夜の街。
アクティアは、目の前で起きている光景を見つめていた。
「……どうして……」
魔法少女になったばかりの少女。
ついこの間まで、普通の女の子だった。
そんな彼女が、ネガティアの捕獲ユニットによって連れ去られていく。
「待って!」
アクティアは駆け出そうとする。
しかし、その前に量産型魔法少女たちが立ちはだかった。
「どいて!」
レイピアを振る。
それでも、次々と現れる敵によって足止めされてしまう。
そして、少女の姿は光の中へ消えていった。
「……また、助けられなかった」
アクティアの胸に、重いものが残った。
これまで怪人を倒せば、それで街の平和は守れると思っていた。
けれど違った。
ネガティアは、魔法少女そのものを狙っている。
戦いに負けた魔法少女が、どこかへ連れ去られている。
そして今度は、自分の知り合いまで……。
「私が……もっと強かったら……」
アクティアは俯いた。
そんな彼女の様子を、ルミナは黙って見ていた。
「アクティア」
「……なに?」
「今夜、暇?」
「え?」
突然の言葉に、アクティアは顔を上げる。
ルミナはいつものように笑っていた。
「夏祭り、行こうよ」
「夏祭り?」
「そう! 年に一度のやつ!」
アクティアは少し戸惑った。
「でも……」
「だから行くの」
ルミナはアクティアの手を取る。
「今日は魔法少女のこと、ちょっと忘れようよ」
「……」
「普通の女の子として遊ぼう!」
その言葉に、アクティアはしばらく黙っていた。
そして、小さく笑う。
「……うん」
二人は夏祭りへ向かった。
夜の街を彩る祭りの灯り。
屋台から漂う甘い匂い。
人々の笑い声。
アクティアとルミナは、久しぶりに魔法少女ではない時間を楽しんでいた。
「見て! 射的!」
「ルミナ、子どもみたい」
「いいじゃん!」
「じゃあ私もやる!」
「負けないよ!」
射的を楽しみ、屋台を巡り、かき氷を食べる。
アクティアの心の中から、知り合いの少女のことが完全に消えたわけではない。
やはり、気がかりだった。
それでも。
「……誘ってくれて、ありがと」
「ん?」
「今日は……楽しい」
ルミナは笑う。
「でしょ?」
アクティアも笑った。
ほんの少しだけ。
胸の奥にあった重さが軽くなった。
二人にとって、年に一度の夏祭り。
それは魔法少女ではなく、普通の少女として過ごす大切な時間だった。
だが。
夜も遅くなり、祭りの人波が少なくなった頃。
二人は帰ろうとしていた。
その時だった。
「……アクティア」
聞き覚えのある声。
二人が振り返る。
そこに立っていたのは、エクリアだった。
「エクリア……!」
アクティアの表情が変わる。
ルミナも警戒する。
エクリアは何も言わず、二人を見つめていた。
そして。
二人は魔法少女へ変身する。
「変身!」
光が二人を包む。
夏祭りの夜は、一瞬にして戦場へ変わった。
エクリアの後方から、6体の量産型魔法少女が現れる。
一斉にアクティアとルミナへ襲いかかった。
二人は以前の戦闘を思い出していた。
拳や蹴りに触れれば、魔力を減少させられる可能性がある。
「直接受けないで!」
アクティアが叫ぶ。
「分かってる!」
ルミナも攻撃をかわす。
しかし、量産型魔法少女たちの動きが変わった。
一体がアクティアの逃げ道を塞ぐ。
別の一体が、その先へ回り込む。
まるで、お互いの動きを把握しているかのようだった。
「何、この動き……?」
アクティアが驚く。
「前の指揮官型みたい!」
ルミナも気づく。
エクリアの指示に合わせ、6体が一糸乱れず動いている。
