巨大な怪物との戦いから、数日が過ぎた。
ネガティアの基地から逃げ出したアクティアとエクリアは、助手が用意した隠れ施設で静かな時間を過ごしていた。
あの戦いで、アクティアは新しい力を手に入れた。
二つの白い球体。
アクティアビット。
それは、これまでのアクティアにはなかった武装だった。
そして今、アクティアはその二つを見つめていた。
「……これが、アクティアビットか」
目の前を、白い球体がふわふわと浮いている。
「うん。まだ分からないことも多いけどね」
助手が説明する。
「この二つには、それぞれ独立した魔力が入っているの」
「私の魔力を使ってるんじゃないの?」
「そう。そこが普通の武装とは違うところ」
アクティアは少し驚いた。
「じゃあ、これを使っても私の魔力は減らない?」
「基本的にはね」
アクティアはビットを指でつつこうとした。
しかし、白い球体はすっと逃げる。
「こら!」
「ふふっ」
助手が笑う。
アクティアも思わず笑った。
ほんの少し前まで、自分は生きることさえ諦めかけていた。
それを思えば、この何気ないやり取りが不思議だった。
「それと、もう一つ分かっていることがある」
助手が言った。
「アクティアビットは、飛行補助にも使える」
「飛行?」
アクティアが変身すると、二つのビットが腰の左右へ移動する。
その瞬間。
身体がふっと軽くなった。
「わっ!」
アクティアの身体が浮き上がる。
「これ……速い!」
以前のアクティアの飛行とは違う。
ビットが自分の魔力とは別に働いているため、飛行そのものを補助してくれる。
「なるほど……」
アクティアは空中で身体を回転させた。
「これなら、もっと自由に飛べそう!」
「ただし、まだ全部の機能が分かっているわけじゃないから、無理はしないでね」
「分かってるって!」
そう言いながら、アクティアは楽しそうに空を飛んでいた。
一方、その頃。
エクリアも自分の力を試していた。
「……まだ、10%」
エクリアの魔力は最大でも10%。
以前のような圧倒的な魔力はない。
しかし。
「それでも……戦える」
エクリアは手を伸ばした。
光の刃が生まれる。
一枚。
そして二枚。
さらに一枚。
魔力を使えば、当然残量は減っていく。
ところが。
「……戻っている?」
減ったはずの魔力が、急速に回復していく。
10%。
再び最大値まで戻った。
エクリアは目を見開く。
「私の魔力……」
希望。
そして、強い意志。
その二つが、エクリアの魔力を急速に回復させていた。
最大値そのものは10%のまま。
けれど、使った魔力が戻ってくる速度が異常に速い。
「これなら……」
エクリアは拳を握る。
「私は、まだ戦える」
そして、もう一度光の刃を展開した。
「エクリア!」
突然、アクティアが声をかけた。
「なに?」
「ちょっと、その光の刃を出してみて」
「こう?」
エクリアの脚から光の刃が伸びる。
「うん」
アクティアはじっと観察する。
「それって、飛ばせるんだよね?」
「ええ」
エクリアが前方へ光の刃を放つ。
その瞬間だった。
エクリアの身体が、ほんの少し後ろへ動いた。
「……今」
アクティアが目を丸くする。
「後ろに動いたよね?」
「え?」
エクリアも振り返る。
「確かに……」
「もう一回!」
エクリアが光の刃を前方へ放つ。
今度は、はっきりと身体が後ろへ押し出された。
「……反動?」
エクリアが呟く。
アクティアは目を輝かせた。
「じゃあ、逆にしたら?」
「逆?」
「後ろに刃を出してみて」
エクリアは少し考える。
そして、背後へ光の刃を展開した。
ドンッ!
