小料理屋 桜 22話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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桜子が指定した店で待っていると雄二は10分後にやって来た。

「この辺はカフェが多いから迷ったよ。」

そう言いながら桜子の前の席に座った。

「あなたが来るまで食事は注文してないの。先に決めてくれる?」

メニューを差し出しながら紅茶を口にした。

「先に頼んでくれても良かったのに。」

雄二はメラメラとメニューをめくりながら、

「それで話って何?」

「あなた、私の店に最初に来た時に『やり直さないか』って言ったでしょ?

それってどういう意味?」

雄二はメニューをめくる手を止めて桜子の顔を見た。

「そのまんまの意味だよ。もしかして今付き合ってる人いるの?」

大学時代にいきなりいなくなった雄二にそんな事を言われたから桜子は正直戸惑っていた。

「…。今はいないわ。だからって突然いなくなったあなたともう一度やり直すのは

難しいと思うの。」

その時ウェイターが食事の注文を聞きにきた。

「桜子は何を食べる?」

「任せるわ。」

雄二は自分にはパスタを頼み、桜子にはピザを注文した。

「それとアイスコーヒー。桜子は?」

「私もそれでいい。」

料理が来るまでに沈黙が流れたが、雄二は

「悪かった。あの時何も言わなくてパリに行って。」

頭を下げながら大学時代の事を謝った。

その姿を見て、

「もういいの。昔の事だから。」

桜子にはそう言うしかなかった。

「俺もパリに行ってから色々考えたよ。

桜子に言ってから来た方が良かったのか。

パリ行きを桜子に言ったら反対されただろうなとか。

でもパリで学んだ事は大きかったよ。げんに今は画廊までしている。

だから自分の地盤をしっかりしてから桜子に会いに行こうって思ったんだ。」

そこまで言うと雄二が注文した料理が運ばれてきた。

「ピザで良かったかな。着物とか汚さない?」

そういう些細なことまで気にしてくれるのは大学時代のままだった。

「平気。最近では着物の方が多いって言ったでしょ?」

食事をしている間は雄二がパリで何をしていたかなどの話をした。

その話を聞きながら、もしパリに行っていなかったら桜子達の人生は

違っていたのだろうかと考えた。

食後の飲み物が来た時、

「雄二さんって私の店で飲んでる時と、画廊にいる時は全然違うのね。」

少し笑いながらギャラリーでの雄二の印象を伝えた。

「まぁね。画廊をしているって言っても駆け出しの画廊だからね。

お客さんには気を使うよ。」

それは叔母の美由紀から店を受け継いだ時の桜子もそうだった。

大学時代にアルバイトで店を手伝っていたが

あくまでもアルバイトだったのでほぼ美由紀が客の接客をしていた。

お互いの飲み物も飲み終わると、

「あなたとやり直すのは考えさせて。今はお店も忙しいし、

パリに行ったかと思えばいきなり帰ってきたあなたと昔の様に付き合えるとは思えないの。」

「わかった。でも俺、待ってるから。桜子の気持ちが変わるまで。」

そこまで言われると、雄二も本気で桜子とやり直したいのはわかった。

「じゃぁ、私帰るから。」

半ば逃げる様に席を立つと桜子は伝票を取ろうとした。

だが素早く雄二はその伝票を持つと、

「今日、来てくれたお礼。ここはご馳走させてよ。」

「でも…。誘ったのは私だし。」

「こういう時は男が払うもんだよ。」

そうして二人は別れた。内心で明日も雄二は店に来るのだろうかと思いながら。