第14章 残された光 | 光と闇を 抱きしめたまま

光と闇を 抱きしめたまま

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研究施設からの脱出。

 それだけを考えて、アクティアとエクリアは走っていた。

 背後からは、まだネガティアの気配がする。

 けれど、今は振り返っている暇はない。

「こっち!」

 エクリアが先導し、アクティアがその後を追う。

 しばらくして、二人はようやく施設の外へ出た。

 冷たい風が頬を撫でる。

 アクティアは立ち止まり、大きく息を吐いた。

「……出られた」

「うん」

 エクリアも周囲を確認する。

 追手の姿はない。

 二人は、ようやく逃げ切ったのだ。

 しかし。

 アクティアの表情は晴れなかった。

 魔法少女の衣装は、以前の姿を取り戻しつつある。

 だが、完全ではない。

 衣装の一部には、まだ紫色の生体素材が残っている。

 チョーカーもない。

 レイピアもシールドも、すでに消えてしまった。

 そして何より。

 自分の魔法が、以前とは比べものにならないほど弱い。

「……私、本当に魔法少女に戻れるのかな」

 アクティアが小さく呟いた。

 エクリアは答えなかった。

 まだ、自分自身でも分からないからだ。

 そのときだった。

「グオオオオオッ!」

「!」

 二人の前に、一体の怪人が現れた。

「また怪人……」

 アクティアが身構える。

 見覚えのあるタイプだった。

 以前なら、この怪人一体だけでも、それなりに苦戦しただろう。

 しかし。

「アクティアは下がって」

 エクリアが前へ出る。

「え?」

「私がやる」

 エクリアの右腕が輝いた。

 白い光が装甲を包み込む。

 次の瞬間。

 装甲は一本の鋭い光の刃へと姿を変えた。

「これが……光刃」

 エクリアが呟く。

 怪人が突進する。

 エクリアは、その攻撃を軽くかわした。

 そして。

 一閃。

 光が走った。

 怪人はその場で動きを止め、そのまま倒れた。

「……え?」

 アクティアは目を丸くした。

 あまりにも、あっけなかった。

 以前、何度も戦ったエクリアとは別人のようだった。

 速い。

 迷いがない。

 そして、圧倒的に強い。

「エクリア……」

「この光刃は、ただの刃じゃない」

 エクリアは右腕の光を見つめる。

「当たれば、相手を消滅させるほどの力があるみたい」

「消滅……」

「うん」

 エクリアは少しだけ目を伏せた。

「私がアクティアと戦っていた頃の刃とは、全然違う」

「……」

「あのときの私は、この刃を使っても……すぐに折れるくらい弱かった」

 アクティアは何も言えなかった。

 その言葉には、かつての自分たちの戦いが重なっていた。

 エクリアは、あの頃とは違う。

 そして自分もまた、あの頃とは違う。

 良い意味でも。

 悪い意味でも。

 そこへ、さらに戦闘員たちが現れた。

 数人。

 それだけではない。

 次々と建物の陰から姿を現す。

「まだ来るの……?」

 アクティアが身構える。

 だがエクリアは動じなかった。

「大丈夫」

 光刃が再び輝く。

 エクリアが走る。

 一人。

 二人。

 三人。

 戦闘員たちは次々と倒されていく。

 まるで、以前とは別の戦いを見ているようだった。

 最後の一人が倒れる。

 静寂が戻った。

「……すごい」

 アクティアが呟いた。

 エクリアは振り返る。

「アクティア」

「うん?」

「行こう」

「……うん」

 二人は再び歩き始めた。

 その途中。

 アクティアは胸元へ手を当てた。

 もう、そこにチョーカーはない。

 それでも。

 何かが残っているような気がした。

 エクリアにできたのなら。

 自分にも。

 もう一度、何かできるのではないか。

「……私も」

 アクティアは目を閉じる。

「私も、エクリアの力になりたい」

 その瞬間だった。

 アクティアの身体を覆っていた紫色の生体素材が、淡く輝き始めた。

「……え?」

 エクリアが振り返る。

 光は少しずつ広がっていく。

 紫色だった素材が光に包まれ、形を変えていく。

 腕。

 脚。

 胸元。

 かつての魔法少女の衣装が、少しずつ戻っていく。

「アクティア……!」

 光が消える。

