第3章 空を駆ける魔法少女 | 光と闇を 抱きしめたまま

光と闇を 抱きしめたまま

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あの日から、しばらくの間。

 街には平和な時間が戻っていた。

 怪人は現れない。

 ネガティアからの襲撃もない。

 学校へ行けば、友達と話し、授業を受ける。

 家に帰れば、父と食卓を囲む。

 ただ、それまでとは少しだけ違う日常だった。

 アクティアには、誰にも言えない秘密がある。

 魔法少女。

 そして、自分の目の前でママを失ったという記憶。

「……」

 アクティアは窓の外を眺めていた。

 夕暮れの街。

 あの戦いが嘘だったかのように、いつも通りの景色が広がっている。

 けれど、街の人々の間では少しずつ変化が起きていた。

 スマートフォンを開けば、動画や写真が流れてくる。

『これ、本物の魔法少女じゃない?』

『合成じゃないの?』

『実際に見たっていう人がいるらしい』

『テレビでも取り上げられてたぞ』

 アクティアが初めて怪人と戦った姿。

 その目撃情報や映像が、SNSやテレビを通じて広がっていた。

 今まで魔法少女は、テレビアニメの中にしか存在しないものだと思われていた。

 それが現実の街に現れた。

 人々は驚き、そして興味を持ち始めていた。

「魔法少女……か」

 アクティアは小さく呟いた。

 自分がその魔法少女だとは、まだ誰にも知られていない。

 少なくとも、今のところは。

「アクティア、ちょっといいか?」

「なに?」

 父親に呼ばれて研究室へ入る。

 そこには、あの日から何度も調べられているアクティアのレイピアがあった。

「この剣なんだけどな」

 父親がレイピアの刀身の付け根部分を指差す。

「ここ、外れるみたいなんだ」

「外れる?」

 アクティアが首を傾げる。

 父親が慎重に操作すると、刀身が柄から外れた。

 すると。

 シュンッ!

 柄の先から光が伸びた。

「わっ!」

 アクティアが思わず後ずさる。

 そこに現れたのは、実体の刀身ではない。

 純粋な光によって形成された剣だった。

「これ……光の剣?」

「どうやらそうらしい」

 父親は興味深そうに装置を調べている。

「しかも、まだある」

「まだあるの?」

 父親が別の機構を操作する。

 すると、柄の先端から光が一直線に飛び出した。

 壁に設置された標的が大きく揺れる。

「ビーム……」

 アクティアは目を丸くした。

「剣だけじゃないんだ」

「ああ。どうやら、このレイピアは見た目以上に多機能らしい」

 アクティアは柄を握り直した。

 昨日までただの一本の剣だと思っていた。

 けれど、この武器にはまだ知らない力が隠されている。

「じゃあ、練習してみようかな」

 アクティアは少しだけ笑った。

その日の午後。

 街に警報が響いた。

 父親の表情が変わる。

「アクティア!」

「うん!」

 アクティアはチョーカーを手に取った。

「魔法少女……アクティア!」

 光に包まれ、衣装が変わる。

 そして、街へ飛び出した。

 そこにいたのは、これまでとは違う怪人だった。

 怪人が腕を広げる。

 次の瞬間。

 身体が宙へ浮かんだ。

「飛んだ……!」

 怪人は空を自由に飛び回っている。

 さらに腕をこちらへ向けた。

「危ない!」

 ビームが放たれる。

 アクティアは横へ飛び退く。

 地面が大きくえぐれた。

「空を飛べる怪人なんて……!」

 怪人が再び上昇する。

 地上にいるだけでは不利だ。

 アクティアは背中のマントを見る。

 父親から聞いた言葉が頭に浮かんだ。

『過去の魔法少女にも、似たようなマントを持っていた者がいる』

「だったら……!」

 アクティアはマントを広げた。

 身体がふわりと浮く。

「飛べる!」

 今度は偶然ではない。

 自分の意思で空を飛んでいる。

怪人がビームを連射する。

 アクティアはマントを翻し、空中を移動する。

 右へ。

 左へ。

 上へ。

 そして一気に下降する。

「今度はこっち!」

 レイピアを構える。

 柄から光が伸びる。

 光の刀身。

「これなら!」

 怪人へ接近する。

 怪人も腕からビームを放つ。

 アクティアはそれをかわし、さらに距離を詰める。

「まだまだ!」

 今度はレイピアを怪人へ向ける。

 光が集中する。

「ビーム!」

 一直線に光線が放たれた。

 怪人が空中で体勢を崩す。

 そこへアクティアが急接近する。

「これで終わり!」

 光の剣を振り抜く。

 一閃。

 怪人の身体が大きく吹き飛び、そのまま地面へ落下した。

 怪人は動かなくなった。

「……勝った」

 アクティアは空中に浮かんだまま、自分の手を見る。

「私……ちゃんと戦えてる」

着地したアクティアは、ふと思った。

 レイピアだけじゃない。

 自分自身にも、まだ何かできるのではないか。

 手のひらを前へ向ける。

「……」

 魔力を集中する。

 すると。

 パァン!

 手のひらから小さな光線が飛び出した。

「えっ?」

 アクティア自身が一番驚いた。

「手からもビームが出るの!?」

 もう一度試してみる。

 今度はさっきより強い光が放たれた。

「すごい……!」

 アクティアは笑った。

 空を飛ぶ。

 レイピアからビームを撃つ。

 光の剣を使う。

 そして、手のひらからもビームを放つ。

 少しずつ。

 本当に少しずつ。

 アクティアは魔法少女として、自分の力を理解し始めていた。

その夜。

 街では、また今日の戦いが話題になっていた。

『空を飛んでいた魔法少女を見た!』

『怪人と空中戦してたぞ!』

『あの剣、光ってなかった?』

 テレビでも、魔法少女の姿が映し出される。

 まだ名前すら知られていない。

 けれど、人々は彼女を知り始めていた。

 魔法少女は、もうテレビの中だけの存在ではない。

 現実の街にいる。

 その魔法少女の名前は――

 アクティア。

 本人が知らないところで、その存在は少しずつ世界へ広がっていた。

 そしてアクティア自身もまた、知らなかった。

 この平和な時間の先で。

 自分とはまったく違う考え方を持つ、もう一人の魔法少女と出会うことになるとは。

 それが、後に大きな転機となることを