The Movie 17話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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私は会員専用のレーンに並んでチケットを買った。


当然、そこには聡子ちゃんがいる。


聡子ちゃんはにっこり笑って、


「近藤さん、『いつまでも』でいいですよね。」


「…。はい。」


ポイントカードと私にしては痛いいつもより800円高いチケット代を聡子ちゃんに渡して


チケットを受け取った。席は12列目の10番だった。


「勉強してきます。」


私はお辞儀してシアター室に向かった。その前に映画を観ながら飲むアイスコーヒーはいつもだったら


買うんだけど、今日は800円も高いチケットを買ったから辞めておいた。


派遣社員にとって800円って時給の半分近くになるんだよね。


映画を観始めて30分でこの映画にして後悔した。


だいたい、教室でクラスメートの前でキスなんて普通する?


私の年代だとあり得ない。お客さんを見ると私より全然年下の子が多いみたいだし。


映画って現実離れしたものってわかってはいるけど、この映画はあまりにも現実離れし過ぎてる。


パンフどうしよう。出演者も若い子に人気の子ばっかりだし。


主役の男の子からして男の子ばっかりの事務所で最近人気がある子だから、私なんて全然わかんない。


後半なんて眠くなってきた。笹原さんにあくびをする人とは映画を観たくないなんて偉そうな事言えない。


いつもだったら映画を観てると時間なんてあっという間に感じるんだけど、


今回は完全に失敗だ。長く感じてしまう。


客観的に観ちゃうから、男の子が転校してしまう女の子を走って追いかけるシーンなんて


『急ぐならタクシー使うとか電車使うかしたらいいのに』


って思っちゃった。都合よく二人が結ばれるシーンなんて桜が舞ってるし。


今は秋だっちゅ~ねん。この映画だったらいくらでも文句が言えそう。


聡子ちゃんには悪いけど逆効果だったな。800円無駄になってしまった。


たかが800円にこだわる私も私だけど。でも800円あったら関根さんの店でランチは食べれる。


あ…。今日関根さんの店に寄るのどうしよう。


あとでポイントカード見て決めよう。でも関根さんとこの映画の話もしたいしな。


ダメだ。雑念ばっかり頭に入ってきて映画に集中出来ない。


ようやく映画が終わった時、他のお客さんは、


「あんな彼氏は欲しい~。」とか


「あれだけ自分の為に走ってくれるなんて感動しちゃった。」とか言ってる声が聞こえたけど


全く共感できなかった。


パンフレット売り場には聡子ちゃんが待ってましたとばかりに笑顔で立っていた。


「どうでした?勉強になりました?」


「聡子ちゃんには悪いけど、反面映画だった。だいたいクラスメートの前でキスなんてする?


私だったら考えられない。」


「だからその辺を勉強するんですよ。他の人の視線も気にならない程、その人の事が好きになる


感情とか。そういうのってありません?」


聡子ちゃんには悪いけど私は首を振った。


「ないわね~。」


残念そうな顔をした聡子ちゃんは、


「じゃぁ今度は大人向けの恋愛映画探しときます。それ観て下さい。」


「あくまでも恋愛映画を観て欲しいのね。」


「近藤さんはバリバリのキャリア・ウーマンかもしれませんけど、こっち関係は疎そうですからね。


それで、パンフレットはどうしますか?」


私は悩んだ末に、


「一応買っとく。家でよく読んでみるから。いくら?」


「900円です。」


えっ?そんなに高いの?大体700円か800円じゃないの。


買うと言ってしまった手前、渋々1000円札を出してそのパンフレットを受け取った。


「また来て下さいね。」


という聡子ちゃんの声を背に私は映画館を後にした。