第7章 消えていく魔法少女 | 光と闇を 抱きしめたまま

光と闇を 抱きしめたまま

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アクティアは、息を切らしていた。

「はぁ……はぁ……」

 目の前には、二人の魔法少女。

 一人はエクリア。

 そしてもう一人は、ツインテールの少女。

 ツインテールの少女は一言も喋らない。

 ただ、両手に持ったダガーを構え、じっとアクティアを見つめていた。

「来る……!」

 少女が地面を蹴った。

 ダガーが閃く。

 アクティアはレイピアで受け流し、ビームシールドを展開する。

 しかし、その直後。

 少女の拳が飛んできた。

「くっ!」

 ガードする。

 その瞬間だった。

「……え?」

 身体の奥から、何かが抜けていくような感覚。

 魔力が減った。

 アクティアはすぐに気づいた。

「また……!」

 ツインテールの少女の攻撃を受けるたび、魔力が減っている。

 レイピアを振る。

 ビームシールドを展開する。

 飛び上がる。

 そのたびに魔力は消費される。

 そして、少女の攻撃を受ければ、さらに魔力を奪われる。

「このままじゃ……!」

 アクティアのビームシールドが、明らかに小さくなっていた。

 レイピアの光も弱い。

 腕が重い。

 足も思うように動かない。

 エクリアは、その様子を冷静に見ていた。

「魔力が減ってきたわね」

「……!」

 ツインテールの少女が再び迫る。

 アクティアはダガーを受け止めた。

 しかし、続けて放たれた蹴りを避けきれない。

「きゃっ!」

 身体が吹き飛ぶ。

 地面を転がり、なんとか立ち上がろうとする。

 だが、足に力が入らない。

「まだ……まだ戦える……!」

 立ち上がった瞬間。

 少女の姿が目の前にあった。

「速い!」

 拳。

 アクティアは腕で防ぐ。

 また魔力が減った。

「うっ……!」

 そして、少女は容赦なく追撃する。

 パンチ。

 キック。

 ダガー。

 アクティアは必死に防ぐ。

 それでも少しずつ追い詰められていく。

「魔力が……もう……」

 ビームシールドの輝きが弱くなる。

 レイピアも、以前のような強い光を放てなくなっていた。

 そして。

「はあっ!」

 ツインテールの少女が高く跳んだ。

「……!」

 強烈なハイキック。

 アクティアは避けられなかった。

「きゃあっ!」

 身体が大きく弾き飛ばされる。

 片膝をつく。

 立ち上がれない。

 その瞬間。

「アクティア!」

 聞き覚えのある声が響いた。

「……え?」

 顔を上げる。

 そこにいたのは。

「ルミナ……!」

 以前、この場を離れたはずのルミナだった。

 ルミナはアクティアの前に立つ。

「遅くなっちゃった」

 そして、いつものように笑った。

「……あとは私に任せて」

 ツインテールの少女がルミナへ向かって走る。

 ダガー。

 パンチ。

 キック。

 次々と攻撃を繰り出す。

 しかし。

 ルミナは避けない。

「えっ?」

 アクティアが目を疑う。

 拳がルミナの身体に当たった。

 続けて蹴りも命中する。

 それなのに。

 ルミナは動じていない。

「……どうして?」

 エクリアも不思議そうにルミナを見る。

 アクティアには、あの攻撃を受けるたびに魔力が減っていた。

 なのにルミナには、それが起こっていない。

 ルミナは、自分の身体を確認する。

「やっぱり……」

 次の攻撃が迫る。

 ルミナは、その拳をじっと見た。

 そして。

 拳が身体に触れる瞬間を、意識する。

 命中。

 しかし、魔力は減らない。

「なるほどね」

 ルミナは少女を見ながら言った。

「この攻撃、当たる瞬間をちゃんと意識できれば効かないんだ」

「……!」

 アクティアが驚く。

「意識できれば……?」

「うん。たぶん、気づかないうちに魔力を持っていく攻撃なんだと思う」

 エクリアも理解した。

