街には平和な時間が戻っていた。
怪人は現れない。
ネガティアからの襲撃もない。
学校へ行けば、友達と話し、授業を受ける。
家に帰れば、父と食卓を囲む。
ただ、それまでとは少しだけ違う日常だった。
アクティアには、誰にも言えない秘密がある。
魔法少女。
そして、自分の目の前でママを失ったという記憶。
「……」
アクティアは窓の外を眺めていた。
夕暮れの街。
あの戦いが嘘だったかのように、いつも通りの景色が広がっている。
けれど、街の人々の間では少しずつ変化が起きていた。
スマートフォンを開けば、動画や写真が流れてくる。
『これ、本物の魔法少女じゃない?』
『合成じゃないの?』
『実際に見たっていう人がいるらしい』
『テレビでも取り上げられてたぞ』
アクティアが初めて怪人と戦った姿。
その目撃情報や映像が、SNSやテレビを通じて広がっていた。
今まで魔法少女は、テレビアニメの中にしか存在しないものだと思われていた。
それが現実の街に現れた。
人々は驚き、そして興味を持ち始めていた。
「魔法少女……か」
アクティアは小さく呟いた。
自分がその魔法少女だとは、まだ誰にも知られていない。
少なくとも、今のところは。
「アクティア、ちょっといいか?」
「なに?」
父親に呼ばれて研究室へ入る。
そこには、あの日から何度も調べられているアクティアのレイピアがあった。
「この剣なんだけどな」
父親がレイピアの刀身の付け根部分を指差す。
「ここ、外れるみたいなんだ」
「外れる?」
アクティアが首を傾げる。
父親が慎重に操作すると、刀身が柄から外れた。
すると。
シュンッ!
柄の先から光が伸びた。
「わっ!」
アクティアが思わず後ずさる。
そこに現れたのは、実体の刀身ではない。
純粋な光によって形成された剣だった。
「これ……光の剣?」
「どうやらそうらしい」
父親は興味深そうに装置を調べている。
「しかも、まだある」
「まだあるの?」
父親が別の機構を操作する。
すると、柄の先端から光が一直線に飛び出した。
壁に設置された標的が大きく揺れる。
「ビーム……」
アクティアは目を丸くした。
「剣だけじゃないんだ」
「ああ。どうやら、このレイピアは見た目以上に多機能らしい」
アクティアは柄を握り直した。
昨日までただの一本の剣だと思っていた。
けれど、この武器にはまだ知らない力が隠されている。
「じゃあ、練習してみようかな」
アクティアは少しだけ笑った。
その日の午後。
街に警報が響いた。
父親の表情が変わる。
「アクティア!」
「うん!」
アクティアはチョーカーを手に取った。
「魔法少女……アクティア!」
光に包まれ、衣装が変わる。
そして、街へ飛び出した。
そこにいたのは、これまでとは違う怪人だった。
怪人が腕を広げる。
次の瞬間。
身体が宙へ浮かんだ。
「飛んだ……!」
怪人は空を自由に飛び回っている。
さらに腕をこちらへ向けた。
「危ない!」
ビームが放たれる。
アクティアは横へ飛び退く。
地面が大きくえぐれた。
「空を飛べる怪人なんて……!」
怪人が再び上昇する。
地上にいるだけでは不利だ。
アクティアは背中のマントを見る。
父親から聞いた言葉が頭に浮かんだ。
『過去の魔法少女にも、似たようなマントを持っていた者がいる』
「だったら……!」
アクティアはマントを広げた。
身体がふわりと浮く。
「飛べる!」
今度は偶然ではない。
自分の意思で空を飛んでいる。
怪人がビームを連射する。
アクティアはマントを翻し、空中を移動する。
右へ。
左へ。
上へ。
そして一気に下降する。
「今度はこっち!」
レイピアを構える。
柄から光が伸びる。
光の刀身。
「これなら!」
怪人へ接近する。
怪人も腕からビームを放つ。
アクティアはそれをかわし、さらに距離を詰める。
「まだまだ!」
今度はレイピアを怪人へ向ける。
光が集中する。
「ビーム!」
一直線に光線が放たれた。
怪人が空中で体勢を崩す。
そこへアクティアが急接近する。
「これで終わり!」
光の剣を振り抜く。
一閃。
怪人の身体が大きく吹き飛び、そのまま地面へ落下した。
怪人は動かなくなった。
「……勝った」
アクティアは空中に浮かんだまま、自分の手を見る。
「私……ちゃんと戦えてる」
着地したアクティアは、ふと思った。
レイピアだけじゃない。
自分自身にも、まだ何かできるのではないか。
手のひらを前へ向ける。
「……」
魔力を集中する。
すると。
パァン!
手のひらから小さな光線が飛び出した。
「えっ?」
アクティア自身が一番驚いた。
「手からもビームが出るの!?」
もう一度試してみる。
今度はさっきより強い光が放たれた。
「すごい……!」
アクティアは笑った。
空を飛ぶ。
レイピアからビームを撃つ。
光の剣を使う。
そして、手のひらからもビームを放つ。
少しずつ。
本当に少しずつ。
アクティアは魔法少女として、自分の力を理解し始めていた。
その夜。
街では、また今日の戦いが話題になっていた。
『空を飛んでいた魔法少女を見た!』
『怪人と空中戦してたぞ!』
『あの剣、光ってなかった?』
テレビでも、魔法少女の姿が映し出される。
まだ名前すら知られていない。
けれど、人々は彼女を知り始めていた。
魔法少女は、もうテレビの中だけの存在ではない。
現実の街にいる。
その魔法少女の名前は――
アクティア。
本人が知らないところで、その存在は少しずつ世界へ広がっていた。
そしてアクティア自身もまた、知らなかった。
この平和な時間の先で。
自分とはまったく違う考え方を持つ、もう一人の魔法少女と出会うことになるとは。
それが、後に大きな転機となることを
