電車と地下鉄を乗り継いで会社に戻っていると悪寒を感じた。
マズい。ストール一枚で来たのが良くなかったのかもしれない。
私って子供体質だから、ちょっとでも冷たい風にあたるとすぐに熱を出してしまう。
下手したら明日休まなきゃいけなくなるかもしれない。
部長に電話して病院に行こうかな…。でもなぁ他のアホどもは何か絶対言ってくるだろうしな。
会社に着いた時は寒いんだか暑いんだか分からない状態になっていた。
「ただいま、戻りました。」
挨拶をして自分のデスクに座ったけど寒気がドンドン膨れ上がって来る。
菜々が、
「ちょっと、あんた顔色真っ青よ。大丈夫?」
「う、うん。」
声まで震えてしまう。
「医務室行きなさいよ。部長には言っとくから。」
「大丈夫。」
菜々は腰に手をやって、
「それで酷くなって休む日が続いてもいいの?」
それを言われたら行かざるを得ない。
私も部長に体調が悪い事を告げて医務室に向かった。
そこは地下2階にあってほとんどの人が立ち寄らない様な場所だった。
ノックをして医務室に入る。
そこには髪を上げている女の人が座って煙草を吸っていた。
…。医務室で煙草はマズいんじゃないだろうか。
そんな事を思ったけど、口には出さなかった。
「すみません。マーケティング部の派遣社員の近藤と申しますが、熱っぽいので
体温計をお借りしてもいいでしょうか。」
よくよくその女の人を見るとかなりの美人だった。
「熱を測らなくても、顔色を見たらわかるわよ。熱が絶対あるからここで少し休んで行きなさい。」
「でも仕事が…。」
「部長には私から言っとくから。」
「ありがとうございます。」
体温計を借りて熱を測ると38℃は軽く超えていた。熱を体温計で測って実際の熱を見ると
余計体調が悪く感じてしまうのは何故だろう。
そう思いながらベットに横になっていたらいつの間にか寝てしまっていた。
目を覚ましたのは聡が医務室に来たからだった。
心配そうな顔をして私が横になってるベットの隣に椅子を置いて私を見ている。
「大丈夫か?熱出したんだって?」
「うん。でも大丈夫。今日、24時間で開いてる病院に行って来るから。」
「ごめん。こんなに寒いのに書類を届けさせて。」
「いいのよ、薄着で行った私も悪いんだから。仕事は?」
聡は私に腕時計を見せると、
「もう皆帰ったよ。」
8時近くになっていた。私、そんなに寝てたんだ。
「送るよ。メシだって自分じゃ作れないだろうから。」
「本当に平気。ちゃんと病院も行くから。」
それでも聡は病院まで付き添ってくれた。
診察してくれた先生は、
「風邪ですね。抗生物質と解熱剤を出しときますから。それと少し脱水症状が出てますから
点滴をしていって下さい。」
と診察結果を教えてくれた。
私が点滴を受けてる時も聡は帰ろうとせず、薄暗くなっている待合室で待っていてくれた。
結局、家まで送ってくれて途中でコンビニに寄り、おかゆとかスポーツドリンクを買ってくれた。
私がベットに潜りこんでいると、聡は慣れない手つきでおかゆを温めて、簡単なサラダを作ってくれた。
「美加、少しでも腹に何か入れてないと薬を飲めないから食えよ。」
「食欲ない。」
「空の胃に薬はマズいだろ。少しでいいから食えよ。」
私は何重にも着込んだ服にはんてんを着て、聡が作ってくれたおかゆを食べた。
それでも半分ぐらい食べたら、もう食べるのに限界を感じた。
「もういい。」
「半分しか食ってないじゃないか。」
「でも少しは食べたでしょ?薬を飲んで寝てるから聡は帰ってもいいよ。
明日もそのスーツで出勤してきたら皆に何か言われるでしょ。」
渋々腰を上げた聡は、
「明日、しんどかったら休んでもいいんだからな。」
私のおでこに手をやって言って帰っていった。