小料理屋 桜 52話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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雄二は始発が出始めた頃に桜子の自宅を後にした。

夜通し話し合った、お互いの実家に行く日は来週の水曜日にする事に決めていた。

駅へ向かう雄二を見送りながら、少なくとも父親には結婚をする事を報告しなくてはと思った。

まったく寝る事なく雄二と話し続けていたというのに不思議と眠気はなかった。

少し早すぎるかと思ったが、今日のつまみの用意をしてそれから父親に電話を

しようと頭の中で今日の予定を立てる。

週に2回来る、八百屋の橋本は色々な食材を持ってきてくれるから

多くの食材を買う桜子にとっては助かる存在だった。

やはり野菜とはいえ週の半分の量を買うとかなりの重さになる。

美由紀に最初に教えられたのはこの、食材選びからだった。

なるべく長持ちするものでかつ、四季を感じる様な食材を選ぶ様に教えられた。

「桜さん、こんにちわ。」

橋本は若いながらも野菜に詳しく、いつも新鮮な野菜を持ってきてくれる。

「今日のお勧めって何?」

「そうですねぇ。どれもお勧めですけど…。北海道産のアスパラガスとかいいのが入ってますよ。

他に春キャベツとか。これはロールキャベツとかに向いてますね。柔らかいから。」

桜子は橋本に勧められたアスパラガスと春キャベツは当然、

他にそら豆、新玉ねぎを買った。

「いつも店まで持ってきてくれてありがとう。野菜ってたくさん買うと重いでしょ?

凄く助かってるわ。」

橋本は少年の様に頬を赤らめると、帽子で顔を隠しながら、

「この店は美由紀さんの代からひいきにしてもらってますから。

また何か欲しい野菜があったら言って下さい。セリで落としてきますから。」

「ありがとう。」

桜子は料金を払うと店のカウンター下にある冷蔵庫に野菜を入れていった。

一旦、冷蔵庫に入れた野菜を見ながら、今日作るつまみの事を考えた。

そう言えば春キャベツはロールキャベツに向いていると言っていた。

桜子は財布を持って近所のスーパーへ向かった。

必要最小限の物を買って店に戻る。

時計を見ると2時だった。朝ご飯は雄二と共にしたが昼ご飯は食べていない事に気がついた。

自分の昼ご飯も兼ねて、ロールキャベツを10個作った。

新玉ねぎではしっかり渋みを取って、サラダを作った。

昼ご飯を食べ終わると2階の自分の部屋に戻り昨日の晩から準備していた着物に着替えた。

着物を着るとやはり心持が違ってくる。

着物姿で実家に電話をかけたが父親は留守の様だった。

家の留守電に今度、報告があるので帰る事を入れると電話を切った。

そして毎日の恒例の様に店内と店の前を掃除し始めた。

空を見上げると雲行きが怪しい。今日は雨が降るかもしれない。

もしかしたら客足も少なくなるかもしれない。

開店時間の5時を過ぎて30分経っても誰も来る気配はなかった。

いつもだったら大森や北村が来るのだろうが、今日は月初めというのもあり

大森達も来ないかもしれなかった。

そうなると手持ち無沙汰になるので自然と頭の中は雄二との結婚の事になる。

雄二は口癖の様に、

「大丈夫。」

と繰り返していたが、一度結婚に失敗している桜子はどうしても慎重になってしまう。

これは臆病になってしまったという事だろうか。

それとも結婚に対してこのぐらい慎重になるのは当たり前の事なのだろうか。

それは桜子には分からない事だった。