第19章 繋がる力 | 光と闇を 抱きしめたまま

光と闇を 抱きしめたまま

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研究施設の一室。

 重傷を負った助手は、ベッドの上で身動きが取れずにいた。

 その外では、アクティア、エクリア、ルミナの三人が、ひとりの敵と向き合っている。

 ネレイド。

 紫色の髪を揺らしながら、彼女は静かに三人を見つめていた。

「今日は怪人を使わないのですね」

 エクリアが問いかける。

「ええ」

 ネレイドは腰から伸びる二本の蜘蛛の脚をゆっくりと動かした。

「あなたたちの能力は、もう十分に観察したわ」

 その言葉と同時に、ネレイドの周囲に紫色の光が走る。

「だから今日は、私自身で相手をする」

 アクティアはレイピアを構えた。

「三人相手に、一人で?」

「ええ」

 ネレイドは微笑む。

「私の能力は、ひとつではないもの」

 空間が歪んだ。

 そこから、紫色の触手が次々と現れる。

 一本。

 二本。

 三本。

 さらに増えていく。

 最大八本。

 それがネレイドの周囲を縦横無尽に動き始めた。

「まずはこれ」

 触手が一斉に三人へ襲いかかった。

 アクティアはレイピアで弾く。

 エクリアは光刃を作り出して切り払う。

 ルミナは身体をひねってかわし、そのままネレイドへ接近した。

 だが。

 ネレイドの姿が突然、別の場所へ移動したように見えた。

「……え?」

 ルミナの目の前にいたのは、エクリアだった。

「エクリア!?」

 ルミナは反射的に拳を止める。

「違う!」

 エクリアが叫ぶ。

「私はここ!」

 声の方向を振り向く。

 そこには本物のエクリア。

 では、目の前にいる少女は誰なのか。

 ネレイドだった。

「認識を少し変えただけよ」

 ネレイドは冷静に言った。

「あなたたちは、互いを敵だと思えば戦える?」

「そんな……!」

 アクティアが叫ぶ。

「ルミナ、そいつはネレイド!」

「分かってる!」

 しかし、ルミナにはエクリアにしか見えない。

 仲間を攻撃するわけにはいかない。

 その迷いを、ネレイドは逃さなかった。

 触手がルミナへ向かう。

 だが、その前にアクティアの手から光線が放たれた。

 さらに三つの白い球体が空中を飛び回る。

「アクティアビット!」

 三基のビットがそれぞれ別の方向から攻撃を始めた。

 光線が触手を焼き切る。

 別の光線が蜘蛛の脚を撃ち抜く。

 さらにアクティア自身が両手から光線を放った。

「これなら!」

 一本。

 二本。

 三本。

 触手が次々と消えていく。

 しかし、ネレイドは冷静だった。

 消えた触手が、再び空間から現れる。

 そして蜘蛛の脚も再生していく。

「何度でも出てくる……!」

 アクティアが息を切らす。

「そういうこと」

 ネレイドは答えた。

「私には自己再生能力がある。そして空間から触手を最大八本まで召喚できる」

 さらに腰の蜘蛛の脚が動く。

「この脚も武器として使える。必要ならカードのような形にも変えられるわ」

 そして片手を上げる。

 紫色の剣が現れた。

「剣も召喚できる」

 反対の手には赤い炎が浮かぶ。

「そして火炎」

 炎が青白い光へ変わった。

「氷結」

 さらに紫色の電撃が走る。

「雷撃」

 アクティアたちは思わず息をのんだ。

 だが、ネレイドは続けた。

「ただし、全部を同時に使えるわけではない」

 ネレイドは指を三本立てた。

「私が同時に扱える能力は、最大三つまで」

 つまり。

 触手、蜘蛛の脚、剣。

 その三つを使っている間は、炎や雷撃などを使えない。

 逆に、魔法を使えば別の能力を一つ外す必要がある。

「能力が多いからといって、無制限に使えるわけではないのですね」

 エクリアが言った。

「そういうこと」

 ネレイドは笑った。

「でも、その三つを選ぶだけで十分よ」

 剣。

 触手。

 蜘蛛の脚。

