第8章 狙われた魔法少女 | 光と闇を 抱きしめたまま

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父がいなくなってから、数日が過ぎていた。

研究室には、以前と同じように機械の音が響いている。

けれど、アクティアにとっては、何かが決定的に変わっていた。

いつもなら、分からないことがあれば父に聞けばよかった。

魔法のこと。

自分の力のこと。

ネガティアのこと。

しかし、今はもう、その父はいない。

残されたのは、父の研究データと、一人の助手だけだった。

「お父さん……いったい、どこへ行っちゃったんだろう」

アクティアが呟く。

助手はコンピューターの画面を見つめながら答えた。

「私にも分かりません。ただ……残されたデータを調べれば、何か分かるかもしれません」

「何か、分かった?」

「はい」

助手が画面を操作する。

そこには、過去の戦闘記録が表示されていた。

アクティアは画面を覗き込む。

「これ……前に戦った子?」

映っていたのは、あのツインテールの少女だった。

「そうです」

助手は静かに続けた。

「この少女は、普通の魔法少女ではありません」

「え?」

「父の研究データによれば……」

画面には、いくつもの分析結果が並んでいる。

「魔法少女の力が一定以上に強くなると、こうした存在が生まれることがあるそうです」

「生まれる……?」

「自我を持たない、魔法少女の戦闘員です」

アクティアは言葉を失った。

「……魔法少女の、戦闘員?」

以前、自分が戦った少女。

魔法少女の姿をしていた。

けれど、ほとんど言葉を発さなかった。

まるで命令されたことだけを実行する人形のようだった。

「じゃあ……あの子は……」

「ネガティアによって作られた、量産型魔法少女と考えるのが自然です」

アクティアは画面を見つめる。

「……そんなものまで作ってるの」

助手は頷いた。

「ただし、このデータには限界があります」

「限界?」

「父の記録は、父がいなくなったところで終わっています」

「……」

「つまり、今のあなたがどこまで成長しているのか。現在のネガティアが何を開発しているのか。そこまでは、このデータにはありません」

アクティアは黙っていた。

そして、その日の夜。

街に、また怪人と戦闘員が現れた。

「またネガティア……!」

アクティアは魔法少女へ変身する。

いつものように戦闘員を倒し、怪人を追い詰めていく。

以前なら苦戦していた敵だった。

しかし、今のアクティアにとっては違う。

「そこっ!」

レイピアの一撃。

怪人が吹き飛ぶ。

「これで終わり!」

ところが――

その直後。

別の怪人が現れた。

「え?」

さらに戦闘員。

そのまた後ろから、別の怪人。

「ちょっと……まだいるの?」

一体一体は、それほど強くない。

アクティアは次々と敵を倒していく。

だが、倒しても倒しても、新しい敵が現れる。

「はぁ……はぁ……」

いつの間にか、アクティアの呼吸が荒くなっていた。

身体が重い。

魔力も少しずつ減っている。

「……なんなの、これ」

その時だった。

背後から何かが飛び込んできた。

「!」

ドゴッ!

背中に蹴りが入る。

「きゃあっ!」

アクティアは前方へ吹き飛ばされた。

振り返る。

そこに立っていたのは――

量産型魔法少女だった。

「……また、あなた!」

以前の戦いで分かっている。

この少女の武器は、拳や足そのもの。

そして、その攻撃には魔力を減少させる効果がある。

「その攻撃は……受けない!」

アクティアは怪人と戦闘員をいなしながら、量産型魔法少女の攻撃だけを慎重にかわしていく。

拳。

蹴り。

回し蹴り。

すべて紙一重でかわす。

そして、その隙を狙ってレイピアを突き込む。

「そこ!」

一撃。

さらに一撃。

確実にダメージを与えていく。

量産型魔法少女の動きが鈍くなった。

頭部のバイザーに灯っていた赤い光が、明滅する。

そして――

消えた。

少女の身体が崩れ落ちる。

次の瞬間。

その身体は、静かに灰へと変わった。

「……」

アクティアはレイピアを下ろす。

だが、安心する暇はなかった。

「はぁ……はぁ……」

魔力は、かなり減っている。

その時。

一瞬の風が吹いた。

「……!」

アクティアが振り向く。

そこに立っていたのは――

エクリア。

「久しぶりね」

エクリアが構える。

次の瞬間、その姿が消えた。

「速い!」

アクティアの目の前に現れたエクリアの両手が、鋭い刃へと変わる。

ギィンッ!

