街は、今日もいつもと変わらない一日を過ごしていた。
……少なくとも、ネガティアが現れるまでは。
「アクティアちゃん!」
聞き覚えのある声に、アクティアが振り返る。
そこにいたのは、近所でよく顔を合わせる年下の女の子だった。
少女は、嬉しくて仕方がないという顔をしている。
「ねえ、私ね!」
「うん?」
「最近、魔法少女になれたんだよ!」
「えっ!?」
アクティアの目が大きく見開かれる。
「本当に!?」
「うん! 見てて!」
少女は胸を張る。
次の瞬間、身体が光に包まれた。
きらめく光の中で、少女の姿が変わっていく。
そして光が消えたとき。
そこに立っていたのは、間違いなく魔法少女だった。
「どう?」
少女が照れながら聞く。
アクティアは、思わず笑顔になった。
「すごい!」
自分より年下の少女。
その少女が、かつて自分が憧れていた魔法少女になった。
「私も魔法少女になりたかったんだ!」
「私もずっと憧れてたの!」
二人は顔を見合わせる。
そして、嬉しそうに笑った。
魔法少女になれた。
その喜びを、二人は同じ気持ちで分かち合っていた。
そのときだった。
遠くから、爆発音が響いた。
「……また?」
アクティアの表情が変わる。
街が襲われている。
「行こう!」
「うん!」
アクティアは魔法少女へと変身する。
そして新人の魔法少女とともに、現場へ向かった。
* * *
そこにいたのは、今までとは少し違う敵だった。
黒い鎧に全身を包んだ、少し大きな怪人。
まるでゴーレムのような姿をしている。
その周囲には、戦闘員たちがいた。
さらに、その中には指揮官のような戦闘員と、魔法を使える戦闘員までいる。
「今回は、なんだか多いね……」
新人の少女が緊張する。
「大丈夫。私がいるから」
アクティアはレイピアを構えた。
「まずは戦闘員を!」
一気に踏み込む。
しかし。
戦闘員たちは、アクティアの攻撃をかわした。
「えっ?」
一人が避ける。
その空いた場所を、別の戦闘員が埋める。
アクティアが追えば、また別の方向へ散開する。
無駄のない動き。
統率が取れている。
「いつもの戦闘員とは違う……!」
指揮官戦闘員の指示によって、戦闘員たちは一糸乱れぬ動きを見せていた。
その間にも、新人の魔法少女は苦戦している。
「きゃっ!」
慣れない戦闘。
思ったように身体が動かない。
そこへ。
ズンッ!
黒いゴーレム型怪人の攻撃が二人へ襲いかかる。
「危ない!」
二人はとっさに避ける。
しかし完全には避けきれず、身体を擦ってしまった。
「痛っ……」
だが、その傷はすぐに魔力によって元へ戻っていく。
二人は自分の身体を見つめる。
「傷が……」
「魔力で治ってる?」
二人は初めて実感した。
魔法少女の身体は、多少の傷なら自分の魔力で回復できる。
「すごい……」
新人の少女が呟いた。
だが、戦いはまだ終わっていない。
* * *
アクティアはゴーレム型怪人を引きつける。
「こっち!」
その隙に新人が反対側へ回る。
二人で敵を撹乱する。
ゴーレムがアクティアを狙えば、新人が攻撃する。
新人を狙えば、アクティアが動く。
その隙を狙って、戦闘員たちが後ろから襲いかかった。
「今だ!」
新人の少女が振り返る。
その手に、魔法の弓矢が現れた。
狙う。
その先にいるのは、戦闘員たちへ指示を出している指揮官。
「いけっ!」
矢が放たれた。
一瞬だった。
矢は指揮官戦闘員を捉える。
そして。
戦闘員の身体が灰となって崩れ、消えていった。
少女は呆然と自分の手を見る。
「……私が?」
アクティアが笑う。
「うん!」
「私、初めて敵を倒した!」
少女の顔が、ぱっと明るくなった。
「やった!」
初めての戦闘。
初めての勝利。
魔法少女になった少女にとって、それは忘れられない瞬間になるはずだった。
しかし。
その直後。
足元に光が走った。
「え?」
地面から捕獲ユニットが現れる。
「なに、これ……?」
「危ない!」
アクティアが手を伸ばす。
しかし間に合わない。
捕獲ユニットが少女を拘束する。
「アクティアちゃん!」
「待って!」