 三つの能力が同時に動き出した。

 ネレイドの攻撃は一気に激しくなる。

 アクティアはビットを飛ばしながら防御する。

 エクリアは光刃で触手を切る。

 ルミナはネレイドの背後へ回ろうとする。

 しかし、認識を狂わされているため、三人の連携がうまく噛み合わない。

「くっ……!」

 アクティアが叫ぶ。

「ルミナ! 私たちを見て!」

「見えてる!」

「違う! ネレイドを見て!」

 その瞬間。

 アクティアの三基のビットが、一斉にネレイドへ向いた。

「まとめていくよ!」

 三基のビットが中央へ集まる。

 三つの光が重なった。

 巨大な光線がネレイドへ放たれる。

「!」

 ネレイドは瞬時に触手を召喚。

 さらに蜘蛛の脚を前へ伸ばす。

 八本の触手と二本の蜘蛛の脚が壁のように重なった。

 巨大な光線が直撃する。

 轟音。

 光が周囲を飲み込んだ。

 そして。

 触手も。

 蜘蛛の脚も。

 すべて消し飛んだ。

「やった!」

 アクティアが叫ぶ。

 しかし。

 ネレイドの姿は、その光の向こうに立っていた。

 そして彼女の身体に、少しずつ変化が現れる。

「自己再生……!」

 エクリアが気づいた。

 ネレイドの触手と蜘蛛の脚が再び生え始める。

「厄介ですね」

 エクリアが構える。

 だが、その直後。

 ネレイドの蜘蛛の脚が、ルミナへ向かった。

「ルミナ!」

 エクリアが叫ぶ。

 ルミナは避けようとする。

 しかし、ネレイドの言葉が響いた。

「あなたは、もう五十人ではないのでしょう?」

「……!」

「今のあなたは、一人」

 ルミナの動きが止まった。

「一人で何が守れるの?」

「私は……」

「分身を五十体出しても、あなた自身は一人よ」

 その言葉に、ルミナの表情が曇る。

 ネレイドはその瞬間を狙った。

 蜘蛛の脚がルミナの左肩を襲う。

 ルミナの翼が破壊される。

「ルミナ!」

 アクティアが叫ぶ。

 しかし、エクリアが動いた。

「させない!」

 両手は拘束されている。

 ならば。

 使えるものを使う。

 エクリアは両脚から光刃を発生させた。

 反動を利用して空中へ飛び上がる。

 そのまま蜘蛛の脚へ突っ込んだ。

 光刃が蜘蛛の脚を切断する。

「今度は私が守る!」

 エクリアが叫んだ。

 ルミナの身体に走っていた赤い光のラインが、ゆっくりと黒へ戻っていく。

 しかし、エクリアにも余裕はなかった。

 魔力が残り少ない。

 それでもネレイドの背後へ回る。

「これで……!」

 エクリアは脚の光刃でネレイドの脚を狙った。

 しかし、あと少しというところで魔力が尽きた。

「しまっ……!」

 ただの蹴りになった。

 ネレイドの身体は揺れただけだった。

 その隙に、アクティアが左手を前へ向ける。

「なら!」

 光線が放たれた。

 ネレイドの横を通り抜ける。

 だが。

 その光線の前に、エクリアがいた。

「エクリア!?」

 エクリアは手から一本の光刃を作る。

 そして。

 光線を蹴った。

 軌道が直角に変わる。

「なっ……!」

 光線はネレイドの背後へ回り込み、再生途中の触手と蜘蛛の脚の中心へ突き刺さった。

 再生が止まる。

「今です!」

 エクリアが叫ぶ。

 その瞬間。

 ルミナが立ち上がった。

「まだ終わってない」

 左肩の翼が、一瞬で再び現れる。

 そしてルミナは飛び上がった。

 一人。

 二人。

 三人。

 十人。

 二十人。

 三十人。

 そして。

「五十!」

 五十人のルミナが、ネレイドを取り囲んだ。

 次の瞬間。

 拳。

 蹴り。

 拳。

 蹴り。

 無数の攻撃がネレイドへ叩き込まれる。

 人間の目では追えない。

 ネレイドの触手が動く。

 しかし、再生できない。

 蜘蛛の脚も伸びない。

 ネレイドの表情から余裕が消えていく。

「なぜ……!」

 アクティアとエクリアは、その変化を見ていた。

 ネレイドが初めて、明確に追い詰められている。

