ネガティアの研究施設。
薄暗い司令室の中で、ネレイドは三つのモニターを眺めていた。
そこに映っているのは、アクティア、エクリア、ルミナ。
以前とは明らかに違う。
アクティアの魔力は少しずつ戻っている。
エクリアもまた、強い意志を持つことで魔力を急速に回復させられるようになっていた。
そしてルミナは、圧倒的な速度と分身能力を持っている。
「……正面からぶつかるだけでは、もう止められないわね」
ネレイドは三つの画面を同時に操作した。
「だったら、能力そのものを利用する」
画面が切り替わる。
アクティアの前には、異常な耐久力を持つ怪人。
エクリアの前には、相手の思考を読み取る怪人。
ルミナの前には、分裂を繰り返す怪人。
「さあ……どう戦うのかしら?」
街の上空。
「来た!」
アクティアがレイピアを構える。
道路を塞ぐように、一体の巨大な怪人が立っていた。
全身を覆う装甲のような表面。
その身体からは、攻撃を受け付けないほどの異様な圧力が感じられる。
「今の私なら……!」
アクティアの両側に、二基の白い球体が浮かんだ。
アクティアビット。
「お願い!」
二基のビットが同時に光る。
レイピアの先端へ、光が集まっていく。
「まとめて撃つ!」
ズドォォォンッ!
二基のビットから放たれた光が一本に重なり、巨大なビームとなって怪人を直撃した。
道路が光で覆われる。
煙が舞い上がる。
「どう……?」
アクティアは目を凝らした。
だが。
ゴォォォ……。
煙の中から、怪人が姿を現す。
「うそ……!」
ほとんど効いていない。
「そんなに硬いの!?」
その瞬間だった。
背後から、一体の量産型魔法少女が迫る。
「しまっ――!」
ガキィン!
一撃。
アクティアビットの一基が弾き飛ばされた。
「ビット!」
アクティアが振り向く。
だが、量産型魔法少女は止まらない。
「このっ!」
アクティアはレイピアを振り抜いた。
相手の攻撃をかわし、懐へ潜り込む。
「そこ!」
レイピアの一閃。
量産型魔法少女が吹き飛んだ。
アクティアはすぐに地面へ落ちたビットへ駆け寄る。
「大丈夫……?」
手を伸ばす。
魔力を送る。
「戻って……!」
しかし。
白い球体は動かない。
「……反応しない」
アクティアは唇を噛む。
残ったビットを見る。
一基だけでは、さっきの怪人を倒すには足りない。
「だったら……レイピアで!」
怪人が突進してくる。
「うわっ!」
アクティアは横へ跳んだ。
拳が地面を叩く。
ドゴォン!
道路が揺れる。
「速い……!」
レイピアを振る。
怪人の腕を弾く。
反撃。
避ける。
再び斬る。
しかし決定打にはならない。
「くっ……!」
そのとき。
空から白い光が二つ飛んできた。
「え?」
ヒュンッ!
アクティアの横を通り過ぎた二つの球体が、彼女の周囲を旋回する。
「アクティアビット……?」
別の場所で使われていたビットだった。
戦闘の跡を残しながらも、アクティアのもとへ戻ってきたのだ。
「……来てくれたんだ!」
三基。
アクティアビットが揃う。
「これなら……!」
怪人が拳を振り上げる。
「させない!」
アクティアはレイピアを振り抜いた。
怪人の腕がわずかに逸れる。
その一瞬。
「今!」
三基のビットが一斉に光る。
レイピアの先端へ光が集中する。
一本。
二本。
三本。
光が重なり、巨大なエネルギーとなっていく。
「これで……終わりっ!」
ドォォォォォンッ!
