街では、まだ戦いが続いていた。
ネガティアの部隊による魔法少女の捕獲。
一人、また一人。
魔法少女たちは各地で追い詰められ、捕獲されていった。
そんな中、ルミナは街を駆け回っていた。
「こっち!」
捕獲されようとしていた魔法少女の前へ、ルミナが飛び込む。
次の瞬間、何人ものルミナの姿が敵の前を横切った。
「どれが本物か、分かる?」
分身が一斉に走り出す。
ネガティアの部隊が混乱している隙に、ルミナは魔法少女の手を取った。
「今のうちに逃げて!」
「ありがとう!」
助けられた魔法少女が走っていく。
ルミナもすぐに次の場所へ向かおうとする。
しかし、その足が一瞬止まった。
街の向こうから、別の戦闘の音が聞こえてきた。
「……また……」
全部を救うことなんてできない。
ルミナにも、それは分かっていた。
助けられる人数には限界がある。
それでも、ルミナは走った。
一人でも助けられるなら。
一人でも捕獲から救えるなら。
そして、その活動を続けながら、ルミナはもう一つのことを探していた。
「アクティア……」
アクティアの行方。
あの戦いのあと、アクティアはネガティアに連れ去られた。
どこへ運ばれたのか。
生きているのか。
今、どうしているのか。
何も分からない。
「絶対、見つけるから……」
ルミナは再び街を駆け出した。
その頃。
アクティアは、暗い部屋の中にいた
「パ……パ?」
そこにいたのは、アクティアの父親だった。
「どうして……パパがここにいるの?」
父親は静かにアクティアを見る。
「久しぶりだな、アクティア」
「久しぶりって……」
アクティアには意味が分からない。
「ここ、ネガティアの基地なの?」
「ああ」
「じゃあ、パパは……ネガティアに捕まったの?」
父親は首を横に振った。
「違う」
「え?」
「私はネレイドと一緒に、ネガティアの事業を運営している」
「……事業?」
アクティアは首を傾げた。
父親は淡々と話し始める。
ネガティアは魔法少女に関する研究を行っている。
魔法少女の能力。
衣装。
武器。
変身システム。
そして、魔法少女そのもの。
それらを研究し、事業として展開しているという。
「魔法少女……ビジネス?」
アクティアには、その言葉がどうしても理解できなかった。
「でも、ネガティアって悪の組織でしょ?」
怪人を街へ送り込む。
戦闘員を動かす。
魔法少女と戦う。
それがアクティアの知っているネガティアだった。
「じゃあ……よくある悪の組織って、何なの?」
父親は答える。
「魔法少女が価値を見出されるためには、負の側面が必要なんだ」
「負の側面?」
「魔法少女が活躍するには、魔法少女が立ち向かう相手が必要になる」
「……だからって、街を壊すの?」
アクティアの声に怒りが混じる。
「どうして、わざわざ人を怖がらせて、魔法少女を活躍させる必要があるの?」
父親は淡々と説明した。
「魔法少女が怪人を倒す」
「その姿を人々が見る」
「そして、魔法少女がSNSやメディアで取り上げられる」
父親は続ける。
「話題になればなるほど、魔法少女そのものの価値が上がる」
「……」
「そして、魔法少女が注目されれば、我々ネガティアのビジネスも、より売れる」
アクティアは言葉を失った。
「……私が魔法少女になったとき……」
父親を見る。
「パパ、一緒に喜んでくれたよね?」
初めて変身した日。
父親は笑ってくれた。
アクティアが魔法少女になったことを喜んでくれた。
武器のことも調べてくれた。
飛ぶ方法まで教えてくれた。
それは、父親が自分を応援してくれているからだと思っていた。
「私が魔法少女になったとき、パパも嬉しかったんじゃないの?」
父親は、少しも表情を変えなかった。
「もちろんだ」
アクティアの表情が少しだけ緩む。
しかし。
「我らのビジネスのためだ」
「……え?」
その一言で、アクティアの表情が固まった。
「じゃあ……」
声が震える。
「今までのパパは……」
父親は答えない。
「私を応援してくれてたんじゃなくて……」
アクティアは俯いた。
「……偽りだったの?」
そのときだった。
父親が静かに告げた。
「アクティア」
「……?」
「私は、ネガティアの首領だ」
「…………」
アクティアの時間が止まった。
「……パパが?」
「そうだ」
怪人を送り出していたのも。
魔法少女たちを捕獲していたのも。
