目を覚ますと、アクティアは見知らぬ部屋にいた。
白く無機質な壁。人工照明。手足に取り付けられた奇妙な装置。
「……ここ、どこ?」
身体は動く。だが、魔力を集中させても何も起こらなかった。
ビームも、レイピアも、透明なマントも現れない。
「……私の魔法……」
扉が開き、ネガティアの戦闘員が入ってきた。
「出ろ」
「嫌よ。あんたたちの言いなりにはならない!」
踏みとどまった瞬間、捕獲ユニットが光った。右足、左足が勝手に動き出す。
「やめなさい!」
抵抗しても、身体は止まらない。自分の意思で動けないことが、たまらなく恐ろしかった。
長い通路を抜け、最後の扉が開く。
その先には、巨大な研究施設が広がっていた。並んだカプセル、無数のモニター、複雑な配線。ここがただの牢獄ではないことは明らかだった。
「……何、ここ……」
施設の中央に、紫と黒の衣装をまとった女性が座っていた。腰から伸びる異形の腕を見て、アクティアは息をのむ。
「……ネレイド」
ネガティアの女幹部。何度も自分を追い詰めた敵だ。
「ようこそ。あなたが噂の魔法少女、アクティアね」
ネレイドは端末を操作した。
「新しい魔法少女を見た。怪人と戦っていた。空を飛んでいた――街では、あなたの話で持ちきりよ」
「私のことを調べてたの?」
「もちろん」
アクティアは周囲を見回した。
「ここはどこ?」
「ネガティアの研究施設よ。魔法少女を捕獲し、解析し、必要なら創り変える場所」
「……創り変える?」
「あなたたちは、魔法少女を華やかな存在だと思っている。怪人を倒し、人々を助け、称賛される存在だと」
ネレイドはカプセルへ視線を向けた。
「でも、価値はそれだけかしら?」
「どういう意味?」
「魔法少女には、負の側面もある。恐怖、執着、孤独、承認欲求……私たちは、少女たちの感情から生まれる力を別の方法で活用する」
アクティアは拳を握った。
「だから、魔法少女たちを攫ってるの?」
「ええ」
「私たちを、人じゃなくてエネルギーとして見てるっていうの?」
ネレイドは答えなかった。その沈黙が、何より恐ろしかった。
「あなたにも、マイナスの側面がある」
「私にも……?」
「ええ。あなたの中にあるものを、引き出してあげる」
「やめて!」
後ずさろうとした瞬間、捕獲ユニットが作動した。手足を左右に引かれ、身体が装置の上に固定される。
「離して!」
身動きが取れない。ネレイドは抵抗するアクティアを静かに見つめた。
「安心して。まだ何も始まっていないわ」
「何が安心してよ!」
ネレイドが手を振ると、アクティアの周囲に淡い光が浮かんだ。
光の中に、彼女の記憶が映し出される。
テレビで見た魔法少女。
自分もあんな存在になりたいと思った憧れ。
誰かを助けたい、守りたいという願い。
魔法少女になれた喜び。
「何をしているの……?」
「あなたの心を読んでいるのよ」
ネレイドは映像を眺めた。
「魔法少女に強い憧れを持っているのね」
「……それが何?」
「憧れでは、何も守れない。憧れているだけでは、自分で何かを選ぶこともできない」
「そんなこと……」
反論しかけたとき、研究施設の奥で扉が開いた。
一人の中年男性が歩いてくる。
照明に照らされた顔を見て、アクティアは息をのんだ。
突然姿を消し、何の説明もなくいなくなった人。
「……パ……パ?」
男性は答えなかった。
