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桜子と雄二は叔父の自宅に2泊した。
本来だったらこの地に来た日に納骨をしたかったのだが、
親戚全員が集まれるのが2日後だったのだ。
幼い頃に着た以来、青森に来るのは久しぶりだったので
叔父は色々な所に案内をしてくれた。
竜飛岬にも連れて行ってくれ、初夏にも関わらず肌寒い風が吹いていた。
岬の先に立った雄二は、海を覗き込む様に見ると、
「なんだか怖いな。こんなに高い場所とは思わなかった。」
そんな後ろ姿に桜子は少し風で乱れる髪を押さえながら、
「小さい頃に父さんに連れてきてもらった時も、崖に近づくんじゃないよって注意されたのよ。
子供は怖いもの知らずだから…。見てて父さんは危ないって思ったんでしょうね。」
「あの頃の桜ちゃんも可愛かったけど、すっかりべっぴんさんになったなぁ。」
白いワンピース姿の桜子に向かって笑った。
だがその次の言葉につまった様に、
「忠も桜ちゃんのお嫁さん姿が見たかっただろうに。」
そう言って下を向いてしまった。
康之との結婚は内々でしたので青森の親戚までには知らせていなかった。
今となっては知らせなくて良かったと思っている。
雄二との結婚が初婚だと思い込んでる叔父達だったが、知らない方がいい事が世の中にはあるのだ。
「桜ちゃん、寒くなってきたから帰ろうか。」
「そうですね。」
叔父の自宅に帰ると叔母が夕食の準備をしていてくれていた。
「桜ちゃんが久しぶりに来たから、奮発しちゃった。」
そう笑った。
「すみません。お手伝いもしないで。」
「いいのよ。桜ちゃんと堺さんはお客さんなんだから。そう言えば明日ね。納骨に行くの。」
父の骨壺は叔父が仏壇の上に置いておいてくれていた。
「はい。あの…。」
「どうしたの?」
夕食をテーブルに並べながら桜子が言いにくそうにしている事を聞き返した。
「喪服を持ってきてるんです。叔母様の部屋をお借りして明日着替えてもいいですか?」
「構わないわよ。そう言えば美由紀の店を引き継いで今は着物が多いだものね。
着物の方が落ち着くでしょう。」
その日の夕食は穏やかな夕食になった。
ただ、亡くなった父の事にはあえて誰も触れなかった。
明日になれば親戚のほとんどが集まる。
その時、父の思い出話も出るだろう。