My Dear 80話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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お昼過ぎに終わった会議の資料を持ってから私の部署があるフロアに戻ると

待っていたのは提出されていた書類の山だった。ちょっとため息をついてから席に座る。

まず書類の決裁をしてから会議の資料を確認する作業に入ろう。

じゃないと数少ない部下の人達の仕事がはかどらない。

何枚か書類を見ていると異動願いが出されていた。それは以前、よく食事に誘われていた

井上君の物だった。なんで異動願いなんて出したんだろう。

私はパソコンに向かっている井上君のデスクに近づくと彼に声をかけた。

「井上君、ちょっといい?」

「…。いいよ。ここじゃないんだから喫煙室で話そうか。」

きっと理由を聞こうとしてるのが分かったんだろうな。それも喫煙所で話すって事は

他の人達に聞かれたくない話なのかもしれない。私達は喫煙所に移動すると

どちらかともなく話始めた。先に口を開いたのは井上君の方だった。

ラッキーストライクの煙草を出して火をつけると少し笑って、

「異動願いのことだろ?」

「うん。今やってる仕事で気になる事でもあるのかなって思って。」

「違うよ。女々しいかもしれないけど、橋本が嵐山さんとうまくいってるみたいだから

見てるのがしんどくなったんだ。…。ごめんな、こんな理由で異動願い出すなんて。」

井上君の言葉に私は何も言えなくなってしまった。もしかしたら好意を持たれてるのかもしれないって

いうのは薄々気がついていたけど、異動願いを出されるまでなんて思ってもいなかった。

井上君は苦笑すると、何も言えない私に、

「そんな顔しないでよ。俺が悪者みたいじゃん。」

「そんな事…。ないよ。」

「出来れば海外勤務がいいな。そしたら会社で橋本に会わないで済むじゃん。なんて無理か。」

異動願いを受理する事は私でも出来る。でも次の異動先までは私が決める事は出来ない。

私は一言しか言えなかった。

「ごめんね。」

と。井上君は煙草を消すと、

「あやまらないでいいよ。俺の勝手なんだから。そもそも振られたからって異動出来るとは

簡単に思ってないし。課長がなんていうかもわかんないし。じゃ、仕事残ってるから。」

そう言って喫煙室から出て行った。

井上君が真剣に私のことを考えてくれてたのなら私も賢治に対して真剣に向き合わないといけない。

やっぱり今日、賢治ん家に行った時に結婚のことを聞いてみよう。

私は携帯をスーツのポケットから出すと賢治の携帯に電話をかけた。賢治はすぐに出てくれて

何かを期待してるかの様な声だった。

「もしもし?仕事終わった?」

「まだよ。でも今日、賢治ん家に行くけどいい?話があるの。」

「俺も奈々子に話があったんだ、待ってるから。メシはどうする?」

また賢治にご馳走になるのは嫌だったから私は一瞬考えたけど、

「何か作る。冷蔵庫に何か入ってる?」

「ビールしか入ってない。なんか買ってこうか?」

「いい。私が買ってくる。じゃ、7時には行けると思うから。」

これ以上喋ると賢治に変な期待をされちゃうから一方的に私は携帯を切った。