「つまり、攻撃を避ける必要はない……。魔力を奪われる瞬間を認識できればいい」

「そういうこと」

 ルミナは笑った。

「だから、私には効かない」

 その時だった。

 ツインテールの少女のバイザーが変化した。

 黄色。

 そして。

 赤。

「……?」

 ルミナが眉をひそめる。

 少女は動かない。

 赤い光だけが、ゆっくりと弱くなっていく。

 そして。

 消えた。

 同時に、少女の身体から力が抜けた。

「え……?」

 アクティアが立ち上がる。

 少女の身体が、崩れていく。

 まるで最初から存在していなかったかのように。

 身体は灰へと変わっていった。

 灰が風に舞う。

「……」

三人は言葉を失った。

 エクリアは、ただその光景を見つめていた。

 そして、静かに呟く。

「……時間切れか」

 その言葉には、驚きも悲しみもなかった。

 エクリアは踵を返す。

「待って!」

 アクティアが声を上げる。

 しかし、エクリアは振り返らない。

「今日はここまでよ」

 そう言い残して、その場を去っていった。

 アクティアは追いかけようとする。

 けれど、身体にはまだ戦いの疲労が残っていた。

 その時。

「アクティア、大丈夫?」

 ルミナが心配そうに声をかける。

「うん……。なんとか」

 アクティアは答えた。

 ルミナは少しだけ表情を曇らせる。

「ねえ、アクティア」

「なに?」

「最近、魔法少女が次々に捕まってるって話……聞いてる?」

「……魔法少女が?」

 アクティアは驚いた。

「うん。私も詳しいことまでは分からないけど……」

 ルミナは周囲を見渡す。

「今までとは、何か違う気がする」

 そしてアクティアを見る。

「だから、気をつけて」

「……うん」

「無茶しちゃダメだよ」

 ルミナは、いつもの明るい笑顔に戻った。

「また会おうね」

「ルミナも……気をつけて」

「もちろん」

 ルミナは手を振り、その場を去っていった。

 一人になったアクティアは、しばらくその場に立っていた。

 風が吹く。

 先ほどまで少女がいた場所には、もう何も残っていない。

「……消えちゃった」

 魔法少女。

 アクティアがずっと憧れていた存在。

 誰かを助ける存在。

 明るくて、華やかで、みんなに希望を与える存在。

 でも。

 今日、目の前で一人の魔法少女が灰になった。

「ネガティアは……いったい何をしてるの?」

 答えは返ってこなかった。

* * *

 その日の夜。

 アクティアは研究所へ戻ってきた。

「ただいま……」

 扉を開ける。

 静かだった。

「……お父さん?」

 返事がない。

 いつもなら研究室の奥から、

『おかえり、アクティア』

 そんな父の声が聞こえてくる。

 しかし。

 今日は何も聞こえない。

 アクティアは研究室へ向かった。

 父の机。

 研究資料。

 魔法少女について書かれた大量のデータ。

 研究機器。

 すべて、いつも通りそこにある。

 なのに。

「……お父さん?」

 父だけがいない。

 アクティアは研究室の中を見回した。

 どこにもいない。

 机の上には、途中まで書かれた研究資料が残されている。

 まるで、突然いなくなったようだった。

「どこに行ったの……?」

 返事はない。

 アクティアは、父の椅子を見つめる。

 今日の戦い。

 魔力を奪う少女。

 灰になった魔法少女。

 そして、ルミナが話していた、次々と捕まっている魔法少女たち。

 それらが頭の中で繋がっていく。

「……お父さん」

 胸元で手を握る。

「早く……帰ってきてよ」

 静かな研究所に、アクティアの声だけが響いた。

 その時のアクティアは、まだ知らなかった。

 父の失踪が、この戦いと無関係ではないことを。

 そして。

 父が最後に残した研究データには。

 その後のアクティアの成長が、記録されていないことを。

 物語は、少しずつ。

 魔法少女の「夢」から、「現実」へと姿を変え始めていた。