 そのとき。

 アクティアとエクリアを拘束していた捕獲ユニットが、突然落下した。

「え?」

 アクティアの右手が自由になる。

 エクリアの身体も自由になる。

「ネレイドの再生が止まっているから……?」

 エクリアが呟く。

 ネレイドには、もう余裕がない。

 エクリアは両手から光刃を作り出した。

「今度こそ!」

 ネレイドの背後へ回り込む。

 二本の光刃が、ネレイドの胸へ突き立つ。

「ぐっ……!」

 ネレイドの身体が大きく揺れた。

 しかし。

 その直後。

 ルミナの身体を走るラインが、再び赤く輝き始めた。

「……ルミナ?」

 アクティアが振り向く。

 五十人の分身が消えていく。

 最後に残ったルミナの身体が、ゆっくりと地面へ落ちた。

「もう……無理……」

 ルミナはそのまま倒れた。

「ルミナ!」

 アクティアが駆け寄ろうとする。

 しかし、エクリアもまた、その場に膝をついた。

「私も……もう……」

 魔力を使い切った。

 残っているのは。

 アクティア。

 そして。

 胸に光刃を受けたネレイド。

 二人だけだった。

 アクティアはレイピアを握ろうとする。

 しかし。

 レイピアは、すでに消えていた。

 ビットも地面に落ちている。

 残っている魔力は、変身を維持するだけ。

「……まだ、立てる」

 アクティアはふらつきながら立ち上がる。

 ネレイドも立っていた。

 しかし、いつもの自己再生は起こらない。

 ネレイドは自分の身体を確認する。

「……再生しない」

 その原因は分かっていた。

 エクリアが作った光刃。

 アクティアの光線。

 そして三人の能力を組み合わせた攻撃。

 自分の再生能力を止める方法を、ネレイドは身をもって理解していた。

「なるほど……」

 ネレイドは小さく笑う。

「あなたたちは、能力を使うだけではない」

 アクティアを見る。

 エクリアを見る。

 倒れたルミナを見る。

「自分の能力を理解している」

 そして。

「理解した能力を、他人の能力と組み合わせている」

 ネレイドの表情が変わる。

「それが、あなたたちの強さなのね」

 アクティアは答えなかった。

 もう声を出す力もほとんど残っていない。

「今日はここまでにしましょう」

 ネレイドが言う。

「私は、あなたたちを倒すために来たわけではないもの」

 アクティアが顔を上げる。

「じゃあ……何をしに?」

「知るためよ」

 ネレイドは暗闇の中へ歩いていく。

「あなたたちが何を知り、何を使い、どう組み合わせるのか」

 その姿が闇へ溶けていく。

「次は、それを壊す方法を考える」

 そしてネレイドは消えた。

 戦いは終わった。

 アクティアは倒れているルミナを見る。

 次にエクリアを見る。

「……帰ろう」

 二人を抱き上げる。

 飛行魔法を使う。

 しかし、いつものようには飛べない。

 残った魔力は、ほとんどない。

 歩くような速度で、ゆっくりと空を進む。

 それでも。

 アクティアは止まらなかった。

「助手さんのところへ……帰らないと」

 やがて、研究施設が見えてくる。

「……ただいま」

 その言葉を最後に。

 アクティアも、その場へ倒れ込んだ。

 こうして三人は、初めて力を合わせてネレイドを追い詰めた。

 しかし。

 ネレイドもまた、何も失ったわけではなかった。

 彼女が持ち帰ったもの。

 それは、壊れた武器でも、奪った魔法でもない。

 アクティアビット。

 エクリアの光刃。

 ルミナの五十体分身。

 そして。

 三人が、それぞれの能力を理解し、組み合わせることで生まれる力。

 ネレイドは、それらすべてを見ていた。

 戦いの中で。

 彼女自身もまた、魔法少女たちの力を理解し始めていた。

 そして次の戦いでは。

 その「理解」が、敵の武器になる。

 魔法少女たちは、まだ知らない。

 自分たちが強くなったのと同じだけ。

 ネレイドもまた、強くなってしまったことを。