三基のアクティアビットから放たれた巨大なビームが、怪人を正面から貫いた。
怪人の身体が光に包まれる。
耐久力で耐えていた身体が、ついに光の中へ消えていった。
静寂。
アクティアは荒い息を吐く。
「……勝った」
三基のビットが、ゆっくりと地面へ落ちる。
アクティアはそれを見つめた。
「ありがとう」
一方。
「……おかしい」
エクリアは、何度目か分からない攻撃を避けた。
目の前には一体の怪人。
その周囲を六人の量産型魔法少女が取り囲んでいる。
エクリアが右へ動く。
「!」
そこへ蹴り。
ギリギリで避ける。
左へ。
そこにも攻撃。
「なぜ……?」
エクリアは距離を取る。
光の刃を展開。
刃が空間へ伸びる。
その反動で、エクリアの身体が一気に後ろへ飛ぶ。
しかし。
「そこ!」
量産型魔法少女の蹴りが、エクリアの移動先へ正確に飛んできた。
「……!」
エクリアは空中で身体をひねった。
攻撃をかわす。
着地。
また移動。
また先回りされる。
「私の動きを……読んでいる?」
怪人がエクリアを見る。
その目が淡く光った。
「そういうこと……」
思考を読んでいる。
エクリアが何を考え、どこへ動くのか。
それが敵へ筒抜けになっている。
「なら……考えなければいい」
エクリアは目を閉じた。
次の瞬間。
光の刃を展開。
高速移動。
しかし、敵は先回りする。
蹴りが飛ぶ。
エクリアは避ける。
その瞬間、五人の量産型魔法少女が一斉に距離を詰めた。
「……!」
逃げ道がない。
五方向から攻撃が迫る。
エクリアは光の刃を展開した。
そのうちの一つへ、量産型魔法少女の蹴りが入る。
「!」
左手の刃の向きが変わった。
そして。
ドンッ!
エクリアの身体が、予想外の方向へ飛んだ。
「……え?」
攻撃を受けたのではない。
光の刃の向きが変わったことで、反動の方向まで変化した。
エクリアは空中で姿勢を整える。
「今の……」
再び刃を展開する。
今度は、刃を自分の肘の方向へ向ける。
「こう……?」
ドンッ!
身体が後ろへ飛ぶ。
「やっぱり……!」
エクリアの表情が変わった。
「刃を出した方向と……反対に動く!」
これまでエクリアにとって、光の刃は攻撃のための武器だった。
しかし違う。
この刃は。
移動装置にもなる。
「だったら!」
刃を右へ。
ドンッ!
身体が左へ飛ぶ。
次の刃を下へ。
ドンッ!
身体が上へ跳ぶ。
さらに別の刃。
ドンッ!
直角に方向転換。
「これなら……!」
エクリアが空中を駆ける。
右。
上。
後ろ。
斜め。
再び右。
動きが一瞬ごとに変わっていく。
思考を読んでいた怪人が、初めて反応に遅れた。
「なに……?」
エクリアは、その隙を逃さない。
「そこ!」
光の刃を一直線に伸ばす。
反動で一気に加速。
怪人の目の前へ。
「これで……!」
光が走った。
怪人が倒れる。
思考の読み取りが切れた。
量産型魔法少女たちの動きが止まる。
「……もう、あなたには私の動きは読めない」
エクリアが振り返る。
「私自身も……今まで知らなかったから」
光の刃が再び展開される。
ドンッ!
エクリアが飛ぶ。
次の刃。
ドンッ!
さらに別方向。
量産型魔法少女たちが追いかける。
しかし、もう遅い。
エクリアは三次元の空間を縦横無尽に駆け回り、一人ずつ確実に倒していった。
最後の一人が地面へ倒れる。
エクリアは静かに着地した。
「……使いこなして、魔法少女は強くなる」
自分の光の刃を見る。
「知らなくては……強くなれない」
そして、ルミナ。
「うわぁ……!」
目の前で怪人の身体が割れる。
一体が二体。
二体が四体。
さらに増える。
「まだ増えるの!?」
気がつけば、周囲には五十体近い怪人が並んでいた。
「……よし」
ルミナが構える。
「全部まとめて相手してあげる!」
姿が消える。
次の瞬間。
ドンッ!
一体の怪人へ拳。
さらに別の怪人へ蹴り。
その隣へ拳。
さらに上空から急降下。
「せいっ!」
次々と攻撃を叩き込む。
だが。
「え?」
拳が怪人の身体へ沈み込む。
倒れない。
「効いてない……?」
ルミナは拳を引く。
そこで気づいた。
「……なんか、手がベタベタする」
匂いを嗅ぐ。
「油……?」
怪人の身体から、油のような液体が付着している。
そのとき。
パチッ。
地面に小さな火花が散った。
ルミナの目が輝く。
「……なるほど」
ニヤリ。
「燃やせばいいんだ!」
ルミナの姿が増える。
一人。
二人。
十人。
十五人。
「行くよ!」
十五人のルミナが、怪人の周囲を高速で走り始める。
地面を蹴る。
火花が飛ぶ。
さらに速度を上げる。
「もっと!」
火花が怪人の身体へ飛び移る。
ボッ!
