなかった力。

知らなかった思い。

知らなかった人とのつながり。

それらを知るたびに、魔法少女たちは変わっていく。

そして。

その先に待っているものが何なのか。

まだ、誰にも分からない。