My Dear 63話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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会社に戻るとまだ3分の1位しか戻ってきている社員はいなかった。

私はさっき菅野さんから預かった資料を見ながらパソコンに向き合って仕事を始めた。

それが終わると自分の仕事の番。決裁をしなきゃいけない資料の山が私のデスクの

上に山の様に積んである。これを見ただけでうんざりする。でもやらないと。

目標は友梨香さんなんだから。

腕時計を見るともう2時になってた。それでも神木さん達は戻ってこない。

他の社員は黙々と仕事を始めていて神木さん達のデスクだけが空席で目立っていた。

2時半位になってやっと帰ってきた。2時間以上も何してたんだろう。

主任の私としては無視する事は出来ない。ここは注意しておこう。でも正直言って

彼女達には近づきたくない。どうせ、賢治の事で嫌味を言われるだけだから。

重い腰を上げてまだ仕事に手を付けてない神木さんのデスクに近づいた。

「神木さん、ちょっといいかしら。」

「何でしょう。」

挑戦的な視線を送りながら彼女は振り返った。

「もう2時半過ぎてるわよ。昼休憩は1時間のはずでしょ。」

「すみませ~ん。誰かさんみたいな彼氏が欲しいなぁ

なんて話してたら時間を過ぎちゃいました。」

反省の色も全く見せないままチラリと私を見て片方の頬を上げて笑った。

「それと、午前中に提出する様にって言った書類がまだ提出されてないんだけど。」

「今からやりま~す。」

神木さんの語尾を伸ばす喋り方にムカムカしたけれど、そこは我慢して、

「4時までには提出する様に。」

「え~。無理ですぅ。」

「私は菅野さんから引き継いだ仕事はもう終わらせてるけど。」

今度は私の顔も見ないでパソコンを立ち上げながら、

「私~、主任と違って仕事が出来る女じゃないんですぅ。」

「1時間半もあれば時間は十分の仕事よ。迅速に仕事をするのも仕事のうちなんだから。」

それ以上神木さんの相手をするのも嫌になったから彼女からの返事も聞かないで

自分のデスクに戻った。

結局、神木さんが書類を持ってきたのは就業時間ギリギリの時間だった。

「じゃ、私用事があるんでこれで失礼します。」

「どうぞ。お疲れ様。」

神木さん達が帰り支度をしてる時聞こえてきた会話は、

「今日の合コン、イケメンばっからしいよ。」

と、くだらない用事の事を話しながら会社を後にしていった。

私はと言えば菅野さんの仕事を手伝ったのもあって少し残っていた。

伸びをして、

「さて、やりますか。」

呟いて自分の仕事の残りを始めようとしたら携帯が鳴った。賢治だ。

そう言えば夜電話するって言ってたな。でも仕事中だしどうしよう。

考えてる間にも携帯音は鳴り続けてる。しょうがない、出よう。

「もしもし?」

「あっ、俺。仕事終わった?」

視線の先にはあと少しの仕事がデスクに散らばっていた。

「まだ仕事中。仕事が終わったら私から電話するから。」

電話の先で賢治はため息をついてるのがわかる。

「ため息したってしょうがないでしょ。

賢治に仕事がある様に私にだって仕事があるんだから。」

「わかったよ。部屋、入っててもいい?」

合鍵を作った事をすっかり忘れてた私は部屋にどうやって入るのだろうと考えたけど

そういえば合鍵作ったんだっけ。

「いいわよ。でも週刊誌の記者とかにバレない様に入ってね。」

「分かってるって。」

本当に芸能記者に見つからない様に来てくれるのか疑問に思ったけど、

ここは賢治を信じるしかない。