 そこに立っていたのは、以前のアクティアを思わせる姿だった。

 しかし。

「……全部は、戻ってない」

 アクティアが自分の身体を見る。

 衣装の多くは元の姿へ戻っていた。

 けれど、レオタード部分だけは紫色の生体素材のままだった。

 完全な復活ではない。

 魔法も戻っていない。

 それでも。

「……少しだけ、戻った」

 アクティアは胸元に手を当てた。

 小さな光が、そこに残っている。

「まだ……私の中に残ってるんだ」

 エクリアは微笑んだ。

「うん」

 しかし、その先にはまだ多くの戦闘員が残っていた。

「行こう」

 エクリアが光刃を構える。

「ここから脱出する」

「うん!」

 二人は再び走り出した。

 エクリアは残った戦闘員たちを次々と倒していく。

 そして二人は、ついにネガティアの施設から離れることに成功した。

 しばらくして。

 二人は、かつてアクティアが父とともに過ごしていた研究所へ戻ってきた。

「……ここなら」

 アクティアが顔を上げる。

 しかし。

「……え?」

 そこにあった光景を見て、アクティアは言葉を失った。

 研究所が。

 壊されていた。

 建物は大きく損傷し、研究機材は倒れ、資料も散乱している。

 かつて父が研究を行っていた場所。

 そして、助手がアクティアの成長を記録していた場所。

 そこには、もう誰もいなかった。

「……誰もいない」

 アクティアが呟く。

「助手さんも……」

 エクリアも周囲を見渡す。

 人の気配はない。

 機械の音も聞こえない。

 完全に、捨てられた場所のようだった。

「ネガティアが、ここまで……」

 アクティアは、壊れた研究設備を見つめる。

 そのとき。

「グオオオオオッ!」

「また!?」

 いつもの怪人が姿を現した。

 さらに、その後ろから戦闘員まで現れる。

 アクティアが身構える。

 しかし、エクリアは一歩前へ出た。

「大丈夫」

 光刃が閃く。

 怪人は一撃で倒された。

 続いて戦闘員たちも襲いかかる。

 エクリアはその動きをかわし、次々と光刃を振るった。

 あっという間だった。

 戦闘員たちも全員倒れていた。

「……本当に強くなったんだね」

 アクティアが呟く。

 エクリアは少し困ったように笑った。

「私自身も、まだ分からない」

 そのとき。

「……アクティア?」

 どこからか、声が聞こえた。

「……!」

 アクティアが振り返る。

「今の声……」

 聞き覚えがある。

「まさか……」

 建物の陰から、一人の女性が姿を現した。

「やっぱり、あなたたちだったのね」

「助手さん!」

 アクティアの顔が明るくなる。

 それは、父の研究を手伝っていた助手だった。

「無事だったんですか!?」

「ええ」

 助手は頷く。

「研究所が襲われる前に、少しずつ機能を別の場所へ移していたの」

「じゃあ……」

「大事な研究データも、ほとんど無事よ」

「……よかった」

 アクティアの肩から力が抜ける。

 すべてを失ったと思っていた。

 けれど。

 まだ残っているものがあった。

「あなたたち、ここでは危険よ」

 助手が二人を見る。

「私の家へ来て」

「家?」

「ええ。そこに研究所から移した設備もあるわ」

 助手は二人を連れて歩き始めた。

 やがて辿り着いたのは、ごく普通の家だった。

 だが。

 その地下には、研究所から移された機材が並んでいた。

 データも保存されている。

「ここに……残していたんだ」

 アクティアが呟く。

「あなたのお父さんが残した研究もある」

 助手が答える。

「そして、あなたが魔法少女として成長していった記録もね」

 アクティアは静かにデータを見る。

 父。

 ネガティア。

 自分の魔法。

 エクリア。

 失ったものは多い。

 まだ、元には戻れていない。

 それでも。

 すべてが消えたわけではなかった。

「……まだ、終わってないんだ」

 アクティアが呟く。

 エクリアが隣に立つ。

「うん」

 二人は顔を見合わせた。

 今度は、一人ではない。

 壊された研究所の跡には戻れない。

 けれど。

 残された場所から、もう一度始めることはできる。

 アクティアの衣装には、まだ紫色の生体素材が残っている。

 魔法も完全には戻っていない。

 それでも胸の奥には、小さな光が灯っていた。

 それはまだ、消えてはいなかった。