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パンフレットを買って関根さんの店に行きながらさっき観た映画の話をした。
「あのレタス、可愛かったね。」
「必死になってるサラダボールも笑えた。」
こうやって二人で笑いながら歩けるのが1週間前だったら想像も出来なかった。
でも今は二人で歩いてる。道路を歩いてるだけじゃなくて
人生も一緒に歩いてる気がした。
「せっきねさ~ん。来たよ。」
「いらっしゃい。待ってたよ。その表情だと映画、面白かったみたいだね。」
私は映画の半券を見せるのと一緒にあの映画のパンフレットを見せた。
「あぁ、これね。僕も観たよ。レタスが逃げ出す映画だろ?」
「うん。原作者の人ってすごいと思う。あんな映画を考えだしちゃうんだから。
あ、私アイスカフェモカ。聡は?」
後ろを振り向くと聡の姿がなかった。
「あれ?聡は?」
関根さんも首をひねると、
「店に来たのは美加ちゃんだけだったよ。」
おっかしいなぁ。店の前までは一緒にいたのに。
…。まさか、また海外に行っちゃったなんて事ないよね。
「とりあえず、いつもの席で待ってたら?トイレに行ったのかもしれないし。」
だったら一言何か言うよね…。
関根さんからアイスカフェモカを受け取ると黙って私達の指定の席に座った。
頭の中では『まさか』しか考えられなくてせっかく関根さんが入れてくれた
アイスカフェモカの氷も解け始めてきた。
その時、鈴が鳴って誰かが店に入ってきた。
その人は関根さんと親し気に話してる。誰だろうって思ったら聡だった。
思わず立ち上がって聡がいつもの席に来るのを待った。
「悪い。ちょっと寄る所があってさ。」
「それにしても一言ぐらい言ってからでも良かったんじゃないの?」
私は座りながら聡に文句を言った。
「これ買ってきたんだよ。」
聡は小さな白い袋を持っていた。その袋から中を出すと私に見せた。
それは今人気のブランドのネックレスだった。
「ちょっと早いけどメリークリスマス。」
「ありがとう。最初はね、また私に黙って海外に行っちゃったと思ったの。
でも嬉しいな。これで聡からプレゼントしてもらったのって何個位だろうね。」
そこへ関根さんが来て、
「美加ちゃん、それ尾山君からのクリスマスプレゼント?」
「うん、だからさっきいなかったの。」
「僕ももうそろそろ嫁さんとすみれにクリスマスプレゼント買わないとな。」
そう言うとさっき聡が関根さんと話してた時に注文したと思う
ビールをテーブルに置いた。
「あっ、それとうちの店でカウントダウンパーティーを
よく来てくれてるお客さんだけでするからぜひ来てよ。これ、招待状。」
ポケットから封筒を出して聡に渡してくれた。
「ありがとう。絶対来るから。」
「そうだな。会社も28日から年末年始の休みに入るし。」
今年も色々あったなぁ。
結婚記念日に私の訳のわからない病気、そして何より大きいのは
聡が私に黙ってシラクに行ってしまった事だな。
関根さんが私達の席から離れると買い損ねた
クリスマスのオーナメントの話になった。
「さっき買い損ねちゃったけどクリスマスの飾りだけでも買っていこうよ。」
「注文した樹の大きさを実際に見てみないとどれだけ買えばいいか
わかんないぞ。」
「ちょっとだけ。ね、お願い。」
「最近、お前って甘えやすくなってきたな。」
そっかなぁ。そんな事ないと思うけど。
「だってさ、ここの映画館で再会して付き合い始めようって俺が言った時なんて
絶対しないっていいまくってただろ。会社では仕事、仕事で後輩も増えたし。」
言われてみれば名前も覚えてない子が増えてきたかもしれない。
派遣会社に初めて登録したって子も多かったし。
それなりの歳になったんだけどなぁ。