「右!」
エクリアが指示する。
量産型魔法少女たちが一斉に動く。
「今!」
2体がアクティアへ迫った。
左手が触手へ変化する。
2本の触手がアクティアの両手に巻き付いた。
「しまった!」
別の量産型魔法少女が蹴りを放つ。
「くっ!」
アクティアはまともに受け、体勢を崩した。
「アクティア!」
ルミナが高速で突っ込む。
量産型魔法少女の一体を吹き飛ばす。
その衝撃で触手が緩んだ。
「今!」
アクティアはレイピアを振る。
光の刃が触手を斬り落とした。
「ありがとう、ルミナ!」
「まだ終わってないよ!」
量産型魔法少女がボウガンを構える。
前方。
そして後方。
「挟まれた!」
二方向から矢が放たれる。
ルミナは一撃目を受けてしまう。
「っ!」
二撃目は、転がるようにしてかわした。
しかし、その矢はルミナの後方にいた量産型魔法少女へ飛んでいく。
「え……?」
矢がヘルメットを貫く。
量産型魔法少女は動きを止める。
そして、その身体は灰へと変わっていった。
「……!」
二人は言葉を失った。
***
その隙を突き、アクティアが動く。
量産型魔法少女たちの連携が崩れた一瞬。
「今だ!」
光の剣を振るう。
2体の量産型魔法少女が倒され、灰となって消える。
「私も!」
ルミナは8体の分身を展開する。
8人のルミナが一斉に駆け出した。
「いっくよ!」
四方からのラッシュ。
2体の量産型魔法少女は次々と攻撃を受け、やがて灰となった。
残るのは、2体。
そしてエクリア。
その時だった。
暗闇から、長身の女が姿を現した。
紫と黒を基調とした衣装。
堂々とした立ち姿。
いかにも「悪の女幹部」といった出で立ちだった。
「私はネレイド」
女は静かに名乗る。
「ネガティアの女幹部よ」
「ネガティアの……女幹部!?」
アクティアとルミナは驚いた。
ネレイドはエクリアを見る。
「歳下の小娘に手こずっているね」
エクリアは黙っている。
「捕獲作戦は、まだなのかな?」
そして、ネレイドは微笑む。
「これが最後のチャンスよ。逃げることはできないから」
ネレイドの周囲から触手が伸びる。
2体の量産型魔法少女へ向かって、鞭のように振るわれた。
バシッ!
触手が背中を打つ。
すると、二体のバイザーが黒色に輝いた。
「……?」
アクティアは警戒する。
何かがおかしい。
ネレイドはさらに手を掲げた。
複数の捕獲ユニットが出現する。
「行きなさい」
捕獲ユニットが周囲へ散開する。
その目的は明らかだった。
魔法少女の捕獲。
ネレイドはエクリアへ告げる。
「エクリア」
「はい」
「もう失態は許されない」
「……」
「魔法少女を捕獲しなさい」
それだけ言うと、ネレイドは闇の中へ消えていった。
黒く輝くバイザー。
その量産型魔法少女たちが、アクティアとルミナへ襲いかかる。
「速い!」
今までの量産型魔法少女とは、まるで別人だった。
スピードも、パワーも桁違い。
ルミナが分身を展開する。
8体のルミナが一斉に攻撃する。
しかし。
「うそ……!」
分身の攻撃を次々とかわされる。
反撃を受け、ルミナは防戦一方になる。
アクティアもシールドを展開しようとする。
しかし。
「シールドが……出ない!」
先ほど触手によってシールド発生ポイントを破壊されていた。
そこへ黒バイザーの量産型魔法少女が迫る。
アクティアは攻撃をかわそうとする。
しかし、両手を掴まれた。
「しまった!」
そのまま上空へ投げ飛ばされる。
さらに触手が伸び、アクティアの足を捕らえた。
「えっ!」
引き寄せられる。
ドンッ!
