The Movie 34話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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私は昨日買ったアーツ&サイエンスのストールをして出勤した。


今日は風が強くて寒い。


会社に着くとホッとした。暖房が効いていて暖かったから。


ストールを椅子の背もたれに掛ける様に置いていたら、出勤してきた秀美ちゃんがストールの袖を


持って、なにやら興奮している。


「近藤さん、これってもしかしてアーツ&サイエンスの新作ですか?」


「よくわかったわね。」


「雑誌に載ってましたから。高かったでしょう。」


「まぁ…。いつも仕事をしてるご褒美よ。」


「ご褒美だとしても自分じゃ買えませんよ。係長に買ってもらったんですか?」


あくまでも私と聡の事を話題に出したいらしい。


「違う、違う。自分で買ったの。係長も値段見て驚いてたみたいだけど。」


その簡単な答えに素早く反応するのが秀美ちゃんなんだなぁ。


「って事は昨日はデートですか?」


「それもあったけど、共通の知人が事故にあってね。そのお見舞いに行ったあと買ったの。」


良子ちゃんと菜々の事を話そうかなって思ったけど、プライベートな話だから辞めておいた。


それから続々と皆が出勤してきたから秀美ちゃんは自分のデスクに戻った。


そう言えば今日、フランスの会社との取引の打ち合わせとか言ってたな。


私は行かないって言ったけど、私がいなくても聡だってフランス語喋れるんだから大丈夫だろう。


聡は慌ただしく書類のチェックとかして、ホワイトボードに貼ってある出勤表のプレートを


裏にして会社を出て行った。会社にいる時は赤い方のプレートを見せておいて


外出中の時は白い方のプレートにしているのだ。


聡が出て行ったあと菜々がコーヒーを2つ持って私の元へ来た。


1つを私に渡しながら、


「今日は係長と同行しないの?」


「あの人はフランス語喋れるから。」


「でも前の係長とは大違いね。自分から率先して取引会社を開拓してくるし、


そこでの打ち合わせも自分でするし。これじゃぁ人事部の部長が気にいるのもわかるわ。」


私は菜々からもらったコーヒーをすすりながら、黙っていた。


「あんたもスキルがいっぱいあるんだから係長みたいに社員になったらいいのに。」


私の答えはこうだった。


「定時で帰って、時給2000円で、毎週水曜日を休みにしてくれる会社があると思う?」


「まぁ時給の事はあんたの仕事ぶりを見たら出すだろうけど、定時で帰るうえに


毎週水曜に休みをくれるとこはないかもね」


「でしょ?それで?昨日は良子ちゃんの服は無事選べたの?」


「あの子25なのに、服代まで出させたのよ。自分だってバイトとはいえ自分で買えばいいのに。


それもトゥエンティカラットのコート。1万9000円近くしたんだから。」


私には姉弟がいない。そんな風に一緒に買い物に行けるのは羨ましい事だった。


でも実際に妹とか弟がいたら、服とか買って欲しいとか言われるのかなぁ。


もし聡と結婚するなら一人っ子じゃない方がいいな。


一人っ子は寂しいから。


その分想像力が付いたってのはあるけど。「もし突然お兄ちゃんが出来たら」とか


「もしクラスの皆が女の子だけになったら」とか色々考えてたなぁ。


「まぁ仲がいい姉妹でいいじゃない。」


「これ以上、ぼったくられるのはごめんよ。」


そう言って私のデスクから離れて行った。もしかしたら菜々は良子ちゃんに服を買わされた事を


愚痴りに来たのかもしれない。


その位の愚痴だったら笑って聞く事は出来るけど、社員の人達が言う、


「彼女だからって特別扱いですか~。」


「今日もご一緒にお帰りですか。」


とか低レベルな愚痴には付いていけない。いちいち相手にしてたらこっちが疲れちゃう。