アクティアは、息を切らしていた。
「はぁ……はぁ……」
目の前には、二人の魔法少女。
一人はエクリア。
そしてもう一人は、ツインテールの少女。
ツインテールの少女は一言も喋らない。
ただ、両手に持ったダガーを構え、じっとアクティアを見つめていた。
「来る……!」
少女が地面を蹴った。
ダガーが閃く。
アクティアはレイピアで受け流し、ビームシールドを展開する。
しかし、その直後。
少女の拳が飛んできた。
「くっ!」
ガードする。
その瞬間だった。
「……え?」
身体の奥から、何かが抜けていくような感覚。
魔力が減った。
アクティアはすぐに気づいた。
「また……!」
ツインテールの少女の攻撃を受けるたび、魔力が減っている。
レイピアを振る。
ビームシールドを展開する。
飛び上がる。
そのたびに魔力は消費される。
そして、少女の攻撃を受ければ、さらに魔力を奪われる。
「このままじゃ……!」
アクティアのビームシールドが、明らかに小さくなっていた。
レイピアの光も弱い。
腕が重い。
足も思うように動かない。
エクリアは、その様子を冷静に見ていた。
「魔力が減ってきたわね」
「……!」
ツインテールの少女が再び迫る。
アクティアはダガーを受け止めた。
しかし、続けて放たれた蹴りを避けきれない。
「きゃっ!」
身体が吹き飛ぶ。
地面を転がり、なんとか立ち上がろうとする。
だが、足に力が入らない。
「まだ……まだ戦える……!」
立ち上がった瞬間。
少女の姿が目の前にあった。
「速い!」
拳。
アクティアは腕で防ぐ。
また魔力が減った。
「うっ……!」
そして、少女は容赦なく追撃する。
パンチ。
キック。
ダガー。
アクティアは必死に防ぐ。
それでも少しずつ追い詰められていく。
「魔力が……もう……」
ビームシールドの輝きが弱くなる。
レイピアも、以前のような強い光を放てなくなっていた。
そして。
「はあっ!」
ツインテールの少女が高く跳んだ。
「……!」
強烈なハイキック。
アクティアは避けられなかった。
「きゃあっ!」
身体が大きく弾き飛ばされる。
片膝をつく。
立ち上がれない。
その瞬間。
「アクティア!」
聞き覚えのある声が響いた。
「……え?」
顔を上げる。
そこにいたのは。
「ルミナ……!」
以前、この場を離れたはずのルミナだった。
ルミナはアクティアの前に立つ。
「遅くなっちゃった」
そして、いつものように笑った。
「……あとは私に任せて」
ツインテールの少女がルミナへ向かって走る。
ダガー。
パンチ。
キック。
次々と攻撃を繰り出す。
しかし。
ルミナは避けない。
「えっ?」
アクティアが目を疑う。
拳がルミナの身体に当たった。
続けて蹴りも命中する。
それなのに。
ルミナは動じていない。
「……どうして?」
エクリアも不思議そうにルミナを見る。
アクティアには、あの攻撃を受けるたびに魔力が減っていた。
なのにルミナには、それが起こっていない。
ルミナは、自分の身体を確認する。
「やっぱり……」
次の攻撃が迫る。
ルミナは、その拳をじっと見た。
そして。
拳が身体に触れる瞬間を、意識する。
命中。
しかし、魔力は減らない。
「なるほどね」
ルミナは少女を見ながら言った。
「この攻撃、当たる瞬間をちゃんと意識できれば効かないんだ」
「……!」
アクティアが驚く。
「意識できれば……?」
「うん。たぶん、気づかないうちに魔力を持っていく攻撃なんだと思う」
エクリアも理解した。
「つまり、攻撃を避ける必要はない……。魔力を奪われる瞬間を認識できればいい」
「そういうこと」
ルミナは笑った。
「だから、私には効かない」
その時だった。
ツインテールの少女のバイザーが変化した。
黄色。
そして。
赤。
「……?」
ルミナが眉をひそめる。
少女は動かない。
赤い光だけが、ゆっくりと弱くなっていく。
そして。
消えた。
同時に、少女の身体から力が抜けた。
「え……?」
アクティアが立ち上がる。
少女の身体が、崩れていく。
まるで最初から存在していなかったかのように。
身体は灰へと変わっていった。
灰が風に舞う。
「……」
三人は言葉を失った。
エクリアは、ただその光景を見つめていた。
そして、静かに呟く。
「……時間切れか」
その言葉には、驚きも悲しみもなかった。
エクリアは踵を返す。
「待って!」
アクティアが声を上げる。
しかし、エクリアは振り返らない。
「今日はここまでよ」
そう言い残して、その場を去っていった。
アクティアは追いかけようとする。
けれど、身体にはまだ戦いの疲労が残っていた。
その時。
「アクティア、大丈夫?」
ルミナが心配そうに声をかける。
「うん……。なんとか」
アクティアは答えた。
ルミナは少しだけ表情を曇らせる。
「ねえ、アクティア」
「なに?」
「最近、魔法少女が次々に捕まってるって話……聞いてる?」
「……魔法少女が?」
アクティアは驚いた。
「うん。私も詳しいことまでは分からないけど……」
ルミナは周囲を見渡す。
「今までとは、何か違う気がする」
そしてアクティアを見る。
「だから、気をつけて」
「……うん」
「無茶しちゃダメだよ」
ルミナは、いつもの明るい笑顔に戻った。
「また会おうね」
「ルミナも……気をつけて」
「もちろん」
ルミナは手を振り、その場を去っていった。
一人になったアクティアは、しばらくその場に立っていた。
風が吹く。
先ほどまで少女がいた場所には、もう何も残っていない。
「……消えちゃった」
魔法少女。
アクティアがずっと憧れていた存在。
誰かを助ける存在。
明るくて、華やかで、みんなに希望を与える存在。
でも。
今日、目の前で一人の魔法少女が灰になった。
「ネガティアは……いったい何をしてるの?」
答えは返ってこなかった。
* * *
その日の夜。
アクティアは研究所へ戻ってきた。
「ただいま……」
扉を開ける。
静かだった。
「……お父さん?」
返事がない。
いつもなら研究室の奥から、
『おかえり、アクティア』
そんな父の声が聞こえてくる。
しかし。
今日は何も聞こえない。
アクティアは研究室へ向かった。
父の机。
研究資料。
魔法少女について書かれた大量のデータ。
研究機器。
すべて、いつも通りそこにある。
なのに。
「……お父さん?」
父だけがいない。
アクティアは研究室の中を見回した。
どこにもいない。
机の上には、途中まで書かれた研究資料が残されている。
まるで、突然いなくなったようだった。
「どこに行ったの……?」
返事はない。
アクティアは、父の椅子を見つめる。
今日の戦い。
魔力を奪う少女。
灰になった魔法少女。
そして、ルミナが話していた、次々と捕まっている魔法少女たち。
それらが頭の中で繋がっていく。
「……お父さん」
胸元で手を握る。
「早く……帰ってきてよ」
静かな研究所に、アクティアの声だけが響いた。
その時のアクティアは、まだ知らなかった。
父の失踪が、この戦いと無関係ではないことを。
そして。
父が最後に残した研究データには。
その後のアクティアの成長が、記録されていないことを。
物語は、少しずつ。
魔法少女の「夢」から、「現実」へと姿を変え始めていた。