今度は身体が前へ進んだ。
「!」
エクリアが驚く。
「前に……!」
「やっぱり!」
アクティアが叫ぶ。
「光の刃を出した方向と反対に、身体が動くんだ!」
エクリアは黙って、自分の能力を見つめた。
今まで何度も使ってきた光の刃。
けれど。
そんな性質があることを、知らなかった。
「……私は、この力をずっと使ってきた」
エクリアが静かに言う。
「なのに、こんなことにも使えるなんて……」
「知らなかっただけなんだよ」
アクティアが笑う。
「能力って、ただ持ってるだけじゃダメなんだね」
エクリアも頷く。
「使い方を知らなければ、力にならない」
「うん」
二人は顔を見合わせる。
「じゃあ、もっと試してみよう!」
アクティアが言った。
エクリアは再び光の刃を展開する。
前へ。
後ろへ。
斜めへ。
横へ。
一方向へ刃を出すたび、反対方向へ身体が動く。
それを組み合わせる。
前へ進みながら、後ろへ刃を出す。
横方向へ刃を出して、身体を急旋回させる。
斜め後方へ刃を出して、空中で一気に方向を変える。
背中から後ろに出すと、前方に急速移動できた。
「すごい……!」
アクティアが声を上げる。
「これなら、空中でも自由に動ける!」
エクリア自身も驚いていた。
今まで自分の光の刃は、敵を攻撃するための武器だと思っていた。
しかし違った。
これは。
「移動にも使える……」
攻撃。
回避。
加速。
方向転換。
光の刃そのものは、何も変わっていない。
変わったのは。
エクリアが、その能力を理解したことだった。
「知らなければ、強くなれない……」
エクリアが呟く。
「うん」
アクティアも頷いた。
「だったら、私たちはまだまだ強くなれるよ」
その頃。
街では、不穏な空気が広がっていた。
テレビやインターネットでは、魔法少女に対する不安を煽る情報が流されている。
「魔法少女が街を壊した」
「魔法少女は本当に市民を守ってくれるのか?」
「また戦闘になれば、今度は誰が被害に遭うのか」
人々の中に、少しずつ不安が積み重なっていく。
それは、やがて怒りへ変わった。
「魔法少女なんて信用できない!」
「自分たちだけ逃げるんだ!」
「街を守るって言ったのに!」
その声は、次第に大きくなっていった。
そして。
百人を超える人々が、魔法少女たちを探して街を歩き始めた。
「アクティア!」
エクリアが叫ぶ。
「この人たち……!」
二人の前には、大勢の市民がいた。
怒りと不安に包まれている。
「魔法少女は敵だ!」
「出ていけ!」
「街を壊すな!」
アクティアは拳を握った。
「……戦えない」
「ええ」
エクリアも構えることができない。
相手は怪人ではない。
普通の人間だ。
だからこそ、攻撃することができない。
その中には。
助手もいた。
「やめてください!」
助手が叫ぶ。
しかし、人の波に押し倒されてしまう。
「助手!」
アクティアが駆け寄ろうとする。
けれど、人々に阻まれる。
「やめて!」
アクティアの声が響く。
助手は地面に倒れたまま、動かない。
「助手……!」
アクティアの顔から血の気が引いていく。
エクリアも必死に人々を押し返そうとする。
しかし、攻撃することはできない。
どうすればいいのか。
そのときだった。
突然。
ドンッ!
一人の市民が倒れた。
続いて。
ドンッ!
また一人。
さらに一人。
次々と人々が倒れていく。
「え……?」
アクティアが振り返る。
そこにいたのは。
ピンク色の髪をなびかせた少女。
「久しぶり!」
ルミナだった。
「ルミナ!」
アクティアが叫ぶ。
ルミナはニッと笑う。
「ちょっと待っててね!」
その瞬間。
ルミナの姿が増えた。
一人。
二人。
十人。
二十人。
そして。
五十人。
「最大数、いっくよ!」
五十人のルミナが、一斉に走り出す。
怒りに任せて集まった百人以上の市民を、一人ずつ制圧していく。
もちろん、命を奪うような攻撃ではない。
動きを止め。
転ばせ。
そして、意識を失わせる。
数分後。
街に残っていたのは、静けさだった。
百人を超える人々が、全員眠るように倒れている。
ルミナは大きく息を吐いた。
「ふぅ……」
そして、本体のルミナがアクティアたちを見る。
「大丈夫?」
アクティアは呆然としていた。
「……五十人」
「うん!」
「五十人も同時に動かせるようになったの?」
「そうみたい」
ルミナは笑った。
「私も、自分の力をいろいろ試してたんだ」
アクティアは、エクリアを見る。
エクリアも頷いた。
自分たちも同じだった。
能力を理解する。
試してみる。
新しい使い方を見つける。
そして。
以前ならできなかったことが、できるようになる。
「……私たち」
アクティアが呟く。
「まだ強くなれるんだ」
少し離れた場所。
その様子を、ネレイドは静かに見ていた。
「……なるほど」
ネレイドの視線の先には、三人の魔法少女。
アクティア。
エクリア。
ルミナ。
「アクティアは、新しい武装を手に入れた」
「エクリアは、自分の能力の性質を理解した」
「そしてルミナは、分身能力を最大まで引き上げた」
ネレイドは目を細める。
「私は、魔法少女たちの魔力だけを見ていた」
それが間違いだった。
魔力が少なくても。
能力そのものが変わらなくても。
使い方を知れば、戦い方は変わる。
「能力を理解することで、魔法少女は成長する……」
ネレイドは静かに呟いた。
「ならば」
口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
「本人たちが、まだ知らない能力を利用すればいい」
新たな戦いの予感が、静かに始まっていた。
夜。
隠れ施設へ戻ったアクティアは、窓の外を眺めていた。
腰のそばには、二つのアクティアビットが浮かんでいる。
「……私の魔力」
アクティアは小さく呟く。
10%。
リフォージされた魔力最大値は、まだ10%しかない。
けれど。
以前より、回復する速度が速くなっている。
まだエクリアほどではない。
それでも。
確実に変化していた。
アクティアは拳を握る。
「少しずつでいい」
そして隣を見る。
エクリアがいる。
ルミナもいる。
助手もいる。
一人ではない。
「私たちは、まだ強くなれる」
二つの白いビットが、アクティアの周囲を静かに飛ぶ。
その光は、小さかった。
けれど。
これから始まる新しい戦いを照らすには、十分な光だった。
魔法少女は、魔力の量だけで強さが決まるわけではない。
自分の力を知ること。
仲間の力を知ること。
そして、自分自身で使い方を見つけること。
知らなければ、強くなれない。
だからこそ。
知れば、まだ先へ進める。
アクティアたちの戦いは、再び動き始めた。
