街に平和が戻ったように見えても、怪人による事件は終わっていなかった。
人々の知らない場所で、怪人たちは次々と生み出されていた。
そして、その怪人たちを送り出している謎の組織があった。
その名は――ネガティア。
街の中心に建つ巨大な建物。
一見すると、ただの公共施設にしか見えない。
しかし、その地下深くには、一般の人間には知らされていない巨大な施設が広がっていた。
研究設備。
怪人の製造施設。
そして、魔法少女に関する数々のデータ。
その司令室に、一人の女が立っていた。
紫色の衣装。
妖しげな雰囲気を漂わせながら、巨大なモニターを眺めている。
ネガティアの女幹部――ネレイド。
モニターに映し出されていたのは、最近になって現れた一人の魔法少女だった。
ピンク色の衣装。
レイピア。
そして、背中から伸びる薄いマント。
「……新しい魔法少女」
ネレイドは興味深そうに映像を見つめた。
「最近になって突然現れたようね」
その隣に立っている少女が答える。
「はい」
彼女の名はエクリア。
ネガティアに所属する魔法少女だった。
「まだ詳しい情報はありません。名前も、正体も、能力も不明です」
ネレイドは少し考えると、エクリアへ振り返った。
「なら、調べてきてちょうだい」
「調査、ですか?」
「ええ。まずはその魔法少女が何者なのか確認するの」
エクリアは静かにうなずいた。
「分かりました」
こうしてエクリアは、街へ向かった。
街に到着したエクリアは、周囲を注意深く観察していた。
目的は、新しい魔法少女の捜索。
ところが――。
「……?」
なぜか、街の人々が自分を見ている。
通り過ぎた人が振り返る。
こちらをじっと見つめる人もいる。
エクリアは首をかしげた。
「何かしら……?」
しばらく歩いてから、ショーウインドウの前を通りかかった。
そこに映った自分の姿を見て――。
「……あ」
エクリアは固まった。
ネガティアから与えられた戦闘用の衣装。
紫を基調とした、非常に目立つデザイン。
戦闘のための装備なのだから、街中で目立つのは当然だった。
しかも、エクリアはその姿のまま街を歩いていたことを完全に忘れていた。
「これでは調査どころじゃない……!」
エクリアは慌てて近くの物陰へ走った。
周囲を確認する。
誰も見ていない。
「……よし」
光に包まれ、エクリアの姿が変わる。
戦闘服から、普通の普段着へ。
「最初からこうしておけばよかった……」
エクリアは小さくため息をついた。
今度こそ、普通の少女として街を歩き始める。
しかし――。
いくら探しても、魔法少女の姿は見つからなかった。
「……いない」
目撃情報を集めても、決定的な手がかりはない。
このままでは埒が明かない。
エクリアは通信機を取り出した。
「ネレイド様。まだ魔法少女を確認できません」
『そう』
通信機からネレイドの声が返ってくる。
『それなら、こちらから呼び出しましょう』
「呼び出す?」
『怪人を一体、そちらへ送るわ』
エクリアはすぐに意味を理解した。
「……魔法少女を誘き出すんですね」
『そういうことよ』
街の一角。
突然、紫色の光が走った。
地面から現れたのは、一体の怪人。
その姿には、どこか魔法少女のような意匠があった。
紫色の外殻。
鋭い装甲。
そして両腕。
怪人が腕を振るう。
すると、その両手が瞬時に鋭い刃物へと変形した。
「キィィィィッ!」
怪人は街を進み始めた。
建物を傷つけ、人々を追い立てる。
その様子を、エクリアは少し離れた場所から見ていた。
「これなら……きっと現れる」
怪人の戦闘能力も確認している。
両腕の刃。
そして背中から展開される複数の曲刀。
どこか、後のエクリア自身を思わせるような戦闘スタイルだった。
だが、今のエクリアはまだそれを気にしていない。
ただ、新しい魔法少女が現れるのを待っていた。
「……来る」
その直後だった。
街の向こうから、ピンク色の光が飛び込んできた。
「待ちなさい!」
魔法少女アクティア。
エクリアは物陰から目を細めた。
「……あれが」
怪人がアクティアへ突進する。
アクティアはレイピアを構えた。
「今度は、負けない!」
怪人の刃が迫る。
アクティアは身体をひねってかわし、そのまま怪人の懐へ飛び込む。
「そこっ!」
レイピアが閃く。
怪人は腕の刃で受け止める。
金属音が響く。
一度。
二度。
三度。
アクティアは以前よりも明らかに動きが良くなっていた。
第4章でルミナと戦った経験。
そして、それまでの怪人との戦い。
その一つ一つが、アクティアの剣技を少しずつ成長させていた。
「動きが読める!」
怪人の攻撃をかわし、アクティアが反撃する。
怪人が後退した。
しかし――。
「ギィィィッ!」
怪人の背中から、紫色の武器が展開する。
それは巨大な曲刀へと変形した。
しかも一本ではない。
複数の曲刀が、怪人の背中から前方へ回り込んでくる。
「なに、それ!」
一斉に振り下ろされる曲刀。
アクティアはレイピアを構え、真正面から受け止めた。
「くっ……!」
激しい衝撃。
足が地面を滑る。
それでもアクティアは踏みとどまった。
「負けるもんか!」
さらに力を込める。
その瞬間――。
パキンッ!
レイピアの刀身が折れた。
「えっ……!」
折れた刀身が地面へ落ちる。
怪人が再び刃を振り上げる。
しかし、アクティアは逃げなかった。
折れたレイピアの柄を握りしめる。
「……まだ終わってない!」
柄の先から、まばゆい光が伸びた。
光は一本の刃となって形を作る。
「光の剣……!」
アクティア自身も驚いていた。
それでも迷わない。
「これなら!」
一気に踏み込む。
「いっけぇぇぇっ!」
光の剣が怪人を貫いた。
怪人の身体が大きく震える。
そして――。
パァンッ!
紫色の光とともに、怪人の身体が崩れ落ちる。
残ったのは、空中へ舞い上がる灰だけだった。
「……倒せた」
アクティアは息を切らしながら、自分の手元を見る。
折れたはずのレイピア。
その柄から生まれた光の刃。
「こんな力があったんだ……」
その姿を、物陰からエクリアはじっと見ていた。
戦闘。
動き。
武器。
そして、最後の光の刃。
すべてを確認した。
エクリアは静かにつぶやく。
「……あれが、新しい魔法少女」
そして、確信する。
「見つけた」
エクリアはその場を離れた。
まだ、アクティアは知らない。
自分を見ていた少女が、ネガティアの人間だったことを。
そして――。
次にエクリアが現れる時。
彼女はもう、ただの調査員ではない。
アクティアを狙う刺客として、目の前に立つことになる。
物語は、次の段階へ進もうとしていた。