少女の身体が引き寄せられていく。
そして、そのままどこかへ連れ去られてしまった。
「待って! 返して!」
アクティアの叫びが街に響く。
しかし、もう少女の姿はなかった。
悲しむ時間さえ与えられない。
黒いゴーレム型怪人が再び襲いかかってくる。
戦闘員たちも一斉に動き出した。
アクティアの表情が変わる。
「……よくも!」
レイピアを握る。
そして、一気に敵へ飛び込んだ。
戦闘員を蹴散らす。
ゴーレム型怪人の攻撃をかわす。
そして反撃。
今のアクティアにとって、この程度の敵はもう大きな壁ではなかった。
怪人と戦闘員を退ける。
だが、アクティアの心は晴れない。
連れ去られた少女。
なぜネガティアは、魔法少女を捕まえるのか。
その疑問だけが残っていた。
そのとき。
「……随分と強くなったわね」
背後から声がした。
アクティアが振り返る。
そこに立っていたのは。
エクリアだった。
* * *
エクリアは、アクティアを見つめる。
一度、アクティアの捕獲に失敗している。
そのことが、ずっと頭から離れなかった。
「今度こそ……」
エクリアの両手が変化する。
鋭い刃物へと姿を変えた。
「捕まえる!」
エクリアが襲いかかる。
アクティアはレイピアとビームシールドで迎え撃った。
刃が迫る。
シールドで防ぐ。
別方向からの攻撃。
レイピアで受け流す。
エクリアは何度も攻撃を繰り返す。
しかし。
「……!」
エクリアは気づいた。
アクティアが、自分の攻撃を読んでいる。
以前とは違う。
「前より……動きが読まれている?」
アクティアは何度もエクリアと戦ってきた。
その中で、彼女の攻撃の癖を覚えていた。
右から来る。
避ける。
左から来る。
シールド。
踏み込んでくる。
一歩下がる。
そして反撃。
その瞬間。
エクリアの刃がレイピアを捉えた。
パキンッ!
刀身が折れる。
「!」
しかしアクティアは慌てなかった。
折れたレイピアへ魔力を流す。
光が刀身を包む。
そして、折れた刀身が再び元の形へ戻っていく。
「……!」
エクリアが目を見開く。
さらにエクリアはシールドを狙った。
前回なら簡単に破壊できた。
だが。
ガキィン!
シールドは耐えた。
もう一度。
ガキィン!
それでも破れない。
「なぜ……?」
エクリアは距離を取った。
同じように攻めている。
同じように戦っている。
なのに。
アクティアは、以前とはまるで違う。
その理由は、アクティア自身にも完全には分かっていなかった。
ただ一つ。
頭に浮かんでいたのは、さっき連れ去られた少女のことだった。
「……絶対に助ける」
その気持ちが、魔力に火をつけていた。
魔力の充填が、いつもより早い。
シールドの強度も上がっている。
レイピアが折れても、修復が早い。
アクティアは知らないうちに、いつも以上の力を引き出していた。
そして、戦いの流れが少しずつ変わっていく。
押していたはずのエクリアが、押され始めた。
「くっ……!」
エクリアが両手の刃を振り下ろす。
アクティアはシールドで受け止める。
バキィン!
エクリアの両手の刃が砕けた。
「なっ……!」
アクティアは一気に踏み込む。
レイピアが閃く。
スッ。
エクリアの腰をレイピアがかすめる。
切れたのは、腰に付いていた装飾だった。
地面へ落ちる。
エクリアはそれを見つめる。
そして悟った。
「……勝てない」
今の自分では、アクティアを捕らえることはできない。
エクリアは後退する。
「今日は……退く」
そのまま、エクリアはその場を去っていった。
アクティアは追わなかった。
ただ、連れ去られた少女が消えていった方向を見つめる。
「……どうして?」
拳を握る。
「どうして魔法少女を捕まえるの?」
倒すだけなら、まだ分かる。
けれどネガティアは、魔法少女たちを捕らえている。
何のために?
どこへ連れていくために?
その答えを、アクティアはまだ知らない。
そして彼女はまだ気づいていなかった。
自分の中で膨らんだ「助けたい」という感情が、魔力そのものにも影響を与えていたことを。
その疑問を胸に抱えたまま。
アクティアは、静かに空を見上げた。
