小料理屋 桜 23話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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桜子はモヤモヤした気持ちで帰宅した。

雄二がやり直さないかと言ったのは本気の様だったが

あの突然いなくなった雄二と今さらやり直す事が出来るだろうかと不安にもなった。

桜子は今日購入した絵をどこに飾ろうかと思いながらも考えていたのは雄二の事だった。

イラストはカウンターの中央に飾り、いつも店に花を飾っているが

このイラストでより一層、華やかさが増した様な気がした。

それにしても…。

雄二はパリにいる時も桜子の事は考えていたのだろうか。

考えていたからこそ今になってやり直したいと言い出したのかもしれない。

しばらくイラストを見ていたが、明日になれば店を開かなければならない。

桜子は気持ちを切り替えて明日のつまみの準備をした。

ふろふき大根は1晩ねかせた方が味が染み込むので大根に少し切り目を入れて

鍋に入れた。最近は寒いので田楽を作る為に豆腐の水切りもした。

明日は月曜日だから客は少ないかもしれない。

だが、大森も雄二のギャラリーに行くと言っていたので大森は来るかもしれない。

大森はあの青年の絵を買ったのだろうか。


翌日、店の準備をしていると開店5分前に雄二と昨日の青年が来た。

「ちょっと早かったかな。」

そう言いながら桜子を見ていた。

「いいわよ。」

ほぼ店内の掃除は終わっていたので雄二を店に入れた。

青年はカウンターに飾ってある絵を見ると、

「店に置いてくれたんですね。」

嬉しそうに昨日買ったイラストを見た。

「えぇ。お客様にも見てもらいたかったから。内山さんは何を飲まれますか?」

「松嶋さんにお任せします。」

桜子は後ろに並んでいる日本酒を見ると先日、入荷した獺祭を選んだ。

「ギャラリーの整理は終わったの?」

「うん、さっきね。」

内山と同じ酒を飲みながら雄二は答えた。

他の常連客がいないので雄二もくだけた口調になっていた。

内山は、

「昨日、来て下さってありがとうございます。絵まで買って下さって。」

「優しい絵ですね。今度の個展にも行かせて下さいね。」

そこまで話していると昨日、桜子が予想した通り大森が入って来た。

「いらっしゃいませ。」

「今日も来ちゃったよ。」

カウンター席に座ると雄二と内山に気づき、

「あれ?個展は終わったの?」

内山の代わりに雄二が、

「はい、昨日で。おかみも来てくれました。それとイラストをご購入して下さって

ありがとうございました。」

大森はカウンターに飾ってある絵に気づき、

「桜ちゃんも買ったんだ。いいよね、この絵。」

「大森さんも買われたんですね。」

大森の為に日本酒を用意しながら大森も内山のイラストを買った事を知った。

「かみさんが気に入った絵があったからね。結婚記念のプレゼントで。」

「まぁ、結婚記念日なんですか。おめでとうございます。」

「桜ちゃんも早くお嫁にいきなよ。」

その大森の言葉には桜子は黙ったままで微笑んだだけだった。

それはきっと大森が桜子が雄二からやり直さないかと言われてるのを知らないから

言える事だろうと、あえて何も言わなかった。

チラリと雄二の方を見たが雄二は内山と次の個展の話をしている様で

聞こえていなかったらしい。もし聞こえていたとしても何も言わなかっただろう。