斬撃をビームシールドで受け止める。

「くっ……!」

だが、速い。

アクティアが知っているどの魔法少女よりも速い。

ルミナよりも。

自分よりも。

「この速さ……!」

右。

左。

斜め。

エクリアの刃が次々と迫る。

アクティアはシールドとレイピアを使って、なんとか防ぐ。

しかし――

ガキィン!

レイピアの刃に亀裂が走った。

「え……?」

パキィン!

レイピアの刃が砕け散る。

「そんな……!」

さらに一撃。

アクティアの手から、レイピアの柄まで弾き飛ばされた。

「しまった!」

武器を失ったアクティアは、とっさに空へ逃げる。

「距離を取らないと!」

空中なら、エクリアの攻撃も届かない。

そう思った。

しかし――

エクリアは追ってこなかった。

ただ、空を見上げている。

その表情には、わずかな余裕があった。

「……?」

その瞬間。

カチッ。

アクティアの周囲で何かが作動した。

「え?」

四方から機械のアームが飛び出してくる。

ガシャン!

右腕。

ガシャン!

左腕。

ガシャン!

右脚。

ガシャン!

左脚。

四肢が完全に固定された。

「なっ……!」

アクティアは必死に身体を動かす。

しかし、まったく動かない。

「離して!」

魔力を込める。

それでも――

びくともしない。

「こんなの……!」

地上では、エクリアがアクティアを見上げている。

その表情には、勝ち誇ったような余裕があった。

「……終わりね」

その言葉と同時に、捕獲ユニットが起動する。

アクティアの身体から、魔力が急激に失われていく。

「魔力が……!」

その瞬間、助手の言葉が頭をよぎった。

――敵には、魔法少女の魔力を使えなくする手段があります。

「これが……!」

アクティアは歯を食いしばる。

身体を動かそうとしても動かない。

魔力を込めても、捕獲ユニットはびくともしない。

絶体絶命。

そう思った。

だが――

アクティアの両手が、突然光り始めた。

「……?」

両手の中に、残された魔力が集まっていく。

「これなら……!」

キュィィィン!

両手からビームが放たれた。

ズドンッ!

右手を拘束していたユニットが吹き飛ぶ。

続けて左手。

ズドンッ!

左手も自由になる。

「よし!」

自由になった両手を足元へ向ける。

ズドンッ!

右脚。

そして――

ズドンッ!

左脚。

最後の拘束が破壊された。

アクティアは空中で身体をひねり、そのまま着地する。

「……動ける!」

エクリアの表情から、初めて余裕が消えた。

アクティアは荒い息をしながら立ち上がる。

しかし、魔力はもうほとんど残っていない。

それでも、まだ終わってはいない。

「……これで、最後!」

アクティアは両手をエクリアへ向ける。

残された魔力を、一瞬だけ両手へ集中させる。

だが――

魔力が足りない。

現れた光は、わずか20センチほど。

「これしか……出せない……!」

それでも。

距離は近い。

エクリアが一瞬、油断した。

その瞬間。

アクティアが踏み込む。

「そこっ!」

ズドンッ!

至近距離から放たれた短いビームが、エクリアの腹部を直撃する。

「ぐっ……!」

エクリアの身体が大きくよろめく。

腹部を覆っていた衣装が灰となって崩れ落ちる。

エクリア自身も、かなりのダメージを受けたようだった。

「……っ」

エクリアは腹部を押さえる。

アクティアも限界だった。

「はぁ……はぁ……」

二人はしばらく睨み合う。

そしてエクリアは、周囲の戦闘員と怪人へ告げた。

「……撤退する」

戦闘員と怪人が集まり、エクリアとともにその場から去っていく。

街に静けさが戻った。

アクティアはその場に立ち尽くしていた。

「……なんだったの、今の戦い」

怪人。

戦闘員。

量産型魔法少女。

そして、エクリア。

次々と敵が現れた。

そして最後には、あの捕獲ユニット。

アクティアはまだ知らない。

今日の戦いが、偶然の連戦ではなかったことを。

ネガティアは、アクティアを倒そうとしていたのではない。

疲れさせるために、戦闘員と怪人を送り込んだ。

魔力を削るために、量産型魔法少女を投入した。

そして最後に――

魔力を失った魔法少女を捕らえるため、捕獲ユニットを使った。

それは、魔法少女を倒すための戦いではない。

最初から最後まで、

「捕らえるための戦い」だった。