アクティアは地面へ叩きつけられた。
「……っ!」
ルミナも分身で対抗する。
だが、敵の速さと力は圧倒的だった。
二人には、もはや撃つ手がない。
その一方で。
捕獲ユニットは、周囲の魔法少女たちを次々と捕らえていた。
「やめて!」
「誰か……!」
魔法少女たちが連れ去られていく。
アクティアはその光景を見る。
「また……」
自分の知り合いと同じように。
また誰かが攫われていく。
***
黒バイザーの量産型魔法少女が、二人に最後の一撃を加えようとした。
その時。
「……!?」
突然、二体が苦しみ始めた。
黒く輝いていたバイザーから、光が消えていく。
「どうしたの……?」
ルミナが驚く。
二体は立っていることもできなくなり、その姿が崩れていく。
そして。
灰へと変わった。
跡形もなく消える。
「……消えた」
アクティアも荒い息をついていた。
二人とも、かなりの魔力を消耗している。
だが。
エクリアが動き出した。
「アクティア」
「……!」
エクリアはアクティアを捕獲するために向かってくる。
アクティアはシールドを使えない。
それでもレイピアを構える。
光の剣を展開する。
エクリアも刃物を構えた。
二人の刃がぶつかる。
キィン!
エクリアが攻撃する。
アクティアは光の剣で受け流す。
エクリアの刃物は、簡単に斬り落とされた。
「なっ……!」
エクリアは足に仕込んだ刃物で攻撃する。
アクティアをかすめる。
だが。
光の剣が閃く。
バキッ!
足の刃物も砕かれた。
「……どうして?」
エクリアは自分の腕と足を見る。
ネレイドから与えられた蜘蛛の脚のようなプロテクター。
強化されたはずだった。
そう思っていた。
なのに。
「私は……強化されたんじゃ……?」
アクティアはその隙を逃さない。
エクリアが刃物を再び出そうとする。
しかし、その前に光の剣が閃く。
刃物は、形を取り戻す前に斬り落とされた。
「くっ……!」
アクティアも息が上がっている。
光の剣を使い続けることで、魔力が急速に減っていた。
「はぁ……はぁ……」
もう、ほとんど残っていない。
それでもアクティアは戦う。
エクリアは失望していた。
強化されていない。
自分は何も変わっていない。
その事実が、エクリアの心を追い詰める。
「……それでも」
エクリアは刃物を構える。
「あなたを捕獲する!」
アクティアも光の剣を構え直した。
エクリアが迫る。
アクティアも懐へ飛び込む。
エクリアの刃物がアクティアの肩をかすめる。
その瞬間。
アクティアの光の剣から光が消えた。
「……!」
魔力が、底を尽きかけていた。
しかしアクティアは最後の力を振り絞る。
エクリアの首元へ手を伸ばした。
「これで……!」
至近距離から、手に集めた光を放つ。
ズッ!
ビームがエクリアを直撃する。
エクリアは大きくよろめく。
そしてアクティアも、その場で力を失った。
「……もう……無理……」
アクティアは意識を失い、その場へ倒れる。
「アクティア!」
遠くからルミナの声が響く。
エクリアも動けない。
アクティアを捕獲しようとしても、刃物が出ない。
「なぜ……?」
エクリアは首元に手を当てる。
チョーカーが壊れていた。
魔力を行使できない。
刃物も出せない。
それでも、エクリアの視線はアクティアへ向いた。
すぐ近くには、ネレイドが残していった捕獲ユニットがある。
「……これなら」
エクリアは捕獲ユニットを動かす。
光の拘束が、意識を失ったアクティアを包む。
「アクティア!」
ルミナが駆けつける。
「待って!」
だが、間に合わない。
アクティアの姿が光に包まれる。
そして。
消えた。
「アクティア……!」
ルミナは、その場に立ち尽くした。
エクリアは、アクティアが消えた場所を見つめる。
「……捕獲、完了」
それだけを呟くと、エクリアも闇の中へ消えていった。
夏祭りの夜。
さっきまで二人が笑っていた場所には、もう誰もいない。
ルミナだけが残されていた。
「……アクティア」
遠くで、最後の花火が夜空に咲いた。
そして消えた。
――アクティアは、ネガティアに捕らわれた。
