小料理屋 桜 50話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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「じゃぁさ、桜子のご両親にも挨拶をしておきたいんだけど。」

「せっかちなのは変わらないのね。いいわよ。私も雄二さんのご両親に挨拶したいし。」

パリに行くにしろ、行かないにしろ、桜子と結婚する事は雄二の中で決めていたので

早めに桜子の両親に挨拶をしておきたかった。

「じゃぁ、お父さんにいつ実家に帰るか聞いてみるね。」

桜子は充電器に置いたままにしてある携帯を取ると父親に連絡をした。

その姿を雄二は固唾を飲んでみていた。

「お父さん?あのね、大学の時付き合ってた雄二さんの事覚えてる?

そう。うん。それでね、私と雄二さん結婚しようと思ってるんだけど

今度実家に帰ってもいい?」

そこまで桜子が喋るとしばらく桜子は黙り込んでしまった。

その表情は決して明るいものではなく、沈痛な面立ちをしていた。

「わかった。でも、とりあえず1回だけでも会ってくれない?

そうする。じゃぁね。」

桜子は携帯を切るとため息をしてしまった。

「親父さんなんだって?」

「大学の時に黙ってパリに行った事を覚えてて、雄二さんにあんまりいい印象は持ってないみたい。

もう昔の事なのにね。」

あの頃、勢いでパリに行った事の代償が今になってきてしまった。

やっぱり桜子にはパリに行く事を告げてから行けばよかったかもしれない。

それでも桜子は気丈に振る舞って、

「いつ行く?雄二さんのご実家の方に先に行った方がいいかしら。」

「いや。俺が挨拶に先に行くよ。おふくろは桜子の事気に入ってたみたいだから

反対はしないと思いし。」

問題はいつ行くかだった。桜子の店は日曜が定休だったが、雄二は日曜が忙しい。

昼間に行くのは無理だと判断した桜子は、

「土日は私達、仕事で忙しいでしょ?だから平日の水曜ってお客様少ないの。

その日を臨時で店を休みにして行かない?雄二さんの仕事の都合もあるだろうから

水曜にこだわらなくてもいいけど。」

「うちのギャラリーは火曜が定休日なんだ。火曜でも構わない?」

「いいわよ。じゃぁお父さんに連絡しとく。康之さんと結婚した時も思ったんだけど

結婚って順序があるのね。」

そう言って先程、雄二からもらった指輪を撫でた。

桜子が幸せそうに指輪を見ていた姿を見ると、不意に不安が膨れ上がった。

「なぁ。」

「どうしたの?」

「もう、康之とはヨリは戻さないよな。」

その言葉に桜子は黙ってしまった。雄二はおなじ言葉を繰り返し桜子に問いかけた。

「あいつともうヨリなんて戻さないよな。」

小さな声で、

「当たり前よ。彼との結婚生活で私は疲れ切ってしまったもの。」

下を向きながら呟いた。

雄二は座っていた椅子から立ち上がって桜子を後ろから抱きしめた。

「そうだったよな。ごめん。もうこんな事言わないから。」

桜子も抱きしめられている雄二の腕を強く握った。