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「奈々子ちゃん。」
Takuyaさんは笑顔で私に声をかけてきた。
「Takuyaさん。今日はどうしたんですか?スタジオまで距離があるでしょ?」
笑顔のままでTakuyaさんは近づいてきて、ちょっと距離が近いんじゃないかと思う程
私に近づいて来た。その時、賢治の言葉を思い出してしまった。
『Takuyaには気をつけろ』
一瞬だけ私は警戒心が心の中で首をもたげた。
「今日はレコーディングはないんだ。たまたまだよ。」
近すぎる距離を少し離しながら私は慎重に口を開いた。
「私、今仕事中なんです。」
「でも今からランチでしょ?一緒にどう?」
賢治からのランチを断っておいてTakuyaさんとランチをするのはどうだろうと考えた。
「クライアントと打ち合わせをしながらの食事なんです。残念ですけどまた今度。」
私はちょっとした嘘をまじえてTakuyaさんからのランチのお誘いを断った。
Takuyaさんは少し笑うと、
「奈々子ちゃんは嘘が下手だね。打ち合わせなら資料なりなんなり持ってるはずでしょ?
まぁ警戒されてもしょうがないけど。また誘うよ。その時はご飯でも食べに行こう。」
あぁ、私ってどうして嘘が下手なんだろう。
その時、車のクラクションが鳴った。
振り返ると賢治の車がそこにはあった。なんだか賢治は機嫌が悪そうだった。
サングラスをずり降ろすと、
「俺の昼飯の誘いには断りを入れときながらTakuyaと何話してたんだよ。」
「偶然よ。急に声をかけられただけ。」
これは嘘じゃないよね。でもランチに誘われた事は言わない方がいいと思った。