My Dear  26話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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ビルの最上階にあった賢治の事務所にはもう誰もいなくって

暗いから少しだけ気持ちが悪かった

「奈々子、こっち」

賢治の後ろを追いかけながら奥の部屋に向かっていく

そこの部屋だけが明かりがついていて誰かがいるのはわかった

賢治はドアをノックすると

「社長、入りますよ」

返事も聞かないで中へ入ってしまった

私はどうするか迷ったけど賢治の後ろに隠れる様に私も部屋に入って行った

社長さんは椅子に腰をかけて窓の外を見ていた

その後ろ姿は細い女の人で長そうな髪を上に上げていた

「思ったより早くきたじゃない」

振り向きながら賢治に声をかける

私は賢治の後ろに立っていたけど、なんだかにらまれてるみたい

そうだよね。アイドルの賢治に彼女が出来たらマズいもんね

そのうえ写真まで撮られたんだから

社長さんは椅子に座ったまま私達にもソファに座る様に促した

「賢治、分かってるの?今が一番大切な時なのに、女の子と写真なんて撮られるなんて」

「すんません」

「さっき週間ジャーナルから電話があったわ。あなた達の事写真撮ったから

明日の新聞に載せていいかの確認よ

無断で芸能人の写真を載せると著作権の問題になるからね

交換条件さえ出せば載せないそうよ」

そう言って煙草に火をつけた

「交換条件って?」

私も疑問に思った事を賢治が聞いてくれた

「あなた達のツーショット写真は載せない代わりに賢治には彼女がいるっていう

独占記事を載せたいそうよ。彼女の事は伏せてくれるらしいけど」

それを聞いて私は少し安心した

だって会社でもバレたりしたら後々問題になるから

「あなた、賢治と付き合ってるの?」

煙草の煙を吐きながら社長さんに聞かれた

「あの…。付き合ってるか付き合ってないかと言われたら付き合ってません」

「おい、俺と付き合うって言ったじゃないか」

「あの時はそうでも言わないと納得してくれないと思ったからよ

でも賢治ったらすっかり私と付き合ってるって思い込んでるから黙ってたの」

私と賢治のやり取りを見ていた社長さんは

「つまり、どっちつかずの関係なのね」

「俺は付き合ってるつもりですけどね」

「まぁいいわ。あなた達が一緒に写ってる写真を掲載されるより

賢治に彼女が出来たことを公にした方が傷が少ないもの

そっちを交換条件でツーショット写真の掲載は辞めてもらいましょ」

あまりにも冷静に話してるから、さっき賢治と話してたのが本当に怒ってるのかが不安になった

「いいんですか?私達が付き合ってるの」

「賢治だって子供じゃないんだもの。彼女がいたって不思議じゃないわ

最近のファンの子達はそれぐらい理解してくれるでしょ

それとあなた。名前なんて言うの?」

「橋本です。橋本 奈々子です」

しばらく社長さんは私の顔を見ていて言い心地が悪かったけど

私は社長さんからの視線を逸らさないで黙った

「わかったわ。賢治。橋本さんと付き合うのは構わないけど

あんまりおおっぴらにしない様にしなさいよ」

こうして私と賢治が付き合う事は賢治の事務所公認になった