そのネガティアを動かしていたのが、自分の父親。
「そんな……」
アクティアの頭の中に、今までの出来事が次々と浮かんだ。
自分が魔法少女になった日。
父親が喜んでくれたこと。
一緒に魔法少女の力を調べたこと。
飛べるようになったこと。
新しい力を見つけたこと。
全部が、大切な思い出だった。
それなのに。
「じゃあ……私が魔法少女に憧れてたのも……」
アクティアの声が小さくなる。
「ネガティアが……お金を儲けるためだったの?」
父親は答えなかった。
その沈黙が、アクティアには何よりも苦しかった。
やがて父親はネレイドを見る。
「……あとは頼む」
「承知しました」
「パパ……?」
父親は振り返らない。
そのまま部屋を出ていく。
扉が閉まる。
アクティアは、ただその扉を見つめていた。
「パパ……」
返事はない。
ネレイドがアクティアの前へ歩み寄る。
「さて」
アクティアが顔を上げる。
「あなたには、これから知ってもらうことがあるわ」
「……何を?」
ネレイドは装置へ手を伸ばした。
「なぜ、魔法少女たちが囚われているのか」
機械が低く唸り始める。
「あなた自身で知ることになるわ」
「どういう意味……?」
機械の出力が上がる。
アクティアは、自分の中を流れていた魔力に違和感を覚えた。
「……何?」
今まで感じていた魔力とは違う。
温かさがない。
胸の奥から湧き上がるような感覚もない。
そこにあるのは、どこか空っぽで、虚しい感覚だった。
「魔力が……変……」
アクティアの衣装が変化し始める。
ピンク色だった衣装が、少しずつ紫色へと染まっていく。
「なに……これ……」
ネレイドは静かに告げた。
「ピュアブレイクよ」
「ピュア……ブレイク?」
「魔法少女としての価値や意義を、あなた自身が失い始めている、
その心は魔力を正常に送れなくなる」
アクティアは何も言えない。
「あなたにとって、魔法少女は憧れだった」
「……」
「誰かを守る存在。人々を笑顔にする存在。そして、あなた自身がなりたかった存在」
ネレイドの言葉が、アクティアの心に突き刺さる。
「でも、その魔法少女を応援していた父親は、ネガティアの首領だった」
「……やめて」
「あなたが魔法少女になったことさえ、ビジネスの一部だった」
「やめて……!」
アクティアの衣装が、さらに紫色へ変わっていく。
ネレイドは装置を確認する。
「今までの魔法少女としての純粋な心が揺れるときプラスの魔力が、流れなくなる」
アクティアは自分の手を見る。
「私の……魔力……」
「その代わりに、負のエネルギーが入り始めている」
「負の……魔力……?」
「そう」
ネレイドは静かに説明した。
「この装置は、一度ピュアブレイクを起こした魔法少女を、マイナス魔力へと固定するための装置」
アクティアの瞳が揺れる。
「そしてマイナス魔力な流れに固定するのが……ネガフォージ」
「……」
「それを、ネガティア化と呼んでいるわ」
機械がさらに作動する。
アクティアの衣装は、もう元の色を残していなかった。
全身を包む衣装が、紫色の生体素材へと変化していく。
「もう、今までの魔法少女としての魔力を使うことはできない」
ネレイドの声だけが、部屋の中に響く。
「そして、その生体素材は、あなたの中に残る魔力を吸い続ける」
アクティアは、自分の姿を見つめる。
そこにいるのは、これまで憧れていた魔法少女の姿ではない。
「これが……私……?」
ネレイドは装置を停止する。
「これで終わり」
そして、アクティアへ微笑みかける。
「ネガティアへようこそ♡」
アクティアは何も答えなかった。
父親は、ネガティアの首領だった。
自分が憧れていた魔法少女は、ネガティアのビジネスのためだった。
そして、もう母親もいない。
「パパも……」
小さな声が漏れる。
「魔法少女も……」
胸の奥が空っぽになっていく。
「ママも……」
アクティアを支えていたものが、すべて崩れていく。
憧れも。
家族も。
魔法少女としての意味も。
何も残っていない。
アクティアはただ、紫色に染まった自分の姿を見つめていた。
その瞳から、光が失われていく。
そしてその頃、街では。
「アクティア……どこにいるの?」
ルミナが、まだ彼女を探していた。
一人でも多くの魔法少女を救いながら。
アクティアの帰りを、信じて。
物語はここから、大きく変わり始める。
魔法少女として憧れられていた少女は。
