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翌朝、桜子は叔母の部屋で喪服に着替えた。
叔母の部屋から出てきた桜子を見た叔父も喪服を着ていたが
桜子の喪服姿を見ると、目を細めて、
「こんな時に言っちゃいけないんだろうけど、着物姿の桜ちゃんは華があるな。」
そう言って弟である桜子の父を亡くした悲しみを紛らわせている様だった。
「店以外でも着物の方が多いんですよ。着物の方が落ち着くみたい。」
一旦、親族のほとんどが叔父のうちに集まり、墓地へと向かった。
墓周りは雑草で埋め尽くされており、
「わしも親不孝者だなぁ。こんなに近くに墓があるのに滅多に掃除には来ない。」
叔父を含めて墓参りに来た皆で墓周りの掃除をした。
そして納骨をすると、みなで手を合わせて父を含めて墓に入っている一族の冥福を願った。
その日の終電で桜子と雄二は東京に戻った。
駅まで叔父が送ってくれ、
「あいつの墓参りにまた来てくれな。」
「はい…。必ず。」
東京に戻ると二人は店に帰った。雄二も当たり前の様に店についてきて
桜子は店頭に貼ってあった『臨時休業』の張り紙をはがして
2階に上がった。
「今日から営業するのか?」
桜子からコーヒーを受け取りながら心配そうに雄二は尋ねた。
髪をポニーテールにしながら、
「えぇ。もう2週間近く店を閉めてたから。いつまでも休んでられないわ。
すぐ店を開けるから下に行ってってもらえる?
着物にも着替えたいし。」
「…。無理はするなよ。」
雄二は店内から入れる階段を使って店に降りて行った。
桜子は着物ダンスから着物を選ぶ時、喪中なので黒めの着物を最初選んだが、
父が亡くなった事は客には関係ない事と考え直し、
薄いグレー地にツバメの柄が入っている着物に選び直した。
髪もポニーテールから着物にふさわしい髪型にセットし直し、
下の店に行くと雄二が手持無沙汰気に座っていた。
「お待たせ。ちょっと待ってね。のれんを出すから。」
「桜子。」
のれんを外に出そうとした桜子を雄二が止めた。
「やっぱり今日も休店にした方がいいんじゃないか?顔色が悪い。」
「でも…。これ以上は休めないわ。」
のれんを外にだし、桜子は準備をしていなかったつまみを作り始めた。
その姿を雄二は黙って見ていた。
2品程作ってからそれを雄二に出し、
「お酒はどうする?」
「今日は辞めとくよ。まだ喪中だしな。」
「…。そう。」