「燃えた!」
炎が上がった。
ルミナの分身七人が一斉に接近する。
「せーのっ!」
ドドドドッ!
七人の蹴りが燃えた怪人へ叩き込まれる。
油のような液体が飛び散る。
別の怪人へ付着する。
「そこ!」
さらに火が移る。
一体。
二体。
三体。
次々に炎が広がっていく。
「まだまだ!」
ルミナは分身をさらに増やした。
二十八人。
それぞれが怪人たちの周囲を円状に走り始める。
一重。
二重。
三重。
何重もの高速の輪が生まれる。
「もっと速く!」
風が生まれる。
中心へ空気が集まる。
炎が引き寄せられる。
ゴォォォォッ!
やがて、怪人たちの中心に巨大な渦が生まれた。
炎が竜巻のように巻き上がる。
「うわ……!」
ルミナ自身も思わず声を漏らすほどの炎だった。
怪人たちが炎の渦に飲み込まれていく。
燃料となる液体をまとった身体が、さらに炎を強くする。
「これで……終わり!」
二十八人のルミナが、一斉に速度を上げた。
ゴォォォォォッ!
炎が一気に膨れ上がる。
やがて。
怪人の姿は完全に消えていた。
「……勝った」
ルミナは立っていた。
身体を走るラインが、いつもより鮮やかな赤に輝いている。
「でも……」
足に力が入らない。
「ちょっと……使いすぎた……」
ふらり。
その場に倒れる。
「もう……一歩も……」
ルミナはそのまま動けなくなった。
ネガティアの司令室。
三つの戦闘データが並んでいた。
ネレイドは無言で見つめる。
「アクティアは、ビットを組み合わせた」
次の画面。
「エクリアは、反動そのものを移動へ利用した」
そして。
「ルミナは、分身と速度によって炎を生み出した」
ネレイドは目を細めた。
「三人とも、自分の能力を理解し始めている」
それは、ネガティアにとって想定外だった。
魔力を削れば弱くなる。
能力を封じれば戦えなくなる。
これまでなら、それで十分だった。
しかし今は違う。
限られた魔力でも。
限られた能力でも。
使い方を変えれば、戦況そのものを変えられる。
「……だからこそ」
ネレイドは振り返る。
研究室の奥。
そこには、完成したネガティア化魔法少女たちがいた。
彼女たちは意識を保っている。
けれど、自由に動くことはできない。
ネレイドは一人の少女へ近づく。
「あなたも、まだ役に立てるわ」
静かに囁く。
そして、リフォージを行う。
完成した拘束の一部から何かが伸びる。
それは少女の背中へ繋がっていく。
ネレイドは、そのまま何かを取り出すような作業を続けていた。
「力は……最後まで利用できる」
少女は動けない。
ネレイドだけが、その意味を知っている。
同じ頃。
別々の場所で戦いを終えた三人。
アクティアは、地面に落ちたアクティアビットを見つめていた。
エクリアは、自分の光の刃を見つめている。
そしてルミナは、力尽きたまま空を見上げていた。
三人が手に入れたものは、単なる新しい必殺技ではない。
自分自身の魔法を、もう一度見つめ直すきっかけだった。
アクティアビットは、ただ浮かぶだけの道具ではない。
エクリアの光の刃は、ただ敵を攻撃するだけのものではない。
ルミナの分身も、ただ数を増やすだけではない。
能力には、まだ知らない可能性がある。
だからこそ。
魔法少女は、強くなれる。
魔力が増えたからではない。
新しい力を与えられたからでもない。
自分の力を知り。
考え。
試し。
そして、使いこなしていく。
その先に、新しい戦い方がある。
しかし。
ネガティアもまた、動き始めていた。
三人が知らない能力。
そして。
三人が知らないネガティアの目的。
それぞれの「知らなかった力」が、次の戦いを大きく変えようとしていた。
