My Dear 60話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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「奈々子ちゃん。」

Takuyaさんは笑顔で私に声をかけてきた。

「Takuyaさん。今日はどうしたんですか?スタジオまで距離があるでしょ?」

笑顔のままでTakuyaさんは近づいてきて、ちょっと距離が近いんじゃないかと思う程

私に近づいて来た。その時、賢治の言葉を思い出してしまった。

『Takuyaには気をつけろ』

一瞬だけ私は警戒心が心の中で首をもたげた。

「今日はレコーディングはないんだ。たまたまだよ。」

近すぎる距離を少し離しながら私は慎重に口を開いた。

「私、今仕事中なんです。」

「でも今からランチでしょ?一緒にどう?」

賢治からのランチを断っておいてTakuyaさんとランチをするのはどうだろうと考えた。

「クライアントと打ち合わせをしながらの食事なんです。残念ですけどまた今度。」

私はちょっとした嘘をまじえてTakuyaさんからのランチのお誘いを断った。

Takuyaさんは少し笑うと、

「奈々子ちゃんは嘘が下手だね。打ち合わせなら資料なりなんなり持ってるはずでしょ?

まぁ警戒されてもしょうがないけど。また誘うよ。その時はご飯でも食べに行こう。」

あぁ、私ってどうして嘘が下手なんだろう。

その時、車のクラクションが鳴った。

振り返ると賢治の車がそこにはあった。なんだか賢治は機嫌が悪そうだった。

サングラスをずり降ろすと、

「俺の昼飯の誘いには断りを入れときながらTakuyaと何話してたんだよ。」

「偶然よ。急に声をかけられただけ。」

これは嘘じゃないよね。でもランチに誘われた事は言わない方がいいと思った。