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会議は思った通り長くなり、休憩としてランチを挟む事になった。
と、言ってもランチは食堂から運ばれてきていて食事をしながら会議は続いた。
私はチキンソテーを一口、口に入れると今発言している同期の笹島君に目をやった。
「10代のユーザーは確かに多いですが、その反面次々と課金してまでゲームを続けるので
保護者からのクレームが月を追うごとに増えてます。
ここは課金する為にルール作りをした方がいいのではないでしょうか。」
課長がコーヒーを一口飲むと、腕を組んで、
「子供が実際に携帯代を払う訳じゃないからなぁ。ゲームを進める為に課金してしまうんだろう。
まぁそれが会社としては利益になる訳だが。考えものだな、ここは。」
ゲームの課金にどういう風に対応していくかはこれからの課題となり、朝から始まった会議は
ここで一旦解散した。なんだか、他の事に頭がいっちゃって集中出来てなかった気がする。
ダメだなぁ、こんなんじゃ。友梨香さんみたいになれない。
会議室から出て入れ替わる様にランチのプレートを回収しに来た食堂のおばちゃんが、
「大変ねぇ、食事しながら会議なんて。」
一緒に入ってきたそのおばちゃんと同い年らしき人と話しながらプレートを集めていた。
私だってランチ位、一人でゆっくりしたい。でも仕事だからしょうがない。
自分の部署のフロアに戻る時、後ろから肩を叩かれた。振り向くとそこにいたのは笹島君だった。
「よっ、どうしたんだよ。ぼけ~っとしてさ。例の彼氏か?」
「そんなんじゃないけど…。」
そこまで言うとちょっと考え込んでから端正な笹島君の顔をジッと見つめた。
「何?」
笹島君は部下の女の子達にも人気でさわやか青年って感じの人だった。それは私も否定はしない。
だけど本当は女の子が大好きなのを私は知っている。
「普通、この年齢で彼女が出来たら結婚とか考える?」
「そ~だな~。彼女が年上か年下かもよるけど、考えるって言われたら考えるかも。
なんだよ、もうプロポーズでもされたのかよ。」
二人で長い廊下を歩きながら話していたけど、傍から見たら距離が近すぎたかもしれない。
「違うけど…。ほら、私の彼氏って一般人じゃないでしょ?ああいう世界の人って結婚を
どういう時に意識するのかなぁって思って。」
笹島君はエスカレーターの下のボタンを押すと、手を頭にやって、
「でもさ、芸能界って結婚が晩婚の人が多くないか?」
「そうよね。」
「橋本は結婚を考えてるわけ?」
「考えてない訳じゃないけど、今すぐっては思ってない。」
二人してやってきたエレベーターに乗り込むとしばらく私達の間には沈黙が流れた。
先に降りる笹島君は、両腕を上に上げて伸びをすると、
「まぁプロポーズされたら考えたら?橋本が結婚を急いでないなら。
タイミング逃したら痛いけど。ま、俺も人の事言えないし。」
最後の言葉が気になって閉まりかけたドアに向かって笹島君に急いで質問をした。
「えっ?笹島君、結婚するの?」
「まぁね、近いうちに。じゃな。」
笹島君が結婚を近いうちにするなんて思ってもいなかった。まだまだ遊びたいみたいな事
こないだ言ってたから。そっかぁ、私も結婚に対して真面目に考えなきゃいけない年齢なんだな。
賢治はどう思ってるんだろう。
今日はオフって言ってたから聞いてみようかな。でも私が結婚を急いでるって思われるのも嫌だしな。
ここは慎重に伝えよう。賢治のことだから早とちりするだろうし。